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僕と明日美と母さん 2

「ただいま」


 僕は玄関に入るなり、普段よりも少しだけ僕は大きな声で言葉を発した。

 普段より大きく出したのは、母さんに明日美を連れてきたことを知らせるためである。家のどこにいるのか分からない以上、こうやって存在を知らせておかないと変な風に驚かせてしまうことを考慮してのことだ。それでなくても、普段から僕がこうやって帰宅した時も気付かない時があり、驚かせてしまうことが多々あるため、なおさら今回に関してはこれが重要だと思う。


「お、お邪魔します」


 間髪入れずに明日美が普段よりも小さい声でそう言って、玄関の中に入ってくる。

 やはり普段より緊張していることが十分に分かり、確認のために後ろを向くと、明日美は僕を睨んでいた。

 どうやら扉を開ける確認をせずに無理矢理開けたことに対し、不満を持っているらしい。

 しかし、そんなことを確認したところで不安をさらに煽るだけのものであることは変わらない。だから間違っていない行動だと思っている僕は、その不満を無視することにした。


「おかえり。いらっしゃい」


 ほんの少し間が空いてから、リビングの方からドタバタと歩いてくる母さんが視界に入ってくる。

 こちらもまた少し緊張しているらしく、普段より動きがほんの少しだけぎこちない気がした。


「いらっしゃい、北山さん。上がって上がって!」


 玄関に辿り着くなり、母さんは完全に僕のことを無視し、明日美へと話しかけ始める。

 なんとなく寂しい気がしたが、母さんなりに明日美のことを気遣っているのだろう。

 いきなり自分へと話しかけられると思ってなかった明日美は、反応に困ったように僕をチラチラと見てきたため、


「うん、上がっていいんじゃない。母さんもこう言ってることだし」


 そう言って、僕より先に上がらせるために少しだけ身体をずらす。


「う……はい、お邪魔します」


 二人の指示に従うように明日美はいつものようにーー初めて僕の家にきた時のように礼儀正しく靴を脱いだ。

 最近では僕の家に慣れてきているせいもあったのか、雑ではないがそれなりに手早く脱いでいたのだがそんな様子が微塵も感じ取れなくて、ちょっとだけ僕も驚きを隠せなかった。

 その様子を見ていた母さんも、


「若いのにちゃんとやれるってすごいわね。透とは大違い。やっぱり北山さんの躾がいいのかな?」


 などと比較し始める始末。


「そ、そんなことないですよ! 普通です、普通! とおーー滝本くんもやればできる子ですから!」

「透……。名前で呼び合う仲にもなってたのね」

「え……あ、あのッ!」

「大丈夫大丈夫。普段通りでいいからね。ねぇ、透?」


 まるでからかうネタが見つかったかのように、母さんは僕に話を振ってくる。

 もちろん、その言い方が問題なんだけどさ。

 つまり普段通りの呼び方を許してしまったら、明日美は僕のことを呼び捨てにしている。さすがに母さんの前でそんなことが許されるはずもなく……。

 案の定、明日美は困ったように僕のことをチラチラと見てくる。

 どうやら、呼び方に対しての答えを待っているらしい。


「いつも通り、名前に『君付け』でいいんじゃない? 母さんもそう言ってることだし」


 どう考えても、この呼び方がしっくりくることは間違いないため、そう提案をしとく。あとは明日美がそれを違和感なく言えるかどうかの問題があるだが、なんとかしてくれることを望むしかない。

 その言い方に明日美はハッとしたようで、


「じゃあ、言葉に甘えて透くんって呼ばせてもらっても……いいですか?」


 母さんへ確認するように、おそるおそる尋ねる。


「普段通りの方が北山さんも話しやすいと思うしね。それじゃあ、さっそくだけどリビングで話しましょうか」

「あ、は……はい……」

「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。とって食おうってわけじゃないんだしね」

「え……で、でも……やっぱり緊張しちゃいます。透くんのお母さんと話してるわけですし」

「そんなに緊張してたら、私も逆に緊張しちゃうわよ。どんなことを話されるのか分からないんだから」


 母さんのその言い方は意味深に僕は感じた。

 きっと明日美がこれから先言ってきそうな言葉を、ある程度想像しているのだろう。だから、その点が不安なんだと思う。

 それは僕も同じだった。

 明日美がどんなことを話し始めるのか、ある程度想像はつく。だからこそ、明日美のこれからの言動にも不安があるし、母さんの言動にも不安は隠せない。


 きっと何かあれば、僕はお互いをカバーをする立場にいないといけないのだと思う。けれど、それが務まるのかどうか不安になり始めてしまっていた。

 きっとそれが原因のせいだろう。

 変な使命感を感じ始めたせいで胃が痛くなって来たという感覚が襲いかかってくる。二人の方がもっとキツいということは分かっているのに。


「とりあえず玄関で話してもしょうがないから、リングに行きましょう。詳しい話はそこで話しましょうか」


 母さんはそれだけ言って、先に歩き始める。

 明日美は「はい」と答えた後、一瞬振り返った後、母さんの後を付いて行く。

 僕も二人の後を追う。

 決戦の場であるリビングへと……。


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