明日美について 4
「あ、そっか」
不意に明日美が僕に向かって、何か察したような反応を取る。
その時、僕の心はドキッと跳ね上がるような気がした。
「いきなりどうしたの?」
だから僕はわざととぼけたフリをして、その反応を確かめることにした。
「って察したような言い方したけど、なんでもないよ」
「その変な誤魔化し方なに?」
「誤魔化すも何も本心だもん。むしろ透が鈍感なんだよ」
「……鈍感ってどういうこと?」
明日美の言っている意図が僕には全く伝わらない。
一体、何に対して、その言葉を言っているのかが……。
少なくともどこかしらにその意味があるからこそ、こんな言い方をしているのは分かっているのだけれど……。
そんな僕の様子を見ていた明日美が呆れたようなため息を吐き、椅子を回転させ、パソコンの方へ向き直る。どうやら、その意味を教えてくれる気はないらしい。
だから、僕は諦めてベッドから立ち上がる。
そして、勉強机の上に置いてあるイヤホンを取って、部屋から出ようと歩き始める。
その一歩を踏み出した時だった。
「本当に分からないの?」
明日美が僕の行動を咎めるような形でそう尋ねてきた。
僕がそちらに顔を向けるも、明日美はパソコンの方へ顔を向け続けたまま、マウスを操作し、配信する準備を続けている。
「うん。まぁ……」
「そっか。分からないんだ。こんな話、最初から信用してる人にしかしないって決まってるのに……」
「……へ?」
完全に不意打ちな言い方をされてしまい、僕の思考はほんの一瞬止まってしまう。
望んでいた言葉を予想外のタイミングで言われてしまったから。
でも言われてみれば、の話だ。
身内話の闇に触れる部分なんてものは、普通他人にはしない。そんなことを他人に号外してしまえば、恥でしかないのだ。そもそも、お金に関わることなんて、先ほど明日美が言ったように『他人に利用されかねない』もの。なるべくはしたくない話だろう。
それを聞かせてくれた時点で気付くべきだったのかもしれない。僕は自分の欲しがった言葉そのものが意味をなしてないことに。
「気付くの遅すぎだった。ごめん。信用してくれてありがとう」
謝るのもきっと違うだろう。
だから、最後に感謝の言葉を伝えておく。
それが最善の答えだと思うから。
「どういたしまして、なのかな? そこはよく分からないけど」
「それでいいと思うよ?」
「うん。何度も言うようだけど、これは秘密だよ? 二人だけの秘密」
「……うん、分かってる。守るよ」
「それなら大丈夫! じゃあ、そろそろ配信でも始めようかな?」
そう言いながらも、パソコンの画面ではすでに配信をクリック一つで進められる段階まで来ていた。
あとは僕が部屋を出て、少し経てば配信を始めるだけの状態。
ただ、ここで僕は一つ思い出したことがあるので、そのことだけは確認しておくことにした。
「竜也は配信すること知ってるの?」
「え? 知らないと思うよ。教えてないし、まずそのことに対してもツイートしてないし。そもそもDMも最近は返せる状況じゃなかったから、返してもないし」
「リプではあんなに仲良しなのに?」
「リプぐらいはね。結局、一リスナーだもん。そこまで気にしなくてもいいんじゃないって感じかな? だいたい同級生に配信してることを知られて、配信を見られてるっていう状況が信じられないっていう状況だし」
「まぁ、それはね」
「だから、そんなに気にしなくてもいいと思うよ」
「分かった。頑張ってね」
「うん、ありがとう」
僕は部屋から出て、階段を降り、リビングへと向かう。
明日美の言葉が僕の中で嬉しさに変わっていた。
竜也よりも僕の方が近い存在としている。
その発言が遠回しでありながら聞けたからだ。
「本当に現金な奴だな、僕は」
そんなことを言いながらも、やっぱり発した言葉も嬉しさに包まれていた。
リビングの椅子に座り、スマホにイヤホンを接続したところで明日美が配信を始めた通知がやってくる。
僕は迷うことなく、その配信を見る。
ただ、すぐにコメントすることはやめておいた。そんなことをすれば、明日美が配信をすることが他のリスナーにバレてしまうからだ。
三分ほど経ってから、ようやくコメントを開始。
竜也が配信を見にきたのは、配信を始めて、十分後のことだった。
本当に配信をすることは知らなかったらしいコメントを挨拶の後にしていた。
そのあと、僕のLINEにもそのことについての愚痴が来ていたのだが、それに対しては『知ってると思った』と簡単に返しておく。
何かあったら、明日美が対応してくれるだろうと思って。
ただ、予想外だったのは『次から配信する時は教えてくれ』という約束が飛んできたことだ。こればかりは拒否をしたらおかしいため、了承しておくことにした。
そして、配信は無事に一枠終わる。
配信としては普通に楽しかったと思う。なんだかんだ、いつもの視聴者数が来ていたので、久しぶりとしては上々なはずだと思う。
竜也は普段通り、暴走に近いコメントをしていたが、同級生だと分かった以上、明日美の捌き方は今までのような迷いや遠慮なくぶった切っていた。っていうか、面倒なものは無視する流れにしていた。
「コツ掴めたのかな? 他のリスナーもこんな感じで捌けばいいって……」
竜也が反面教師として役立っていることをなんとなく感じ、明日美が配信者として一つスキルが上がったような気さえした。
同級生だから遠慮がないだけなのかもしれないけれど。
だが、結果的に最後は竜也のような捌き方になるのだと思う。
そんな感じで、僕は子供を見るような大人の視点にいつの間にかなってしまっていた。




