過去の問題 2
リクエストを受け付けた僕はちょっとだけ悩んだ末、
『いきなりどうしたんですか?』
と曖昧な返事を返すことにしといた。
昔の名前であるステルトンをはぐらかし、何もなかったかのように過ごたかったのも本音ではあったが、あっちが確信を持って話しかけてきているような感覚があったため、どうすることも出来なかったのだ。
なちゅさんの方もまだTwitterを見ていたらしく、返事はすぐにやってきた。
『ステルトンでしょ? 違う? 違うならすみません。ちょっと話したいことがあって』
『昔ですけど、その名前を使ってましたね。けど、話したいことって何ですか?』
『私のこと覚えてる?』
『なちゅさんでしょ。ツイキャスで配信してる』
『そうだよ。やっぱり覚えてたんだ』
『推してたしね』
『いきなり居なくなったら心配してたんだよ? 何かあったの?』
その内容にちょっとだけイラッときてしまう。
原因はそちらであるため、僕が言わなくても分かっていると思うからだ。
それとも元々罪悪感がないから、傷付けたことすらも分かっていない?
イジメでよくある認識が僕の中でふとよぎった。
認識の違いだけで人は簡単に傷付けることが出来る。しかも、それには悪気がない時の方が多いため、傷付けたことすら覚えていない。
もしかしたら、それと同じ状況に陥っているんじゃないか、と。
『ちょっとだけリアルでいろいろあったんだよ。学校関連だけど。それでちょっとTwitterのアカウントを消すことになっただけだよ』
自分の本音を伝えることはやっぱりキツいため、そうやって実際にありえそうなことで誤魔化しておくことにした。
きっとそれが現状選ぶの中で最適の答えだと思って。
『それはもう大丈夫なの?』
『一応。隠れてアカウント作ってるから、バレなきゃ大丈夫だと思う』
『そっか。それなら良かった。それでさ、今度はいつ私の配信を見に来てくれるの?』
爆弾が心に着弾したような衝撃が走り、
「うぐッ……!」
と声を漏らしてしまう。
二度と行く気がないのは事実だ。
しかし、悪意がない要求が飛んでくるとは思わなかった。
悪意がないからこそ、返答しにくい。
『前みたいに盛り上げてくれるのを待ってるんだけど?』
続けざまに飛んでくる内容。
なちゅさんが僕のことを本当はどう思っているのか、正直聞きたい衝動に駆られてしまう。
あの時のディスの言葉は今でも忘れることは出来ない。
しかし、こうやって頼りされてしまうと僕は弱いところがある。
『もうちょっとだけ待ってもらえますか? 今は期末テスト中だから』
『そうなんだ。頑張ってね。テストはいつ終わるの?』
『明日だよ』
『明日なんだ。じゃあ、明日配信するから見に来てね』
嘘だろ……。
この瞬間、僕は地雷を思いっきり踏んでしまったような気がした。
なちゅさんが僕のために配信する日を作ってくれるとは思っていなかったからだ。
そもそも配信は自由だし、たまにこうやってリスナーのために配信の都合を合わせてくれる人がいるのを知っている。だから、なちゅさんの行動がおかしいわけではない。
しかし、今では離れた人物のためにこんな行動をしてくれるという現実が信じられなかった。
けれど、僕の中では明日の予定はもう決まっているようなものだった。
それは明日美が配信をするということ。
本人の口からまだそれを聞いていないが、きっとやりたがると思う。
つまり協力している以上、僕は明日美の気持ちも汲み、配信をさせてあげたいと思っている。だから、配信時間にもよるけれど、なちゅさんの配信を見に行ける時間はほとんどないだろう。
『もしかしたら明日はテスト終わったら、友達と遊びかもしれないから見に行けないかも』
困った末、少し否定的な言葉を送っておく。
見に行かなかったとしてもちゃんとした理由をつけておくことで、なちゅさんの気に触ることはないと思い。
『時間ぐらい合わせるよ。他の日が良いなら、他の日でもいいから』
諦めるという選択肢はあちらにはないらしい。
正直、なちゅさんがなんで僕にここまで固執してくるのか分からず、戸惑ってしまう。
何が起きたんだ?
相談であるのであれば、素直にそう言ってもらいたい。
『何かあったの? 相談ぐらいなら乗るけど』
思いきって僕はそう聞いてみる。
これでウザいと思われるのであれば、それでいい。もし、何悩みがあるのであれば、推させてもらっていたお礼として少しぐらいは相談に乗ってあげたいと思ったから。
『それはこっちだよ。あれだけしょっちゅう来てくれていたのに、いきなりアカウント消していなくなるんだから心配になっただけ。だから何か悩みがあるのなら聞いてあげようかなって思ったの。本当に大丈夫? 何かあるなら言って』
思わず苦笑いが溢れてしまう。
誰のせいでこんな苦しい思いをしてしまった、と思っているのか。自殺まで考えてしまったぐらいのに。
このことはきっとなちゅさんには届かないだろう。
いや、伝えることも出来ない。
だけど、まさかこんなにも心配してくれていたなんて思ってもいなかった。
『ありがとう』
だから、これだけ返し、スマホを見ることを止める。
これ以上見ていたら、メンタルが持たなかったから。
勉強をする気も失せてしまっていた。
なんでことになったんだろう。
最初から無視を選べば良かったのに、気まぐれででも反応をしてしまったことに僕は後悔し、絶望してしまっていた。




