親友との真面目な話 3
「どういたしまして、でいいのかな? 余計なことをしたけど」
僕は竜也に言われたお礼に対して、皮肉じみた言い方で返す。
なんだから、素直にお礼を受け止めるのは恥ずかしかったから。
「最後の余計だっての! でも、それの返答でいいと思うぜ?」
僕の予想通りの反応を取ってくれる竜也。
だからこそ扱いやすいし、僕との間に遠慮なんてないからこそ、親友で入れる。
なんとなく竜也と親友になれた理由が分かったような気がした。
だけど、そのことを竜也には言わない。言うとしても、腐れ縁や親友に近い友達でいいだろう。きっと調子に乗る未来が手に取るように分かるから。
ただ、それより気になることがあった。
それは僕が家から出て行った三十分間、『二人は何をしていたのか?』ということだ。
きっと、それは僕の顔に出ていたのだろう。
急に竜也がその時のことを話し始める。
「竜也が居なくなった後も、なんだかんだ大変だったなぁ……」
「急に、しみじみとどしたのさ。っていうか、何がどんな風に大変だったの?」
「明日美さんが泣きそうになって、あわあわし始めるし」
「……嘘でしょ?」
「マジ」
「嘘と言ってよ!」
「バーニィ!」
急に僕の言葉に続けるような形で、竜也はそんなボケを言っていた。
このネタ、何人の人が分かるのだろう?
単なるガンダムネタの一つではあるのだが、いきなりそれを言ってくる理由がよく分からず、僕は無言になる。
さすがにこの空気はマズいと思ったのか、竜也は「コホン」と一つ咳き込んだ。
「悪い悪い。そんなあどけない感じで言われるとは思ってなくて、思わずネタを言っちまったわ」
「この流れで、こんなボケを入れられるのはきっと竜也だけだよ。シリアスもクソも台無しじゃん」
「それが俺だからな」
「自慢にならないけどね。それで、本当に泣きそうになったの?」
「おう。さっきも言ったように『病み上がりになのに、風邪ぶり返しちゃったらどうしよう』みたいなことを言いながら、すっげー動揺してた」
「そんな姿見たことないんだけど?」
その様子がやっぱり僕には信じられなかった。
あの明日美が、僕のためにそんな風に動揺するなんて想像すら出来ない。普段の僕の前ではしっかりしている姿がしか
「それは知らないっての。俺もさすがにその取り乱しっぷりには驚いたけどさ。逆に俺の涙が引いたわ」
「だろうね。それで?」
「とにかく落ち着くように促すしかないし、すぐに引き戻したらだめだろうってことで無理矢理納得させて、落ち着かせた。あとは俺と明日美さんが『もう仲直りした』っていう感じの打ち合わせをして、話を振られた時の対処を考えた」
「……念入りなことで」
改めて感心してしまうレベルだった。
まさか、そこまで打ち合わせをしようなんて考えているなんて、考えてもいなかったからだ。
それよりも僕自身のことで精一杯になっていた自分が恥ずかしくさえ思え、正直恥以外のなにものでもなかった。
「ったくさ……お前らはそんなに好き合ってるのに、なんで未だに付き合ってないのか、俺は不思議でたまらないぜ」
腕を組み、情けないため息を吐きつつ、竜也は予想だにもしないことポツリと口にする。
明日美が僕のことを好き?
そんな仕草や様子は今までに見たことがない僕は信じられいでいた。
行動としては間違いなく慰めるの段階を超えている時もあるけれど、少なくとも僕の認識としては慰めの延長線上であることは変わらないと思っている。たぶんの話だが竜也の時も僕が部屋に残っていれば、そんな風に取り乱すことなく、慰めていたと思うから。
「何、信じられないって顔してんだよ」
「だって信じられないじゃん」
「マジで言ってる?」
「うん」
「かぁぁあああ! モテるって奴は、これが分かっていないからダメなんだよなー!」
「モテてはない!」
「うるせー! だいたい、勝手に家から出た病み上がりの奴をそこまで心配するなんて、好き以外のなにものでもないだろうが! っていうか、二人っきりという状況で他人の家に上がり込んでまで、『配信したい 』って言う奴がいるか!」
「それは……まぁ、考えなかったわけではない」
竜也の言う通りだ。
僕だってそのことを自分なりに考え、竜也と同じ考えに至っている。だが、それを口に出して確認したり、行動で確認しなかったことには訳がある。
単純にその考えが外した場合、僕は永久に明日美と話せなくなる。接点を切られるという恐怖に打ち勝てる自信がなかったからだ。しかも、タイミングが推していた配信者との縁が切れたこのタイミングで、そのことを確認する勇気なんてものはあるはずもない。
「ぶっちゃけ、最初から俺が入る隙なんてなかったんだよなー」
他人の家だというのに、両手を頭の下敷きにするようにして、竜也は横になる。
ちょっとだけ今の僕の状況が羨ましいと言われているような気がした。
「隙があったら、もしかしたら好きになってた?」
「分かんね。現状が現状だけに可能性としてはあったとしても、低確率だったんじゃないか? 別に親友の恋愛を邪魔するつもりはハナっからないし、もしそうなったらそうなったてちゃんと言うと思うし」
「言いづらい状況だけどね」
「まともに張り合うつもりがないなら、諦めるってのが一番さ。一人の女を奪い合う前に、俺たちは親友だ。それぐらいしなきゃ、親友なんてなれないだろ」
「カッコいいこ言うじゃん」
「たまにはな」
「んー、ここ一ヶ月、漢としての株は僕の中で上がってる気がするけど?」
屋上の時のことを僕は思い出す。
あの時は状況が状況だけに茶化す余裕がなかっただけかもしれないが、僕の中では十分にタメになった言葉だった。
だから、普段の間抜けな時や現在の竜也を比較すると、十分に漢として上がっているはずだ。
「ま、上がったところでよ。好きになってくれる人がいなきゃ、意味ないけどな」
やっぱりそこだけは気になるらしく、不満を口にする。
そればかりは仕方ないことだ。
好きになってもらいたいなら、それなりの行動をしなきゃいけないし、『待っている』という選択肢を選び、好きになってもらうなんて相当の低確率なのだから。
そう考えると僕の今の状況は恵まれているのだろう。
竜也がこんな風に不貞腐れてるのも分かる気がして、僕は下手なことが言えなくなってしまった。




