告白した後の問題 3
僕は玄関まで来て、少しだけ足を止める。
心臓が無駄に高鳴り、緊張をさせてくるからだ。
ゆっくりと息を吸った後、大きく吐き、無理矢理気持ちを落ち着かせる。
そして、玄関の扉の鍵だけを外して、先ほど明日美に行ったようにちょっとだけ距離をとった状態で、
「どちらさまですか?」
と声をかける。
そこからぬぅっと顔を出す人物の顔は僕の知っている顔だった。
外が寒いのか、顔を頰を赤くして、両手に息を吹きかけ、暖を取っている仕草が目に入ってくる。
「うっす」
僕の恐怖を何も知らないそいつは、まるでいつも挨拶するかのような態度で声をかけてくる。
挑発されたような気分だった。
せっかく幸せだった時間を、こいつのチャイム一つで恐怖に叩き落とされ、無駄な緊張をしてしまったことに。
「誰ですか? 家間違いしてますよ」
僕は冷めた目でそう言った後、容赦なく扉を閉める。
いつだったか忘れたが、「風邪を引いて休みたい」と言っていたことを思い出し、このタイミングがちょうどいいと思ったのだ。
こんな奴、風邪を引いて、学校を休んでしまえばいいんだ!
しかし、僕の八つ当たりに気付いているのかどうかは知らないが、扉をドンドンと叩きながら、
「待てよ! 今回は何もしてないだろッ! なんでだよ!」
こんな苦情を言いながら、僕に扉を開けるように急かしてくる。
ちょっと前にもこんなことあったっけ?
その発言と似たような行動から前にも似たようなことがあったことを思い出しながら、結局前回と同じ理由で今度はチェーンロックを外してから、扉を開ける。
「なんだよ、竜也。来るなんて聞いてないけど」
よほど寒いのだろう。
僕がそんな風に文句言ってる間に家の中に入ってきた竜也。
しょうがないので、このまま僕は扉を閉める。
「言ってないからな。たまにはどっきりで勉強を誘うのもアリかなって思ってよ。つーわけで一緒に勉強しようぜ!」
竜也は声を振るわえながら、そう言ってニンマリと笑ってきた。
しかし、僕の視線は以前冷めたまま。
「押し売りレベルで家に入ってきておいてよく言うよ。ここで追い返したら、素直に帰ってくれるの?」
「やだ。今すぐは無理。せめてこの冷え切った身体をあったまらせてから」
「うん、だろうね。それで結局勉強する方向に持ち込むんでしょ? ……間違えた、ゲームも入るよね。勉強だけが目当てじゃないでしょ?」
竜也の考えてそうなことを言ってみる。
正解とばかりに竜也は親指を立て、靴を乱暴に脱いでいく。しかも「お邪魔します」の一言もなしに。
僕はため息を吐くことしか出来なかった。
「ゲームかぁ……出来るといいね」
竜也の願望が叶うかどうか分からないため、そういう風な意味深発言をしておく。
僕の言い方に何か察するものがあったらしく、竜也は「え?」とちょっと驚いた表情を浮かべている。
「もしかして……誰かいる?」
「もしかしなくてもいる」
「……真面目な人じゃないよな?」
「真面目な人だよね、もちろん」
「いや、でも靴ないし……」
「靴がないわけないでしょ。隠してるだけだし……。まぁ、竜也が来たし、隠す必要がなくなったわけだから出しておこうかな」
そう言って、嫌々竜也の靴を揃えた後、下駄箱を開けて、明日美の靴を出して、いつでも帰れるように準備しておく。
隠しておくのは二人っきりの時に母さんにバレないためだけであり、竜也が来た時点でその意味を失くす以上、これが普通なのだ。
その瞬間、竜也は「ゲェ⁉︎」と気不味そうな表情になる。
「ほら、行くよ。せっかく来たんだから、一緒に勉強していこう」
僕はそう言い、階段を上っていく。
三段ぐらいまで上がったところで振り返ると、竜也は苦虫を潰したような表情のまま、その場で硬直していた。
まるで前回の期末テストのことを思い出しているようだった。
しかし、そのことを僕は分かっているにも関わらず、
「どうしたの、早くおいでよ」
とわざと声をかけてみる。
「ごめん、用事思い出した」
「ないでしょ。あるなら、最初から来ないでしょ」
「……持病のしゃっくりが……」
「しゃっくり出てないじゃん」
「あ……ちょっと熱が……」
「僕が風邪引いた時に、風邪引かない奴が何言ってるの?」
「うるせー! 逃がしてくれよ!」
「やっと本音が出た」
「いるって聞いてないぞ!」
「聞いてないも何も僕も来るって聞いてないけど⁉︎ そもそも勝手に押しかけてきたのはそっちじゃんか!」
「そうだけどさ! せめて、連絡ぐらい入れてくれても!」
「完全にブーメランですぅ! 僕が先に連絡欲しかったよ! そしたら教えてあげたのにさ!」
「頼む、後生だ! 逃がしてくれ!」
「いや、無理でしょ」
僕は竜也の望みを速攻で否定した。
本当であれば、僕も竜也の気持ちが分かるので逃がしてあげたい。
しかし、それを出来ない理由がある。
それは明日美という存在だ。
幸福を邪魔された件、予定のない来客からのチャイムで少なからず機嫌はあまりよろしくないものになっているだろう。それに加えて、この大きな声での僕と竜也の言い合い。もしかしたら、部屋の扉を少し開け、様子を伺っている可能性がある。それを考えた場合、どう考えても逃げる事は出来ない。むしろ、逃がした場合の飛び火が僕にかかってくる可能性が高い。
そのことを踏まえた上で出した結論として、竜也を逃すわけにはいかないという答えだった。
「頼むから! 頼むって!」
それでも食い下がってくる竜也を無視して、僕は自分の部屋へ向かうことにした。
ここで逃げようが明日追求されるだけの話だから。
それはそれで僕に飛び火は来ない。
つまり、どっちにしても竜也が嫌な思いをするだけなのだから。




