僕と明日美と母さん 6
そんな明日美の様子を見た母さんは、
「明日美ちゃんも話しかけてみる? もしかしたら、あっちで自分のせいで傷つけたかもって思って、心配してるかもしれないし」
自分と同じように父さんに話す機会を作った。
明日美はその言葉を待っていたらしく、迷うことなく頷く。
そして、僕が繋いでた手を離し、一歩前へと出る。
「あの……お母さん、もう一回だけ許してもらってもいいですか?」
「何を?」
「謝罪することに対してです。これからはなるべく言わないようにします。絶対とは言い切れないけど……それでも、ここをケジメとして辞めるから……最後に謝らせてください」
「それはいいわよ。でも、そこまでして絶対ってわけじゃないから」
「いえ、やっぱりけじめは大事だと思うので……」
「そう言うなら……」
母さんはちょっとだけ苦笑していた。
明日美がここまで真面目だと思っていなかったのだろう。
僕もまた困ったように肩をすくめる。
そんな僕たちの反応のことなど気にしていないかのように、明日美は父さんの遺影に向かって離し始める。
「あの……透くんとお付き合いさせてもらってます。えっと……幼い頃からそういう気持ちがあって、ようやく想いが叶ったんです。その報告をさせてもらいますね。あと……ごめんなさい。私が原因で家族と離れ離れにさせてしまって。透くんのお母さんにも寂しい思いさせてしまって……痛い思いも……恨まれても仕方ないと思ってます。お父さんに認められなくて、何かが原因で別れる羽目になったとしても恨みません。だからーー」
僕は明日美の頭を軽くだが叩く。
なにが起きたか分からない明日美は言葉を止めた後、僕の方を思いっきり睨みつけてきていた。
言葉の邪魔をされたことに対しての不満をぶつけてきている目だった。
しかし、不満を持ったのは僕もだった。
「何が『認められなくて、別れる羽目になったとしても』なんだよ。父さんがそんなことを望むはずがないだろ。望んだところで僕が簡単に別れると思わないでよ。正直、自分の気持ちしか考えてなくてイラってきた。だから止めたんだ、分かるでしょ?」
「で、でも! 私だってそれぐらいの覚悟がーー」
「そんなの覚悟なんてしないでよ。するなら、『別れるぐらいの試練が来たとしても、二人で乗り越えます。父さんに認められるまで。幸せになってみせます』だろ」
「それはそうだけど……」
「今さら亡くなった人の意見なんて聞いたってしょうがないんだ。今を生きてる僕たちが幸せにならなくてどうするのさ」
「……そうだよね、ごめん。言い直しても大丈夫かな?」
「いいよ。たぶん許してくれるだろうし。あと、遮ってごめん」
僕はそう言って、叩いた箇所を撫でる。
明日美はそれを受け止めながら、不思議そうな顔をしていた。
その顔を僕は見たことがあった。
それはあの初めて会った時に僕に見せた表情。まるであの時に感じたものを再び感じたかのような反応だった。
「また何か感じた?」
「え、あ……うん。なんとなく、透のお父さんに頭を撫でてもらった感覚が……きっと透と同じことを言おうとしてたのかな?」
「さあ? そうなんじゃないの? ともかく言い直したら? やっぱり明日美の口から聞きたいだろうし……」
「うん、そうだね」
明日美は再び父さんの遺影へ顔を向ける。
「ごめんなさい、訂正します。何があっても別れません。どんなことがあっても。だから見守っててください。お願いします!」
そう言って、明日美は深々と頭を下げる。
僕もなんとなくそれに従い、明日美ほどではないが軽く頭を下げた。
なんなんだろう、この違和感。
そう僕の中にある違和感があった。
変な違和感ではない。心地よいものではあるのだが、明日美の発言的に何かマズいことを言ってしまったような感覚。
ふと、そこで母さんの軽い笑いが耳に入ってくる。
今まで我慢していたかのような感じで吹き出してから笑っていた。
思わず、僕と明日美の視線は母さんの方へ向く。
「二人とも、付き合い始めたばかりなのに、なんで結婚する流れみたいになってるの? さすがの母さんもそこまで許した覚えはないわよ。まだ」
そこで僕たちの仕出かしてしまった過ちに気付く。
遠回しになってしまったが、『別れないように頑張る』っていうことは、最後に行き着くところは結婚ということに。
しかも、明日美自身が勝手に言ったのではなく、僕自身もそれをいつの間にか公認する形で言ってしまっている。
だから、言葉の綾などで終わるはずもない。
さらに母さんの追撃は続く。
「それに明日美ちゃん、透のこと呼ぶ捨てにしてたし……。普段は呼び捨てで呼んでることも分かったわ。あと、急にシリアスになって、頭も撫で始めるし……。せめて、親がいるところでは自重しなさいよ」
そこまで言われて、僕たちは一つのネタとして母さんにイジられるものを提供してしまったことにも気付く。
恥ずかしすぎるッ!
真面目になりすぎたせいで、まさかこんな羽目になるとは思っていなかったため、僕は体温が上がるぐらい顔を赤くすることしか出来なくなってしまっていた。
それは明日美も同じだった。
自分がやらかしてしまったことに対し、どうしようもない恥ずかしさを感じているらしく、視線が安定していなかった。




