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過去の問題 3

 翌日ーー。

 テストは悲惨な結果に終わってしまった。

 あの後、僕は勉強をする気が一切起きず、寝てしまった結果だ。

 自分が選択した結末があれである以上、しょうがないこととはいえ、この日のために一緒に勉強をしていた明日美に対し、合わせる顔がない。


 つまり、僕は明日美に合わないようにして学校から帰る羽目になってしまった。

 スマホの方にも連絡が来ていたが、僕は『体調が悪いから今日はごめん』とだけ返し、その後の連絡を絶っている状態。

 明日美の気持ちも分かっているのに、僕は配信の協力者としても彼氏としても最低ないことをしてしまっていることは承知の上だった。


「それでもしょうがないじゃんかよ……」


 ベッドの上に仰向けに寝転がり、目元に手を当てて、そうぼやく。

 言い訳であることは十分に分かっている。

 分かっているけれど、言い訳しないと自分を正当化出来ない。

 だからといって、自分の心が救われるわけでもない。

 ただ、自分が最低な人物であるという認識が深まるばかりだ。


 そんなことを考えていると、僕は不意に明日美のことが本当に好きだったのかという考えにまで至ってしまう。

 推していたなちゅさんの代わりに親しくなり、僕を助けてくれたことによって生まれた愛情にすがり、後から知った明日美の罪を利用して付き合ったのではないか、と。


「そんなわけないのにな……」


 もちろん、それが違うのは十分に分かっている。

 好きだと認識する前にも十分に考え、そのことを否定していたはず上で自らの意思によって出した答えのはずなのに。

 ちょっとしたことでこんなにも揺らいでしまうことに、僕は思わず自嘲してしまう。


「弱すぎだろ……」


 明日美と出会った時の屋上の時と同じような感覚が襲ってきていた。

 襲ってきてはいるけれど、それを助けてくれる人は今はいない。

 いや、助けを求めることすら出来ない。


 そんな時だった。

 スマホの通知がなったのは……。

 僕はスマホを取り、その通知を確認する。

 それはなちゅさんからのDMだった。

 僕はそのDMを確認するためにスマホを開く。


『これから配信するね。暇だったら見に来てね』


 昨日言ってた通り、配信するらしい。

 スマホの時計を確認する。

 もう午後七時を回っており、頭の中で自分のことを自虐しているだけで二時間ほど経っていたらしい。

 部屋の中もいつの間にか真っ暗になっており、まるで僕の心をの中を写しているように見えて、さらに嫌な気分になってしまう。


 なちゅさんのDMには返事せず、僕はいきなりツイキャスの方を開く。

 アカウントは今Twitterで使っているもの。

 今さら昔の名前を使う必要もない。

 なちゅさんに自分の今のアカウントの名前がバレている以上、隠す必要がないからだ。


 検索画面から『なちゅ』と打ち込み、検索をかけるとすぐにヒットすることができた。しかも、配信しているマークも付いており、やはりDMで言ったように配信しているらしい。

 ほんの少しだけ僕は戸惑ったが、その枠を見る。


<そうだねー。なちゅはいいと思うよ>


 話題としてはよく分からないが、コメントに対しての返事だろう。

 懐かしい声に僕の心がざわめく。

 まるであのディスの話を聞くより前の過去に戻っている気がして、なんとなく沈んだ心が癒されるようなそんな感覚が襲ってくる。

 コメントにはなちゅさんを推している懐かしいリスナーたちの名前もある。

 過去に通話もしたことがあり、それなりに仲が良かったことも思い出し、さらに懐かしくなってしまう。


「一応、来た証拠にコメントはしておくかな」


 証拠を残すため、僕は不安混じりでコメントを書くことにする。

 そうすればDMで追求されることもなく、この後、配信を見ることがキツくなったとしてもすぐに枠から落ちることも出来るから。


『初見です』


 たったこれだけの言葉。

 そう、これだけであとはコメントをしないでいいのだと思って。


<あ、ステルトンじゃん。いらっしゃい。あ、これって呼んじゃダメなんだっけ? 煮込みうどんさん>


 ……。

 そのコメントの返事に僕の思考は停止してしまう。

 たしかに昔の名前を呼ぶことに対しての注意はしていなかった。アカウントを消すほどの理由があるため、ワザワザそれを注意する必要がないと思っていたからこそ、僕はあえて言わなかったのだ。

 しかし、なちゅさんは僕のその考えを逆手に取るように普通に言ってしまった。


「うそ……でしょ……!」


 ベッドの上で僕はゴロゴロと左右に転がり、悶える。

 この流れを打開する手など思いつくはずもなく、どうしたらいいのか分からず、とにかくなんとかしないと、と考えながら。

 けれど、時はすでに遅かった。


 スマホに視線を戻し、コメントを見る。

 コメントには煮込みうどん=ステルトンという認識でコメントで溢れかえっており、


『おひさ〜!』

『久しぶりー』

『元気だったのか?』


 などと心配の返事や好意的な返事が返ってきていた。

 もちろん、その中には僕のことをディスっていたリスナーの名前もある。

 だからこそ、なおさら複雑な気持ちになってしまっていた。


<やっぱりダメだったかな。ごめんごめん>


 僕のコメントがないことから、さすがのなちゅさんも雰囲気で分かったらしく、あまり悪気のない言い方でそう言ってきた。


「いや、もう遅いって……」


 僕はどうしようもないこの状況に苦笑いを溢してしまっていた。

 だから、どう返事を返そうか考え、


『大丈夫だよ。出来たら、今の名前でこれからよろしく。みんな、久しぶり!』


 と返しておくことにした。

 これが一番穏便な返しだと思って。


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