過去の問題 4
それからのみんなの反応は至って、過去と同じ通りだった。
なちゅさんが僕たちが書いたコメントを読み、それに対する回答を行うという一般的なもの。
たまにコメントが先走りしすぎて、それに対する回答が遅れ、言葉を濁して、次のコメントを読むという流れも懐かしかった。また、自分の会話に集中しすぎて、コメントを読むことを忘れてしまうことも。
それはなちゅさんがコメントを拾いきれない時の対象として教えた通りのことだったため、成長したことも感じられた。
結局、全てが懐かしかった。
いつの間にか、僕も枠を見に言った時の気まずさを忘れ、楽しんでしまっていた。
昔のようにコメントしまくっていた。
全部が全部読まれたわけじゃないけれど、僕の心にはなぜか充実したもので溢れ、悩んでいたものも吹っ飛ぶぐらいに。
「バカかよ、僕は……」
二枠が終わってから、再び絶望するには時間はかからなかった。
始まる前よりもさらに深い絶望だった。
あれだけのことをされたにも関わらず、楽しんでしまっていることに。彼女である明日美に嘘を吐いてしまったことに。
結局、また元の鞘に戻ってったような感覚さえあった。
その時、再びスマホに通知音が入る。
なんとなくだが確認しないでも分かった。
そう、なちゅさんからだろう。
僕はスマホを確認する。
予想通り、なちゅさんからのDMだった。
『どうだった?? 久しぶりの枠楽しかった??』
今日の枠を感想についてだった。
今までこんなことは来たことがない。
本当になちゅさんに何が起きたのか、気になるところだった。
が、そんなことを聞けば、さらにどツボに入りかねないため、そのことを聞くことはしないようにして、
『うん、楽しかったよ。久しぶりにみんなと会えたしね』
と素直な気持ちを伝えておくことにする。
『良かった! また暇な時は来てね!』
『これから一人暮らしの準備をしないといけなかったりするから、行ける時は行くよ』
『うん、待ってる』
「行ける時は行くよ……か……」
書いた瞬間に僕はそれを自虐を含めて読む。
正直、これから先行くかどうか分からなさすぎて……。
本当であれば、行かないという選択肢が正解なのだろう。しかし、今回楽しかったからこそ、行くという選択肢を選んでしまうことがある。
そう、僕は楽しければいいからだ。
楽しければ、それでいい。辛かったことも上書きされ、それを水で薄ませ、いつの間にかなかったことに出来るから……。
「これが本当ダメなんだけどさ」
自分の性格をなんとなく理解した僕の悪いところ。
前向きといえば前向きなのだろうが、この調子でいるとまた痛い目を見ることは分かっている。けれど、懲りないからこそ、同じ行動をしてしまう。
本当にダメなところだ。
そんな時、終わったと思っていたDMに再びメッセージが追加される。
『今、推してるのか知らないけど、アスカさんに負けないように頑張るから』
僕からしたら十分に心に突き刺さるメッセージだった。
なんで対抗意識燃やしてるの?
そう思うには十分なもの。
そもそも、なちゅさんは僕の新しいアカウントのことを手に入れたのだろうか?
そこからしても問題なのだが……。
「なんで取り合いが起きてるんだよ。遅すぎるって」
過去になちゅさんからはこんなDMは一切届いたことはない。
こんなメッセージが送られるほど、他の人の枠に行ってなかったということもあるだろう。
けれど、本当に今さらだった。
一応だがなちゅさんの性格も分かっている。
簡単に言えば『ヒロイン症候群』にかかっている女性だ。だから、自分を一番に見て欲しいのだろう。
しかし、それを今さら僕に向けてきたところで、っていう話だ。
どうせなら付き合う前にこんな風に来ていれば……。
そう考えてしまう自分がいる。
そうなった場合であれば、きっと何事もなく僕はまた推しに戻っていたかもしれない。
けれど、今ではもう……。
「どうすんだよ、これさ……」
返事が出来るような状態でないため、返事は返さないことにした。
なちゅさんの返事に対しての良い言葉が見つからないこともあったが、返したところで修羅場になり、また自分が傷付いてしまうことがあったからだ。
だから、保留にしておく。
なちゅさんはどう思うか分からないけれど、現在はこれが正しい答えなのだから。
明日美には言えない秘密が出来てしまった。
これがバレた時のことに怯えながら、僕は目を閉じる。
寝ることはできない。
最悪のパターンが頭の中でぐるぐると回り続け、考えてしまうから。
だから、心の底から願うことにした。
この問題が一生バレず、二つの枠でバランスの良い状態が保てることを……。




