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第捌話《惑》

 がらっと教室の扉を開けるといきなり文香ちゃんは大きな声で挨拶をした。

「せんせーこんにちはっ! それと、今日はあたらしいお友達を連れてきましたー!!」

 わーっとこっちを見るのは小学生に幼稚園児、あと明らかに中高生に見える生徒もちらほらいたりもする。そんな年齢もバラバラな子供たちが教室のあちこちに分散して遊んだり、談笑したりしている。

「おや、どうしたのかな文香ちゃん」

 そのなかでもひときわ目立ったのはこの、やさしそうに微笑むムキムキのおじさん。

 教壇で読書をしている、どうやらこの人が先生らしい。

「おお、あたらしい子か、いらっしゃい……ええと、名前は何君かな?」

 先生はそういうと教卓の引き出しから黒っぽい手帳を取り出した――出席簿、か。

「ええと、斎藤シンです」

「む? そんな子はいないはずだが……おかしいな」

 あ、これでたらめな名前じゃダメなのか、どうしよう……。

「先生、そこのシン君は今日初めて来た子だし別に名前が載ってなくても不思議じゃじゃなくないんですか?」

 窓際で水彩画を描いていた男の子が絵筆を止めぬままこちらに反応した。

「ま、まあ多分ミスか見落としか……冥界に来た子の名前は全部ここに書かれるはずだからありえないんだけどなあ。うむ、ここでは何をするもよし、みんなと仲良くして、迷惑を掛けなければ大丈夫。わかったかい?」

「わ、わかりました」

「それでよし! ……はいはい、みんなもう一度前に注目(先生は柏手を打った)、改めて今日からクラスメイトになったシン君だ、一員として温かく迎え入れてあげなさい」

 たくさんの元気な声に迎えられ、戸惑いを隠せないが急に出来たクラスメイト達を見る限り悪そうな奴は……いた。

 なんか絶対ヤンキーの抗争のさなか事故ったりでもしたんだろうか……みたいないかにもガラの悪そうな派手な格好の赤髪の女子が。後ろドア側の席に。

 でも、年齢層がバラバラなせいか小学生相手に悪い格好を示してはならないと良心が疼いたのだろうか……こういう界隈の人間特有、机の上に座ったり、なんてことはしていない。

 全員は無理だろうがせめて数人……せいぜい仲良くやるっきゃないかな。


 とはいえ、ここに来る機会もそんなに多いものではないだろう。ムクゲはこうも言っていた。


『──そちには生ある世界で彷徨ってしまっている、いわば幽霊状態の死者の魂を説得し、無事にこちらの世界へ来れるようにするという任務を請け負ってほしい』


 生ある世界、つまりは現世に戻って霊の除去をしろ、ということだろうか。


 まあそれはさておき文香ちゃんが大事なものがあると招待してくれたのだから、この子の飽きるまで付き合ってあげよう。


 僕は文香ちゃんに連れられ、大事なものがあるという別の教室の前に来ていた。

 この教室はどうやら物をしまったり飾ったりしている『教材室』……でも壁に絵が飾ってあったりするので一見美術室っぽくもある。

 文香ちゃんが中に入り、僕は教室の前で文香ちゃんがその大事なものを持ってくるのを待っていた。


 と、どうやら文香ちゃんは何か──トレー? を大事そうに抱えてこちらへ来ようとしている。

「そうそう、わたしの宝物はこれなの……きゃっ!!」


 文香ちゃんは悲鳴を上げて尻もちをついた。横から廊下で追いかけっこをしている男の子たちのひとりが文香ちゃんが出てくる扉の前まで走ってきていて、間に合わず突っ込んでしまったのだ。


「大丈夫!?」

「うん……へいき」

 文香ちゃんは特にすりむいたり打撲もしてはいないよう。

「ごめんな文香姉ちゃん」

「うん、いいよ……でも次からは気をつけなさいよ!」

 男の子の文香ちゃんに対しての呼び方が気になってつい口に出てしまった。

「姉……?」

「あ、それはね……私が姉貴分でこいつが弟分ってだけ」

 義理の家族的な? それともたんに下僕的な意味か、よくわからないけどそういうのがあるんだな……。


「というかピース? がいっぱい散らばっちゃったな」

 どうやらトレーに入っていたのはジグソーパズルのピースのよう。


 さっきの男子も一緒に手伝うと言い出し、僕と文香ちゃんとその子で教室の入り口と廊下に散乱したそれらを拾い集めることになった。


「どうせだからここでジグソー完成させない?」

「なに、そうしたいのあんたは? かけっこはどうするのよ」

「ま、いっかなって思って」

「そ、じゃあこの教室でジグソーやるわよ」

 見つけがてらはめていくという弟君のアイデア通り、ピースを拾う係とはめる係に分かれてやることになった。


 僕と弟君が拾う係で、姉御文香ちゃんがはめる係。

 作業効率も良い感じでだんだんとジグソーは出来上がっていった。


 しかし……ジグソーが出来上がろうとしていたそのとき、ある問題が発生したのだった。


 まだ嵌めてはいないピースの数と明らかに残りの空白の出来ている部分を比べても、後者のほうが多い。

 ──ピースが、幾つか足りないのだ。

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