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バレて…… 1

 なちゅさんの枠を見てから、一週間経った。

 つまり二月に入り、僕たちは自由登校になっている。

 学校最後の期末テストの結果はそこまで悪いものではなかった。一応、有終の美は飾れたと言っても問題はないものの、最終日のテストだけ他のテストと比べるとボロボロになってしまった。それでも明日美は労ってくれるぐらいには良い点数だったのが救いだった。


 そして、あれから僕は明日美となちゅさんの間で気持ちが行ったり来たりしている。

 もちろん、恋愛感情という意味ではない。

 配信の優先順位に近いものでは、という意味だ。

 少なくともこの一週間はうまく立ち回っていると思う。


 結局、お互いに配信をする日としない日がある。

 そこを付いて、なちゅさんの配信を見に行ってるだけで、基本的には明日美が配信をする日はもちろん明日美の方の配信を見ている。

 ()()()()()偶然にも被る日がない。

 そこが僕にとっての救いというところだった。


 他人(ひと)はこういう人間のところを八方美人というのだろう。

 誰が一番大事なのかを分かってても、選べないのだから。

 両方に良い顔をして、両方に好かれたいと思っている以上は。

 それに、明日美が気付いた素振りを見せないからこそ、それに甘えているというのも分かっている。


 もし気付いた素振りの一つでも見せてくれたり、追求したりしてくれれば、きっと僕はもう選んでいるのだろう。

 そこすらもきっと甘えていて、自分が答えを出せない要因の一つでもある。

 ここまでくれば、もはやため息の一つも出ない。出しつくしてしまったというレベルでこの一週間、独りでいる時に出してきたから。


 そんな僕は明日美と一緒にいる。

 今日は配信をする日だからだ。

 ただ、まだ配信はしていない。

 その準備のためにネタや画像、BGMを探しているという状態。


 その間も明日美は僕に楽しそうに話しかけてくれている。

 僕も心は闇に沈んだ状態だが、ほとんど聞き専に徹しているため、なんとかなってる状態だ。

 もともと女性は自分の話を聞いて欲しいという気持ちがあるからこそ、それを利用しているだけに過ぎないのだが、これで上手くいくのならそれはそれでいいのかもしれない。


 そう、この時はまだ僕はそう思っていた。

 明日美がこの言葉を口に出すまでは……。


「ねぇ、透。ちょっとだけ聞きたいことがあるんだけどいい?」


 パソコンの画面から目を離さず、明日美はマウスを動かす手を止めた。

 先ほどまで楽しそうに話し、マウスをカチカチと鳴らし、時には動画から流れていた音楽までもが止まり、一気に静かになる。

 なんとなく重い話だと理解はしていたが、僕はあくまで平然を務め、明日美に尋ねた。


「どうしたの?」

「最近、様子おかしいけどどうかしたの?」


 跳ね上がる心臓。

 けれど、まだ確証に至ってはないため、誤魔化せるはず!

 そう思い、僕は質問を質問で返す。


「そう、かな? そんなことないと思うけど。明日美こそ急に真面目になってどうしたの?」

「真面目か〜。なるに決まってるよね」

「なんで?」

「透の心がここにはない感じがするから?」

「……そんなことないよ」

「私の話題に乗っかってくる素振りが全くないの気付いてる?」

「……そう?」


 再び僕の心臓が高鳴る。

 身体からも悪い予感が走り始め、嫌な汗が出始めてくるのが分かった。

 しかし、それでも素直になれない僕は誤魔化すことしか出来ない。


「そうだよ。彼女なんだよ? 気付いてないと思う?」

「女の勘ってやつ?」

「そうかもね。女の勘ってやつかも。だからこそ不安になるの。いちいち言わなかったけど、私が会うたびに不安になってたの、気付いていた?」


 明日美はようやくここでパソコン用の椅子を回転させ、僕の方へ顔を向ける。

 涙目だった。

 僕の発言次第で、その涙は簡単に溢れそうなほどに悲しい目になっていた。

 そこで、今まで僕のためにポーカーフェイスを作っていたことにも気付く。


 それに気付かないほど、僕は自分のことを考えていなかったことにも気付かされた。

 しかし、僕はそれでも言うことが出来ない。

 だって、傷付けてしまうのが分かっているから。

 お互いのためにならないから。


 それじゃあ、どうするのか?

 明日美に言わず、なちゅさんの枠に行かないことを選ぶしかない。

 真偽なんてしなくても、それだけで済む話なのだから。

 そう思っていた矢先ーー。


「もしかして浮気してる?」


 明日美から放たれる僕が今一番聞きたくない言葉。

 身体とかではなく、心の浮気に近いことを認識しているからこそ、僕の中に重くのし掛かってきた。

 けれど、そんなこと正直に言えるはずもなく、


「そんなことするわけないじゃん。浮気なんかしてないよ」


 そうやって誤魔化す。

 最低すぎて、僕まで泣きたくなってしまう。

 そんな権利なんてないのに……。


「うん、そうだよね。それは分かってるの。でもね、それを言いたくなるぐらい、私は不安なの」

「分かってるよ。僕がそうさせてるのも」

「……あは、自覚あるんだ」

「ないわけじゃないからさ。そんな明日美の顔見てたら分かるよ」


 勉強用の椅子に座っていた僕は立ち上がり、明日美に近寄ろうとする。


「来ないでよ。まだ話し終わってないから」


 そう言って拒否されてしまう。

 拒否をされてしまっては僕は何もすることは出来ず、再び椅子に座ることしか出来ない。

 心臓が痛いのか、それとも心が痛いのか分からないけれど、そんな痛みが襲ってきた。


「ごめん。僕が今の明日美に何かしてあげること、何にもないんだね……」

「じゃあ、好きって言ってーー」

「好きだよ」

「早すぎ。言い終わってないじゃん」

「それは本当だから」

「そっか……。すぐに答えられるほど、私への気持ちは本当なんだ」

「うん、間違いなく」

「じゃあ、私となちゅさん。どっちが好き?」

「……ッ!」


 世界が止まった。

 僕の心は崩れた。

 目の前がグルグルと回り始めたような気がして、椅子に深く身体を預けざるをえない羽目になる。

 なんで名前を?

 そんな気持ちが心の中を暴れ回り始める。

 答えなんて考えても分からないというのに……。

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