明日美について 3
ともかく僕は話を続かせないとと思い、必死に考えた結果、
「これからはお嬢様って呼んだ方がいい? 配信以外では?」
と半分冗談として聞いてみる。
その言葉を言われた途端、ムスッと不機嫌になる明日美。言葉を聞かなくても分かるぐらい、その言い方は嫌らしい。
「冗談だって! 冗談‼︎」
僕は両手を伸ばし、頭を左右に振りながら、それを冗談であることを必死にアピールする。
しかし、明日美の様子は元に戻る気配はなく、不機嫌なままだった。
「なんで透まで、そんなことを言い始めるのかなぁ……。まったく勘弁して欲しいんだけど?」
ようやく口を開いたと思ったら、予想以上に意味深な言い方の発言をされてしまう。
「僕までって? 誰かにそんな風に呼ばれたの?」
「『呼ばれたの』って言い方は正確じゃないよ。厳密には『呼ばれてる』が正解なの」
「なにそれ、本当に時代錯誤かヤクザ的な流れじゃん」
「ま〜ね。でも、本当にヤクザじゃないからね? 地主だから土地代でお金を稼いでるってだけだから、間違えないでね?」
明日美は必死にそう言って、ヤクザ扱いされることを全力で拒否してくる。
過去に、何かそういう関連で問題でも起きたんだろうか?
そんなことを考えさせられてしまうほど、必死だった。
必死だからこそ、興味はそそられつつも聞くわけにもいかない状況でもあり、心がモヤモヤした状態になってしまう。
「分かってるって、ヤクザじゃないのは冗談だよ。んで、なんでお嬢様って呼ばれてるの? さっきのお父さんの話だと、家督を継ぐって流れではなかったと思うけど」
「二つの意味があると思うんだよね」
「二つの意味?」
「うん。一つは、私のお父さんが院長って言ったでしょ? だから、『将来的に継ぐ』って意味でお嬢様って呼ばれてるんだと思う」
「なるなる。それはまだ納得行くね。本当になるかどうかは分からないとしても」
「そうだね。勝手にそういう話にされてるっていうのも面倒なんだけど」
自分の置かれた立場が本当に面倒らしく、深いため息を一つ大きく吐く明日美。
同時に堅苦しいのか、首を肩にくっつけるような感じで曲げて、ほぐし始める。
「それは本当に面倒だね。じゃあ、二つ目の理由はなんなの?」
「二つ目は……これ、秘密だよ? お父さんが院長ってだけでも面倒なんだから。もちろん、この話も誰にも言っちゃダメだからね。竜也くんにも」
「分かってるよ」
「本当かな〜。なんか口滑らせそうなんだけど?」
「大丈夫だって! 絶対に言わない! 言ったら、なんか罰を受ける!」
「じゃあ、その罰はまた今度考えるとして……二つ目は『私がお爺様の立場を引き継ぐ可能性があるから』とでも言っておこうかな?」
「……なんで?」
それは当たり前の質問だった。
一つ目の理由は間違いなく納得がいくものだった。しかし、二つ目の内容もまた同じく『継ぐ』というものだったのだが、年齢や立場上の話をすると明日美は関係ないものだと思う。だって、明日美よりも先に長男である人、明日美のお父さん、明日美のお母さんがいるのだ。長男の人に奥さんが居なかったとしても、最低でも二人は明日美の前にその候補がいるはずなのに、明日美が継ぐという可能性の意味が分からない。
「だよね〜。やっぱり分からないよね〜」
まるで明日美は、僕の反応が分かっていたかのような言い方をしてくる。
どうやら僕の推測も間違ってはいないらしい。
「じゃあ、その理由教えてよ」
「ここまで来れば教えるけどね。単純な話なんだけど、『お爺様が誰を気に入ってるか?』の話なの。ここまで言ったら分かるでしょ?」
「『孫である明日美が一番可愛い』的な流れ?」
「正解。あくまで、それが本当かどうか分からないよ? 少なくとも私は冗談で受け止めてるけど、周りが将来的なことも考えて気を使ってるってだけ」
「そんなこともあるの?」
「割とね〜。ほら、ご機嫌でも取っておけば、何かあった時に力になってもらえるでしょ?」
「邪な考えすぎる……」
「お金持ちの人間関係なんて腐ってるんだよ」
やだやだと言わんばかりの言い方で首を振る明日美。
確実にその状況を子供の時から目の当たりにしたような言い方だった。
そもそも、ここまで来ると僕の想像を超えるレベルに達しているため、何をどう言ったらいいのか困ってしまっていた。
下手な励ましは煽るだけのものになってしまうことは十分には理解かっている。
「と、ともかくそういう理由なのね。納得したよ。うん、これ以上は触れない方がいいのも理解した」
結局出来ることは、そうやって会話を無理矢理終結させることぐらいだった。
ただ、最後に残った疑問もあった。
こればかりはやっぱり気になったので聞いておくことにした。
「でもさ、そのこと僕に話しても良かったの? ほら、さっき言ってた人間関係の話の流れで言うと、僕もその腐っている立場で、今後お金を借りたり、利用したりするかもしれないよ?」
「透が? お金を借りたり、利用したり?」
「うん。お金を借りるって言っても、高額の話だけど。ジュース奢ったりとかの話じゃなくて」
「出来るの?」
質問を質問で返されてしまう。
その返しは間違いなく正解の返しなのかもしれない。
だって僕自身がその可能性は低いと思っているからだ。少なくともお金に関しては、何かしらの理由で困り、借りる可能性はある。けれど、利用という意味では限りなく低い。むしろ、利用と考えたところでそれを見透かされ、計画が頓挫してしまう可能性が強すぎる。
現状、今も僕が利用する立場ではなく、利用される立場であることは違いない。そこに同意があるっていうものが条件ではあるが。
「ほら、もう自分で答え出してるでしょ? そんな野暮なこと聞かないでよ」
明日美はそれが分かっていたようで、面倒臭そうに言ってきた。
その通りなのだが、僕自身が考えていたのは、明日美からの「信用してるから言ったんだよ」という一言が欲しかったのだと、ここで気付く。
答えなんてものは自分自身が最初から分かっているのだから。




