告白した後の問題 1
あれから一週間が経った。
僕と明日美はあれから順調に恋愛を続けている。
学校では今まで通り、LINEでしか連絡を取っておらず、あまり関わり合いというものも持っていないので誰にもバレていないらしい。その証拠に変な噂は何一つ立っていないはずだ。
そのことを耳にしたら、一人だけうるさい奴がいるため、すぐに耳に入って来るだろう。
そのうるさい奴というのは、竜也のことだ。
こういう噂話などの話の入手率はわりと早いため、もし僕たちの話題が出ていれば、すぐに話して来ると思う。
その真偽を確かめるために。
そう、僕たちはまだ竜也にも付き合い始めたことを話していない。
話すきっかけがなかなか掴めなかったというのもあるけれど、もし竜也が口を滑らせた場合のリスクを考えると、まだ話さない方がいいという結論に至ったのだ。
話していないという点では、母さんにもまだ話していない。
こちらも同じくタイミングがなかなか掴めないのだ。
明日美の方は次の日あたりには話したらしいのだが、僕が言ったように『自分の口から話したい』という意見を尊重し、勝手に話さないということで納得してくれているらしい。
正直、この口止めをしなかったとしても、明日美曰く「そういうことは勝手に話さないし、話すとしても差し障りのないことだけだから大丈夫」と言われたらしく、僕は安心し、感謝することしか出来ない。
同時に今度、明日美のご両親にも挨拶しないといけないという気持ちもある。
まだそれも実現に至っていない。
至るも何も今の状況的にそんなことをしている場合ではない、という方が正解なのだろう。
なぜなら、今は三年生ーー学校最後の期末テストの習慣に入っているからだ。
別に良い成績を残したいわけではなけれど、少なくとも最後は有終の美を飾りたいという気持ちぐらいはある。
だから、恋愛云々にうつつを抜かしている場合ではなく、目の前のことに集中しなければいけないのだ。
やりたいこと、考えないといけないこと、それがたくさんありすぎるため、僕は自然と大きなため息が溢れてしまう。
「そんなため息吐いてると、幸せ逃げちゃうよ?」
不意に僕の耳に心配そうな明日美の声が僕の耳に入って来る。
僕たちは今、学校が終わってからすぐに僕の部屋に集まり、期末テストの勉強をしている最中なのだ。
もちろん、母さんは今日のシフトは夜勤のため、いきなり帰ってくることはない。体調不良を除いての話になるのだが……。
だが帰ってきたら帰ってきたで、付き合っていることを話すきっかけとしては良いと思うのため、僕としてはどっちでもいいと思っている。
ただ、いきなりなので覚悟の決め方は違うと思うのが問題なだけで。
「ごめんごめん、考えることがたくさんあってさ」
僕のため息に反応しただけで視線は勉強に集中して、シャーペンを動かし続ける明日美にそう返事し、僕も同じように宿題として出された問題を解くために、教科書を見つめる。
しかし、考え事の方に意識が集中しているせいか、公式が一切頭に入らないため、勉強という思考を一旦捨てることにした。
そして、折りたたみの机を向かい合うようにして座っている明日美のことをボーッと見つめながら、手持ち無沙汰になった僕は持っていたシャーペンをクルクルと回し始める。
「考え事? 私たちのことでしょ?」
「そ、正解」
「そんなことだと思ったよ」
明日美は僕の考えがまるで分かっていたかのように言うと、シャーペンを動かしていた手を止める。そしておもむろに立ち上がると、僕の横へワザワザやってきて座ってきた。かと思ったら、気晴らしついでなのだろうか、僕にもたれかかってくる。
「何してんの?」
「……休憩という名の充電かな」
「あっそ。別にいいけど」
「私は頑張ってたからいいけど、透は手が止まってた時間が長いから勉強を続けてね」
「……そんなことはないよ。ちゃんと進めてるし」
「はいはい。私、ちゃんと見てたんだから分かってるの」
「監視しないでください」
「無理だよ。好きな人が目の前にいたら、監視じゃなくても気になっちゃうもん」
「集中してないのお互い様じゃんか」
「でも、私はちゃんとしてたでしょ?」
「そりゃそうだけどさ……」
そこで僕は言い返せなくなった。
明日美の言ってることは間違いなく正しいからだ。
僕も他のことを考えながらも明日美のことは気になり、ちゃんとちょくちょく見てしまっていた。だからこそ、明日美が僕のことを同じように見ていたのも分かっていたが、それでも手を止めることはせず、ずっと問題を解いていたからだ。
「分かったよ。しますよ……」
僕は諦めたように回していたシャーペンを止めると、しっかりと持ち、再び宿題へと視線を戻す。
が、さっきよりも集中することが出来なかった。
隣にいる明日美が甘えてきているのに、勉強に集中することが出来るだろうか? いや、断じて出来ない。健全な男であれば、むしろ違う方に邪念が走り、そちらに意識を集中しかけてしまうからだ!
そうつまり、理性と本能の戦いがまた始まってしまってしまったということ。
明日美はそんな僕の気持ちを分かっているのか、クスクスと笑い出している。
「ほらほら、頑張って!」
「何を?」
「勉強以外の何があるの?」
「……意地悪過ぎでしょ」
「あはっ……バレてる……?」
「バレバレ」
「ごめんごめん。じゃあ、勉強は休憩でいいよ」
いきなり矛盾することを言い始める明日美。
完全に甘えたモードというものに突入しているようだった。
そう、明日美と付き合い始めた結果ーー明日美はそういう甘えたがりという状態に入ることが多くなった。今まで我慢していたものを全部吐き出そうとしているかのように、猫撫で声で甘え始めてくる。別にそのことが嫌ではないのだが、突如としてくるギャップというものに驚きを隠せず、どう接したらいいのか、困ってしまうことがあった。
きっと明日美からすれば、何も望んでいないのだろう。
ただ、一緒にいて、こうやって同じ時間を過ごすことが嬉しいんだと思う。
しかし、僕としては何かしてあげたいという感情に駆られてしまうのだ。
だから、こうなった場合は肩を回して、明日美の頭を撫でてあげることが精一杯の自分が情けなくて仕方なかった。




