告白した後の問題 2
そんな行為しか出来ない僕に対して、明日美は嬉しそうに笑ってくれる。
感覚としては彼女ではなく、まるで猫のようだった。
こんなことを言えば、絶対怒られてしまうのでそんなことは言えないのだが……。
「私ってあれなのかな? 頭撫でられたりするの好きなのかもしれない」
明日美は嬉しそうな表情をしながら、急にそんなことを言ってきたため、ちょっとだけ僕は驚いてしまう。
「いきなりどうしたの? 急に自分探しみたいなことし始めて」
「ん? なんか透に撫でられるの嬉しいなって思うから、それを考えてたら、そうなんじゃないかな〜って」
「好きな人だからって理由だからなんじゃないの?」
「それもあるけど……根本的に褒められること少なかったからさ。あ、いや、違うかも。褒められるには褒められるけど、こういうご褒美をもらえることが少なかった?」
口元に指を添え、再び真面目にそんなことを考え始める明日美。
ただ、僕に頭を撫でられながら、というのが少しおかしい状態なのだが……。
ともかくこんな風に真面目になっている明日美に対して、何か発言するのはよろしくないとは分かっているので、明日美がある程度の答えが出るまで素直に待っておくことにした。
「うん、そうだね。やっぱり好きな人にこうやって触れてもらえるのが好きなだけかも」
「結局、そこになるんだ」
「透も嫌じゃないでしょ?」
「嫌じゃないよ。ただ、勉強のことを言いだすから、『何か思い当たる節でもあるのかな?』とは思ったけど」
「それはたくさんあるよ。『出来て当たり前』。私っていうか優等生とか秀才、天才とか言われる人ってそう思われるでしょ? 周りからの変な期待っていうか。そういうの結構重圧としてくるんだよね。もちろん、そんな弱さは見せる暇がないどころか、見せるところも許されないけど……。だから、挫折しちゃうと歪んでいく人が多いんだよ」
「体験してる人に言われると重みが違うっていうかなんていうか……。本当にお疲れ様」
凡人である僕にはその気持ちは少ししか理解出来なかった。
理解しようとしても、それは上部だけのものであり、本来味わっているものではない。痛みも共わない空想の産物。
そんな僕に出来るのは労いの言葉と明日美が喜ぶことをしてあげることだけだった。だから、さっきよりもゆっくりと頭を撫でてあげることにした。
明日美に僕の気持ちが伝わっているのかどうかは分からないけれど、「えへへ」と心の底から喜んでくれていることだけは伝わってくるため、それだけでも僕も満足することが出来た。
そんな二人だけの時間を過ごしている時に、玄関のチャイムが「ピンポーン」と鳴った。
僕と明日美はその音にいきなり現実に引き戻され、慌てて二人で距離を作る。
「透のお母さんかな?」
明日美は緊張した面持ちでそう尋ねてくる。
この時間にやってくる人物として考えられる人物が母さんしかいなかったのだろう。もちろん、前回の件もあるので十分に考えられることだ。
しかし、僕は首を横に振って、その予想を否定してみせた。
「母さんじゃないと思うんだけどなぁ……。母さんなら、まず連絡してくると思うし」
そう言って折りたたみの机に置いていたスマホを手に取り、ロック画面を確認してみる。案の定、通知は何一つ来ていない。
そもそもサイレントにしていない時点で、何かのバグがない限りは反応するはずなのだ。
ただ、バグでさらにロック画面にも通知が来ていないことも考慮して、LINEまで開いて確認してみる。
結果、母さんどころか誰からも連絡は来てない。
「うん、誰からも来てないね。だから知らない人じゃない?」
「こんな時間に? あ、私も誰からも来てないよ」
「明日美の家じゃないのに、『僕の家に来る』って連絡が入ってたら、逆に恐怖しか感じないけどね」
明日美の付け足しの言葉にそうツッコミを入れながら、僕も改めて現時刻を確認。
現在時刻9時45分頃。
明日美の言うように、こんな時間に誰か来るな時間ではない。
さすがに運送会社の人でも、こんな時間まで配達はしてないだろう時間帯だ。
そんな時、急かすかのように再びチャイムが鳴る。
時間帯的に家の電気が付いている以上、居留守を使うことは出来ない。つまりは誰かが来たことを確認するという選択を選ぶことは確定されていた。
面倒だな……。
そんな気持ちを含みつつ、僕は立ち上がる。
「ねぇ、本当に大丈夫?」
さすがの明日美もこんな時間帯に来る人物に、不信感を抱いているらしく、僕の手を掴み、一旦静止をかけてきた。
「大丈夫だよ。いつも通り、チェーンロックは外さないし。念のため、距離は取っておくから」
「嫌だよ? その人がペンチみたいなもの持ってて、そのチェーンを壊してまで入ってきて、透が殺されるのは……」
「……むしろ、その想像まで行くのが怖いから」
「だ、だって! 今、すっごく幸せな状態なんだよ? 上がるところまで上がったら、後は下がるだけなんだから……そりゃ……」
「それは分かるけどさ……。ともかくこの時間帯に、そんなことまでする奴いないって。やるとしたら、もうちょっと夜中だよ」
「……うん。そうだよね……」
僕の励ましの言葉は明日美の心には届いてないレベルで不安がっていた。
だから、僕は明日美の頭を優しく二回軽く叩いて、
「大丈夫だから。安心して。行ってくるね」
そう無理矢理諭して、部屋から出る。
しかし、僕の心は実は不安に満ち溢れていた。
なぜなら、明日美の言う最悪の想像を軽くしてしまっていたから。
きっとそれさえなければ、いつも通り、何気ない気持ちでチャイムを鳴らした人物と普通に接することが出来ただろう。
避けないことをしてくれるよ、まったく。
僕は心の中でそう愚痴らずにはいられなかった。




