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第陸話《狂》

「──ここを覚えているじゃろ」


「はい、一番最初に来た場所ですよね」

 そこは──この神社に聳え立つ大きな木々に挟まれた大鳥居だ。

 そしてそこはこの神社への入口でもあった。入口というのはただの入口でなく、何故だか鳥居のあたりでこちら側の世界へ飛んできたところでもあるわけだが、今回は通り過ぎたところで問題はなかった。その鳥居のすぐ先には段差ができていたため思わず足を止める。

 神殿のある方向とは逆の、長く続いた石段を下まで見渡すと、靄で霞んだ世界のなかにいくつかの家が立ち並び、少なからず人が暮らしているのは見て取れる。

 この世界に来たときはまだ霧が濃く何も見えなかったので、初めて見る光景に目を瞬かせた。

「そこに住んでいる者はの、あの世に行きそびれた者達の集いなのじゃ。だいたい彼らはそちと似たり寄った事情を持ち合わせているわけじゃ。きっと仲良くできるじゃろうな。ただ、そちの場合は来た時に申した通りちょっとばかし事情が複雑なのじゃがな……まあよい、ではこの山の麓まで行くとしよう」

 そう言うと狐の神様──ムクゲは石段へと歩き始めた。

 眼下に広がる白い霧のなかの世界の眺望と輝く黄金色のコントラストの美しさに思わず嘆息した。ムクゲの後ろ姿は白によく映えたのだ。



「ムクゲ……さん」

「今度はなんじゃ」

「なにか落としましたよ?」

 というのも、ムクゲはその巫女服の何処かから何か白い包みを取り出したかと思うと石段の脇にそれを落下させたからだ。

「その包みは何処かにやっておけばいいものじゃ。気にするでない。……それと」

 ムクゲの石段を下りる足が止まる。ムクゲに合わせて少年もその場で立ち止まった。

「そちはずうっと堅苦しいままじゃの」

「それは確かに」

「2日3日知り合った相手を気軽に呼ぶのも気が引けるようじゃ相当駄目じゃの」

「そうですか……」

「人生2週目をはや知っておいてその中でも苦労するなど、大いに愚」

 え、今日のムクゲさん辛辣……?

「しかし、相手は神じゃのう……その心掛けは間違いではないと言えるべきじゃ、お主は自信を持っていいのじゃぞ?」

 数段か下のほうで下りる足を進めるムクゲは僕をそう評する。これは叱られているのか、それとも褒められているのか……。


 石段を下りた先にはさきほどムクゲの言っていたとおり、山の麓のさとがあった。

 人が普通に暮らしている様子を見ると、なんだか気分が晴れてくるようだ。それもこれまでムクゲと二人きりだったわけで。まあそれも悪くはなかった……ように思うけど。


「そこの皆の衆、聞くが良い」

 ムクゲは声で一斉に振り向いた人々の顔をひとりひとり見つめている。

「おー! ムクゲ様じゃねぇか」

「まだまだ元気そうで何よりだ」

「そこの子はここに来るのは初めてかしら? 若いのに可哀想ねえ」

 郷に暮らす人々は口々に挨拶やら何かを返していく。またムクゲの声で集まったと同時に注目がムクゲから少年に移っていく度、同情のセリフばかりが寄せられる。げっ。

 数人集まったところでムクゲはひとつ集めた理由の連絡事項を述べた。

「ここ冥界入りしたこの子についてじゃ。多々分からぬことはあるじゃろうから、皆親切にしてやって欲しい」

「そうね、皆助け合いで出来ているのよこの郷はね」


「分かったぜ! この坊主、賢そうだしうちの商店を手伝って欲しいわな」


「ほれ、行ってくるのじゃ」

 また昼時に会う約束をして、とりあえず商店のおじさんの手伝いをするためついて行った。


「ありがとよ坊主、助かったぜ」

「いえいえ」

 手伝ったこの商店は雑貨品を扱ったりしている。そのため、主に商品の補充だったり店の掃除を任されたりしたわけだ。

 神社からほど近いこともあってなんだか狐のグッズが多いな、と思ったら……


「ほら、あのムクゲ様の実物大マネキンだ」

「うわ!?」

 溢れ出る本物感に本気度がわかる。

「これ、売れるんです?」

「それがなぁ、コアなマニアがいるもんでさ」

 その人絶対前世ケモナーだろ。百中百で。

「それはそうと、欲しいのがあればひとつ持って行ってもいいぞ? 手伝ってくれたお礼だ」

 おじさんは胸をドン、と叩くと俺にその数あるムクゲグッズを選ばせてくれた。

「……じゃ、これで」

 アクキーを貰っておいた。なんか鞄でも買って付けようかな。


「また時間あったら手伝いに来てくれよなー!」

 おっさんは見送る。

「ではまたいつか!」


 その後数件の手伝いをしたりするうち、いい時間になってきたのでそろそろ目的の場所へ向かうことにした。


(いるかな?)

 カフェの前で待ち合わせと言っていたのでそろそろなはずで。

 時間通りならいるはず……いた。

カフェのすぐ脇で佇む姿はあまりにはっきりとわかる上、道を往く沢山の人が皆そちらに向いているわけで……

 これは相当な人気がありそうだ。あのおじさんの商売が忙しくなるなそりゃ。

 そんな人気の神様は少年の存在に気づくと彼に向かって一瞥した。


(あ、待てグッズ隠しとかなくちゃ)

本人の前でグッズ付けるとかなんか気まずいから慌てて鞄から取って中にしまった。セーフ。ちなみに今持っている肩掛け鞄は郷のお婆さんの店で買ったものだ。

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