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告白 1

 深夜十二時過ぎーー。

 僕は近くの公園のベンチに座っていた。

 ちょっと息を吐けば、簡単に白く見えほど、かなり寒くなっている外に。

 時間が時間のせいなのだろう、道路にも公園にも僕以外の誰もいない。まるで世界に一人だけ取り残されたかのような錯覚さえ感じてしまっていた。


 その時、軽く人の気配を感じる。

 空気が澄んでいるせいか、足音も聞こえた気さえした。

 僕はそちらを顔を向ける。

 待ち合わせていた人物がここに来たことを願って。


「どうしたの? こんな時間に、こんな場所に呼び出して?」


 その人物は防寒具をしっかりと纏ってはいるものの、マフラーから出た鼻先は寒さで赤くし、鼻をスンスンと鳴らしながら、そう僕に尋ねてきた。

 けれど、怒っているわけではなく、ただ純粋に不思議がってるような言い方だった。

 その人物はーー北山明日美。

 全てのきっかけと一つに含まれる人物の一人。


 母さんの話を聞いた後、僕は自分の部屋で色々と考えた。

 今までのこと、これからのことを。

 その中で僕は明日美とどう接していけばいいのか、そのことについて考えた。考えたけれど、母さんの言う通り、明日美一人が悪いわけではない。だからこそ、顔を合わした時の対応を僕がどう取るのか気になってしまった。

 その気持ちが今すぐに確かめたくなってしまい、僕は連絡を取ったのだ。


「ちょっと私用だよ。明日美とちょっと顔を合わして確認しないといけないことがあったから」


 自分の気持ちを素直に伝える。

 明日美はまだ首を傾げているが、「ふーん」と漏らし、僕の座っているベンチに腰掛ける。


「こんな深夜に呼び出すなんて、よっぽどの用事だと思ったけど、そうじゃない感じ? 期待した私はバカだったのかな?」

「期待?」

「うん。いきなり連絡してきて、『電話じゃなくて、直接会って話したい』なんて言われたら、普通の女子なら告白されるとかの期待以外のなんでもないよ?」

「ああ……そっちか……。考えてなかったかも。うーん。でも、実際そっちの方面も加わるのかなぁ……」

「なにそれ、意味分かんない」

「僕だけが知ってる秘密だからさ、今は」

「もちろん、教えてくれるんでしょ?」

「教えるよ。教えなきゃ、僕たちは前に進めないから」

「進めない……ね……」


 何を思ったのか、明日美は意味深に僕の言葉を繰り返すと、そのまま僕の身体にもたれかかってくる。

 そんな明日美の行動に僕が戸惑い、軽く身動ぎしようとすると、


「ダメ。今は動かないで。しばらくこのままにさせて」


 珍しく不安に満ちた声でそう言われる。

 それだけで明日美も明日美で何かを覚悟していることが伝わってきた。

 不意に、また直感が走る。

 明日美は僕たちに起きた出来事を知っているんじゃないか?


 母さんの言う恩が関係しているのであれば、明日美の両親から聞かされている可能性は十分にある。

 だからこんなにも僕に優しいのではないか?

 だからこんなにも気にかけてくれているのではないか?

 そう思うと、それまでの明日美の行動がなんとなく合点が行くような気がしてしまった。

 けれど、そのことを確認する意味も含めて、明日美に尋ねることにした。


「ねぇ、この場所知ってる?」

「……うん」

「事故があったのは?」

「知ってる」

「聞いてたんだ」

「……記憶として残ってる。そう言った方が正しいのかも」

「そうなんだ」


 深く掘り下げる必要もなく、明日美は記憶が残っていることを教えてくれた。

 そう、この公園は父さんが亡くなる直前まで、僕たちが一緒に遊んでいた公園。そして一瞬にして、これからの未来を奪った場所だった。


「いつかはこんな日が来るって分かってた。こんな風に、このあの日のことを話される日が……」


 明日美の声は震えていた。

 自分がしてしまったことに対して自虐が入ったような深く絶望した声色にまでなっている。


「分かってたのに、なんで僕に近付いたのさ。近付かなきゃ、こんなことならなかったはずだよ」

「そんなこと分かってたもん。分かってたけど、気になってた。私には両親がちゃんといて、透にはお父さんがいないんだよ? 絶対、辛い思いしてるって考えたら、気にならないはずないよ」

「そっか。そこまで気にしてくれたんだ……」


 明日美が思うほど、僕は正直思いつめていなかったことを言えなかった。

 物心ついた時にはすでにいない父さんに対して、寂しいと思ったことはない。運動会とかの親子競技などで他の家族を見て、羨ましいと思ったことがないわけではないが、その代わりに祖父母がいてくれたから。だから、それだけでも僕は満足していたんだ、と今さらながらに思う。


「それにあの初めて……あの屋上の件覚えてるよね?」

「僕が自殺したくなかった時のことね」

「うん。あんな見たら助けないわけないじゃん。私のせいでお父さん亡くしてるのに、透まで死なせたりしたら、透のお母さんに合わせる顔ないよ」

「あれは明日美には関係ないからさ。そこまで考える必要なんてないけど」

「ううん、ダメなの。私は考えなきゃダメなの……。そうでもしなきゃ……償えるものも償い!」


 僕の考えている以上だった。

 幼い頃の記憶のはずなのに、なんでこんなにも明日美が思いつめる必要があるのか、それすら分からないぐらい思いつめていた。

 学校でも、家でも、僕に会う時、どんな気持ちであっていたのだろう。

 そんな会うだけで辛い日常を、僕には見せないように明るく演じていたのだろうか?


 なんとなく僕は明日美の気持ちが分からなかった自分に、ここまで思いつめていた明日美に対して、苛立ちが芽生えてきた。

 それは母さんに対してもだった。

 事件の当事者で言うでのあれば、僕もその一人だ。

 しかし、それを記憶を失っていたからという理由で誰も教えてくれず、まるで僕だけが仲間外れにされたような気さえしてしまったから。


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