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アクシデント 5

 一階に降りると、珍しく玄関に入ったところで座る母さんの姿があった。

 疲れから年に何度かダウンしてしまうことがあるのは知っているが、さすがに玄関口で座り込む姿を見たことがないので、予想以上に心配になってしまう。


「大丈夫? 風邪?」


 近寄ると、母さんは心配かけまいと無理矢理立ち上がろうとしていたので、


「無理に立たなくていいから。荷物は運んでおくから、少し落ち着いてからでいいよ」


 母さんの荷物を手に取り、急がなくていいことを伝える。


「ありがとう。ちょっとタイミングが悪かっただけだから、大丈夫」


 そんなよく分からないことを僕に言ってきた。

 タイミング?

 風邪とかにタイミングなんてあったっけ、と僕は一瞬、疑問に思ってしまう。しかし、ほんの少ししてから()()()であることに気付く。

 ボカしたのは思春期である僕を考慮しての発言というのも分かり、なるべくその件に関して追求しないことにする。

 ただ、気付いた時点で母さんの顔がいつも以上に青ざめていることが分かり、よほど苦しいのも伝わる。


「荷物置いてくるから、ちょっと待ってて」


 僕はそれだけ言い残し、素早く一階の母さんが使っている部屋に移動する。

 扉を開け、中に入ると通路の邪魔にならないところに荷物を置く。

 そして、部屋から出ようとしたタイミングで一瞬視界に仏壇の遺影が視界に入った。

 母さんが苦しそうな表情とは対照的に笑顔で写っている父さんの表情がそこにはあり、僕はちょっとだけ複雑な気持ちになる。

 だから、すぐに部屋から出て、玄関へと向かう。


「立てそう? 立てそうなら、肩貸すよ。部屋で横になるなり、座っておくなり、ゆっくりしておくといいよ」


 そう言って、座ったままでいる母さんへ声をかける。

 母さんはちょっとだけ苦しそうに「うーん」と唸った後、壁にもたれ掛かる感じでゆっくりと立ち上がり始める。

 急かしたかな?

 僕はそう思いつつも、片方の空いてる腕を僕の肩に回す形で受け止める。


「ごめんね」


 普段とは打って変わっての弱々しい言葉だった。

 僕に心配をかけまいと見せる気丈な母さんとは思えないほどのギャップを僕は感じてしまう。


「ううん、大丈夫。体調悪い時ぐらい心配かけさせてよ」

「ませたこと言わないの」

「ませるも何ももう高校生だし、来年には就職だよ? 普通のことでしょ」

「透はどんな年齢になっても私の中では子供なのよ」

「分かった分かった」


 そんなよく分からない会話をしつつ、母さんの歩みに任せるように僕もゆっくりと歩いていく。

 母さんはなるべく僕に体重をかけないようにしてくれているのだろうが、バランス感覚が悪くなっており、さらに全身の力も上手く調整出来ていないらしく、予想以上に重く感じてしまった。

 だから、なおさら心配になってしまう。

 これだけ体調が悪いってことは、きっと朝から悪かったはず。それをなんで見せてくれなかったのだろう、と感じてしまうほどに。


「僕に心配かけたくないのも分かるけど、無理しないでよね。それだけは言っとく」


 部屋に辿り着き、ベッドの上に座らせた後、僕はそうやって注意しておく。

 きっと聞かない。

 先ほど言ったように『僕がいつまでも母さんの中で子供』と思っている以上、聞こうともしない言葉なのは分かったが、言うと言わないとではかなり違うため、念のために言っただけにすぎない。


「分かってる。今度から気をつけるね」


 息も荒く、母さんは僕に無理矢理笑ってくれた。

 それ以上、僕は望むことは辞め、


「何かしてほしいことあったら、LINEででも言ってきてね。一応、レトルトのお粥とか飲み物とか買ってきて、準備だけはしとくから」


 それだけ言って、背中を向けて歩き出す。


「そんなことしなくてーー」


 その言葉を聞くつもりがない。

 そのことを行動に示すような形で、言葉の途中で部屋から出て、扉をゆっくりと閉める。

 母さんも僕の言うことを聞かないのだから、体調不良の時の心配から出る行動ぐらいは自由にさせてもらっても大丈夫なはずだから。

 もちろん、あとでそのことに対して怒られようとも後悔はない。


 同時に家から出る口実も作る必要があった。

 明日美と一緒に家を出れば、少なくともバレにくいということだ。

 足音などが二重になったとしても、現在(いま)の母さんの状態であれば、きっと空耳あたりで誤魔化せるはず。

 そう思って、僕はあまり響かないように急いで自分の部屋へと向かう。

 部屋の前に着くと、僕は小さくノックして、


「僕。入るね」


 と小声で明日美へと伝える。

 そして、ゆっくり扉を開けて急いで閉めた。

 僕だと認識した明日美は布団からゆっくりと顔を出し、周囲をキョロキョロと確認する感じで見回した後、


「お母さん大丈夫?」


 そう心配の声をかけてくれた。

 僕は首を小さく横へ振る。


「いろいろ重なったっぽくてヤバいかも」

「重なる?」


 明日美はちょっと考えた後、それ以上言わなくても同じ女として何か察したらしく、それ以上の追求をしてくる様子は見せなかった。


「お母さん、無理させないようにしないとね」

「分かってるよ。とりあえず帰る準備してよ。外に買い物に出る口実を作ったから、そのタイミングで出よう」

「うん、分かった。ちょっとだけ待ってて」


 明日美はそう言って、布団から素早く出ると帰る支度を始める。

 僕もまた同じように上着などを羽織り、外に出かける準備をし始めた。


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