告白 3
時間にしては五分も満たしていないだろう。
けれど、僕は告白したことへの羞恥心と明日美の返事待ちの緊張のせいで、体感時間では三十分経っていてもおかしくないぐらい時間を長く感じてしまっていた。
ようやく返事をする決意が決まったらしく、明日美は僕の胸から顔を離し、僕を見つめてくる。
さすがにもう泣いてはいないものの、潤んだ瞳がすごく印象的で僕は目が離せなくなってしまう。
「よろしくお願いします。……でいいのかな? こういう時の返事、よく分からないけど」
明日美はそう言って、僕を微笑んでくれる。
OKをしてくれるという確証に近いものは竜也や状況的なもので分かっていたけれど、それでも僕は嬉しくなってしまい、今度は自分から抱き寄せる形で明日美を自らの胸の中に押し込む。それに加えて愛しくなってしまい、明日美の髪を撫でた。
「ありがとう。受け入れてくれて」
その後のことを考えてなかった僕は、なぜかお礼を言ってしまっていた。
明日美は僕の返事に対し、困ったように笑いながらも応えるように、僕の背中に腕を回し、抱きしめ返してくれた。
「なんかお互いに不器用だね」
「こんなの今まで経験ないし。明日美は何度か告白されたことはあるだろうけどさ」
「告白はね。でも全部お断りしてきたから」
「だろうと思ったよ」
「そりゃ、好きな人がいたら断るでしょ。『付き合う』っていう行動は簡単に出来るけど、『恋愛』って表現になるといい加減にしたくないもん」
初耳だった。
好きな人がいたということが……。
不意に気になったのが、『好きな人』が僕ではなく、他の誰かだった場合だということだった。
今の発言の流れでは、その人が僕ではないという可能性が高い。そもそも僕が明日美と知り合い、恋愛感情を抱いたのはこの二ヶ月のあまりのこと。だから、それまでの中学生の時期などを考えると、僕は当てはまらないと思ってしまったのだ。
「その好きな人との恋愛諦めて、僕と付き合ってもよかったの?」
だから付き合い始めたばかりだというのに、そんなバカなことを尋ねてしまう。
訪れる急な沈黙。
背中に回れていた明日美の右手が離れたかと思うと、その右手は僕の鳩尾あたりに入ってくる。
走ってきたのは鈍い痛みに、僕は「うぐっ」と情けない声を漏らしてしまう。
「バカじゃじゃないの? そこでなんでそんな言葉が出てくるの?」
明らかに怒ってる声の明日美。
僕が明日美の言いたがってる言葉を理解していないことが完全にバレてしまっていた。
「だって知り合ったっていうか交流持った年月考えると……」
「それまでに私は透のことを知ってたって言ったよね? それで見てたって言ったよね? つまり、透は知らなかったとしても、私はずっと透のこと想ってたの! 分かってよ、バカ!」
「言いたいことは分かるけど、僕が知り得なかった年月のことを言ってくるのは……」
「何?」
「なんでもないです。ただ、一つ聞きたいことがあるんだ。怒らないで答えて欲しいんだけど」
「内容による」
あらかじめ怒らせる可能性があるからこそ、そのための忠告だったのにそれを否定してしまい、僕は思わず口を閉ざしてしまう。
しかし、明日美の雰囲気が「早く言え」と言わんばかりの黒いものが出ているため、結局言う流れは止められず、素直に聞く羽目になってしまった。
「いつから好きになってたの? ううん、それ以前に僕と付き合うっていうのは罪滅ぼしじゃないよね? そこだけはしっかり確認しておきたいんだ。疑ってるわけじゃないけど、少なくとも僕の知らない期間のことを考えると、不安になるんだよ」
「それを他人は疑ってるって言うだけどね。でも、それを聞いてくるのはしょうがないことだよね。聞かれたくはなかったけど、聞いちゃうよね」
「ごめん」
「ううん、大丈夫だよ。私も私でちゃんとそのことに関しては自分自身で確認済みだから。好きになってたのは、たぶん自我が芽生えた頃、保育園とかそこらへんの時期からだと思う」
「……保育園一緒だったんだ……」
また驚愕的な事実を言われてしまう。
本当になんで僕はそのことを覚えてないのか、不思議でしょうがななかった。
しかし、明日美はそのことについて怒るどころか、軽く笑っていた。
「しょうがないよ。透のお父さんの件でしばらくしてから、私は転園したんだから。私の両親が、透の傷を広げないためにそうしたらしいよ。それは透のお母さんの了承をもらって」
「なにそれ……どんだけ僕は周りに守られてきたの?」
「う〜ん。こればかりは私のせいもあるから。やっぱり事故の影響は大きかったみたい。でも、透のことは忘れられずに転園してからも家の近くには遊びに行ってたらしいんだけど、いろんな理由を付けられて遊ぶことはさせてくれなかったみたいだよ」
「ダメだ、もう僕の想像の範囲超えてる」
「親の付き合いって大変だよね。それで小学校とか中学校も離れ離れにさせられてたらしいんだけど、結局は私の心には残ってたんだよ。実は小学校とか中学校の時とかもたまに見かけて、『あの時の少年だ』みたいな認識はあったしね。チラッと見る程度だけど」
「それはそれで怖い」
「ストーカーしてないから大丈夫。接点ないから見る程度で済ませてるし、話しかけてもないから。ただ、両親にはバレてて、それで中三の時にそのことを教えてもらって、高校を同じところにしたって流れ。だから、気持ち的には『罪滅ぼし』とかそういうのじゃないよ。ちゃんと私の好きな気持ちだから安心して」
「そこまで聞かされたら信じるしかないよね。それで疑うとかしたら、人としてダメなような気がする」
まるで執念のようなものを感じ取ったため、素直にその気持ちを認めるざるを得ないと言ったところだった。
誰かを好きになるって、ここまで時間が経っても続き、諦められないものだということを認識するには十分の出来事。
そんなことを僕が思っていると、不意に明日美がもぞもぞと動いたかと思うと顔を僕の顔の方へ向けてくる。そして、再び背後に回された右手が僕の後頭部を触り、そのまま引き寄せたのか明日美の顔が近づいてきたのか、それとも両方だったか分からないけれど、キスされていた。
今度は明日美が離れようとしなかったため、先ほどのキスより長いものになった。
顔を離すと明日美は真っ赤な顔で笑みを作り、
「ほら、私の気持ちが本当だから、私の心は幸せに包まれてる。透はどう?」
自分の気持ちを確かめるためにしてきたかのように言って、僕にそう尋ねてくる。
迷うことなく、僕は頷く。
「僕もだよ」
そう言って、今度は僕からキスしてしまう。
この幸福感を何度も味わい、確かめたくて……。




