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告白 2

「そこまで思いつめてるなら、なんで言ってくれなかったのさ。記憶からその日のことが失くなってたからって、母さんから教えてもらってなかったとしても、明日美がそこまで思いつめるのなら言ってくれた方が明日美も楽だったんじゃないの?」


 苛立ちを隠しきれなかったと思う。

 僕は自分でそう思ってしまうほど、自分の耳に入ってくる声色が普段と違うことが気が付いていた。同時に呼吸もその苛立ちを抑えるために、少し荒くなっていることに気付く。

 しかし、明日美は離れることもなく、もぞもぞともたれかかっている腕に頭を擦り付けるように横に振る。


「言えるわけないじゃん! あの時までは何も知らずに楽しそうに過ごしてた日々だったんだよ? 私が話しかけてからは表情が暗かったのに、そんな酷いことが出来ると思う⁉︎ 出来ないよ! 透のお母さんほどじゃないにしても、私だって『透に幸せになってほしい』と思ってる人の一人なのに、そんなこと出来るわけないじゃん!」

「……ッ!」


 正論だった。

 何も言い返せない。

 無知だった故に僕は毎日を楽しく過ごしていた。

 明日美と知り合った日以降は暗い表情で過ごしていたし、立ち直ったとしてもそれなりに楽しい日々を過ごしていたのも事実。

 明日美にそんな酷い真似が出来るはずなんてない。


「ごめん。感情的になってた」


 だから、素直に謝る。

 それに八つ当たりだってことも分かっていたから。


「大丈夫だよ。私は透に怒られても仕方ないことしたんだし……もしくは怨みを殺されたとしても、私は何も言えないよ」


 明日美の口からとんでもないものが吐き出される。

 それが冗談とかではなく、本気で言ってるからこそ、なおさら質が悪い。

 だからこそ、僕はこの気持ちをなおさら払拭させてあげたいと思ってしまう。

 僕以上に駆られている脅迫概念を。


 けれど、何も思いつかない。

 言葉じゃ軽いような気がして、きっと励ますことは出来ない。

 じゃあ、何をすればいいんだろう。

 僕の頭は一種の混乱状態に陥った結果ーー。


 明日美がもたれかかっている肩を明日美の肩に回すようにして、その手で無理矢理口元まで隠しているマフラーを引き下ろす。


「……え?」


 その行動に驚いてる間に僕は、僕の唇と明日美の唇を触れ合わせる。

 時間にしては五秒も満たないぐらいに短い時間。

 明日美の唇がマフラーの中に隠れていたとしても、冷たいことが分かるぐらいの感触はあった。


「な、なに……してんのッ⁉︎ ば、バカなの⁉︎」


 一瞬のことで動揺を隠しきれていない明日美の罵声が飛んでくる。

 今までなんとなく顔を見ていなかったが、顔は涙で濡れていた。けれど、今はキスした影響で顔が真っ赤になっており、表現しがたいものになっている。

 だから、僕は人差し指で目元に浮かんでいる涙を軽く拭ってあげながら、


「『殺されてもいい』なんていうこと言うからさ、そんなことないって伝えようと思ったら、これぐらいしか思いつかなくて。嫌だった?」


 その行動に対しての理由を説明する。

 明日美は首を横に振って、否定してくれた。


「ドラマの見過ぎじゃない? こういうの現実では流行らないと思うけど」


 しかし、そのキスの仕方に対しては否定されてしまう。

 ただ、僕の場合はドラマではなく、漫画やアニメの影響の方が強いのだが、そのことを突っ込むと面倒そうなので心の中で留めておくことにした。


「僕自身もこんな流れでするとは思わなかったけどさ。そもそも僕の父さんが死んだ出来事からして、ドラマっぽいし、こんなのもありなんじゃない? なんかの運命って感じで」

「……運命。出来事からして私は信じたくない運命からの流れなんだけど……」

「それは同意する。信じたくない。けど、起きて終わったことをどう言ったってしょうがないし、今はどうでもいいよ」

「なんで無駄に前向きなの? あの時と大違いじゃん」

「そりゃ……明日美が居てくれたからさ。だから、僕はこんな風に立ち直れたんだよ。明日美は自分が言うほど自虐に走る必要もないってことなんじゃない?」

「そっか。力にはなれてたんだ。よかった」


 明日美はホッとしたらしく、肩の力を抜くように息を吐く。

 そして、急に我を取り戻したかのようにハッとして、僕の胸に顔を埋めてきた。


「え? なに?」

「今の私の顔を見ちゃダメ。ぐちゃぐちゃになってるから」

「時すでに遅し」

「〜〜〜ッ!」


 そのツッコミが余計だったらしく、明日美は僕の胸をポカポカと叩いてくる。

 ただ、痛くはない。

 どっちかというと抗議のための無駄な抵抗と言った感じだった。


「じゃあ、絶望に落とすしかないね」

「絶望? 何、状況的に不謹慎なこと言ってるの?」

「いいの。なんか私が負けっぱなしになってるみたいじゃん」

「たまにはいいじゃん」

「やだ」

「……駄々っ子ですか?」

「うるさい。キスした責任はどうしてくれるの? 私のファーストキスってやつだよ?」


 明日美の性格からは言い出すとは思えない女っぽい発言が飛び出てきた。

 そうきたか……。

 いくら無我夢中だったとはいえ、キスしてしまったのだから仕方ないのだろう。

 それに僕の明日美への感情は決まっているし、普段の僕ならばダメかもしれないが、現在の状況ならば十分にマウントを取れてる。


「明日美のこと好きだからキスしたんだよ。だから付き合ってほしいんだ」


 だからこそ迷うことなく告白した。

 しかし、ここで誤算だったことが一つある。

 このセリフを言った後に僕が異様に恥ずかしくなってしまったことだ。

 胸に顔を埋めてる明日美に絶対聞こえるほど、心臓の高鳴りが激しくなっている。


「ちょ……ちょっと……ま、待って……」


 そんな僕の動揺とは別に明日美の方も動揺しているらしく、なぜか慌てた返事が返ってくる。

 どうやら僕がこんな風にあっさりと告白してくるとは思っていなかったらしい。

 その点でいうと、僕の勝ちなのだろう。

 けれど、お互いの羞恥心の点では引き分けだったらしい。


「うん、分かった」


 しかし、僕はその引き分けであることを悟られたくないため、余裕ぶった感じでそう返し、明日美の返事を待つことにした。


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