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アクシデント 4

 その時、明日美が<えっ……⁉︎>と驚きの声を上げる。

 気付いてくれたッ!

 そこからの僕の行動は決まっていた。

 急いで、玄関へ向かい、チェーンロックと鍵の解鍵をすることだった。LINEでその返事をしてしまった以上、この行為は必須行為になっている。

 もちろん、その間も僕は耳を配信へ傾けることを止めない。


<ご、ごめんね! みんな、ちょっと急ぎの用事が出来たから配信終わるね! えっと……詳しい内容はTwitterにでも書くから! お疲れ様でした!>


 そう言って、明日美は急いで配信を止める。

 コメントをチラ見すると、やはり明日美の動揺がリスナーにも伝わっているようで、そのことについてのコメントが流れていた。しかし、配信が終わったことにより、コメントはそこで止まってしまう。あとはDMあたりで、心配の声が届くだろうが、それは許してもらうしかない。

 そんなことを思いながら、無事に玄関の解錠を終えた僕が二階に上がろうとしてると、


「ねぇ、どういうこと⁉︎」


 驚きの声と同時に階段の上から明日美が顔を覗かせてきた。

 どうやらいきなりの状況で戸惑っているらしい。


「体調が悪いから帰るって連絡が入ったんだよ! 僕のせいじゃない!」

「そんな怒らないでよ!」

「怒ってないし、焦ってるだけだよ! とりあえず明日美は部屋に戻って、念のため僕のベッドに布団にでも包まっておいて!」

「なんで⁉︎ 今のうちに帰れば、間に合うでしょ‼︎」

「無理! 連絡で十分後って言ってたから、どう考えても鉢合う可能性が高い!」


 僕は階段を登り切り、明日美の腕を掴むと無理矢理部屋の中へ連れ込む。

 こんな風に乱暴な行動をしたくないけれど、明日美が僕の意見に従ってくれない以上、今は力付くでもこうしないといけないと思ったからだ。


「乱暴すぎ! 少しは落ち着いてよッ!」


 明日美は抵抗自体はしなかったが、部屋に入るなり、そう言って僕から振り払い、掴んでいたところを簡単にさすっている。

 どうやら予想以上に力が込められていたらしい。

 その行為と言葉に僕はハッとさせられてしまう。


「ご、ごめん! 無意識に力がこもってた……」

「別にいいけど……とりあえず状況整理を簡単にしよ?」

「あ……そんなに時間はーー」

「『連絡が来てから、そんなに時間がないから私は帰れない。だから一旦、透の部屋に隠れて、大人しくしておく。それでタイミングを見つけて、私を外に出してくれる』。これでいい?」


 僕の言葉を遮ってまで、明日美は状況整理をしてくれた。

 それを聞くだけで僕の頭に登っていた血が少し下がり、自分がこれから何をすべきか、どうしたらいいのかが分かってきたような感覚がした。


「うん。それで間違ってない。ありがとう」

「どういたしまして。焦るのも分かるけど、落ち着こう? 落ち着いてないと透のお母さんにバレちゃうから」

「バレるかな? 一応、『体調不良ってことで心配になった』って理由で誤魔化せそうな気がしないでもないけど」


 僕の言い訳を否定するように明日美は首を横に振る。

 迷いも悩みもないほどすっきとした否定だった。


「透が思っている以上に女性って敏感なんだよ。それが他人にでも分かるんだよ? もし、それが今までずっと一緒だった母親の場合、すぐに勘づかれるの。それぐらいすごいんだから」

「そうなの?」

「うん、そうなの。明日美もお母さんにはーー」

「私は隠すの上手いから。だから、大丈夫だよ! そんなことより時間になるんじゃない?」

「え?」


 そう言って、明日美は壁に掛けてある時計を指差す。

 明日美の言う通り、母さんが帰ってきてもおかしくない時間になっていた。


「私も一応、透の言う通りにしておくから、ちゃんと帰らせてくれるタイミング見つけて、外に出してね?」

「うん、分かってる。さすがにお泊まりはマズい」


 それは状況的にも僕の精神的にもだ。

 正直、二人っきりでお泊りまもどうなるか分からない状況なのに、母さんがいる状態での秘密のお泊りなんて、なおさら精神的におかしくなってしまう。しかも、未だに竜也の言った言葉の真偽がどうであれ、良い年齢の学生がそんなことをすれば、間違いがあってもおかしくない。

 そう思うと、『全力でお泊まりは免れない』といけないとう謎の使命感が湧いてきてしまっていた。


 その頃、明日美は僕の言った通り、ベッドの上に寝転がると畳んでいた布団の中に身を隠していた。

 視界の中にそれを見つつ、僕はハッとしてしまう。

 なんてことをあのタイミングで言ったんだ、と。

 隠れると言う意味では布団の中は安全だし、状況的にも間違ってない選択肢ではないと思う。しかし、冷静に考えると、()()()()()()()()()()()の中に包まるという状況が、どう考えてもおかしいことに気付いてしまう。


「あ、あの……やっぱりそこまでしなくてもいいよ?」


 違う意味で冷や汗ダラダラの僕になってしまったは、おそるおそるそう尋ねる。

 布団の中から口元を隠すように顔を出した明日美の頰は少しだけ赤面していた。

 どうやら恥ずかしいらしい。

 それが分かっているのであれば、早く布団から出ればいいと思うのだが、


「無理。隠れろって言ったのは透でしょ? 責任取ってよね?」


 などと発言的におかしいことを言う始末。

 結局のところ、二人とも引くに引けない状況で頭がおかしくなっているらしい。

 しかも、そのタイミングで玄関のチャイムが鳴り、母さんが帰ってきたことを知らせる合図と共に、


「ただいま……」


 と無理矢理声を張り上げる形で母さんの声が聞こえてきた。


「ほら、早く行かないと」


 明日美は小声でそう急かし、再び布団の中に隠れてしまう。


「ーーーーッ! おかえりー!」


 僕は恥ずかしさとなんとも言えない感覚に襲われ、ガシガシと髪を掻いた後、母さんがいる玄関へと急いで向かうことにした。


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