問題解決? 8
明日美は大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
晒し上げるという五個目の選択肢を作ったのは明日美であるにも関わらず、少し緊張してるようにさえ見える。
「じゃあ、行くよ? まず名前からね? 名前は『DTドラゴン』だね」
そう言って、僕たちにDMのメッセージを隠すようにして名前の部分だけを見せてくれた。
「うわあああああああああああああああああ‼︎ 俺じゃねぇかよおおおおおおおおおおおおおおおおお‼︎!」
瞬間、竜也は絶叫した。
僕と明日美は慌てて耳を塞ぐ。
「うるさい! 近所迷惑になるから喚かないでよ!」
座っていた布団から立ち上がると言葉と共に僕は竜也の頭を軽く引っ叩く。
それほど竜也の絶叫はうるさかったのだ。
「……ッ! 痛いって! 俺の心の痛みも分かってくれよッ!」
「それはまぁ……分からなくもないけどさ……。それでも近所迷惑も考えてよ!」
「それは……ごめん……」
シュンとなる竜也。
見ていられなくぐらい落ち込み、目には少しばかり涙が浮かんでいるように思えた。っていうか、声が半分泣き出しそうなものに変化していた。
あと少し、何かで追い討ちをかければ間違いなく年甲斐もなく泣く。
それが分かるほどのダメージを負っていた。
だから僕は明日美を見る。
もうこれ以上、追い詰めないであげて。
その意味を込めた視線で。
僕の視線の意味を理解をしたらしく、明日美は小さくため息を吐き、竜也の近くへ歩み寄る。
なんとなくだが、その行動の意味を理解することが出来た僕は少しだけホッとした。
しかし、竜也はその意味を分かっていないため、ギュッと強く目を閉じ、恐怖に怯えている。まるで子供が親に叱られる時に見せる、そんな恐怖を感じているようにさえ思えた。
「大丈夫だよ、竜也くん。もう追い詰めないから安心して。さっきのは冗談だから」
明日美はそう言うと、竜也の頭の上に手を置き、優しく撫でる。
その光景は僕が何度もされてきた光景。
けれど、第三者視点から見るのは初めて見るもの。
竜也は何が起きているのか分からない表情で明日美を見つめている。
「何、怯えてるの? もうこれ以上、追い詰めないから安心していいよ。ほら、そんな泣きそうな顔しないで。ごめんね?」
「え? あ……、え……?」
「大丈夫大丈夫。ゆっくり深呼吸しよ?」
「あ……、うん」
竜也は明日美に促されるまま、ゆっくり深呼吸をしていく。
そこで僕は誰に指示されたわけでもなく、ドアの方へ歩き、何も言わずに部屋を出た。そして、そのまま一階へ降り、玄関の方へ向かう。
そのまま、僕はトレーナーという薄着の状態で家から出る。
「さて、これからどうしようかな……」
外に出ると、案の定寒くて思いっきり体を震わせる。
しかし、あのまま部屋に中や家の中にいるわけにはいかなかった。
だって、あの状況で竜也が落ち着けば、泣き出しそうな雰囲気を感じてしまっていたから。
男の泣き声なんて、誰にも聞かせたくない。いや、それ以上に身内でない以上、聞きたくない。
それが僕の気持ちだった。
しかも、それが親友という立場の友達だったらなおさら。
もちろん、他にも要因はある。
それは明日美が誰かを慰めるという行為を見たくない。
きっと気持ち的にはこれが一番強いと思う。
明日美自身が言うように、困っている人がいたり、あんな風に落ち込んだ人がいれば励ますだろう。そこに恋愛意識を持っていようが、持っていなかろうがたぶん平等に。
それが北山明日美という女の子だ。
僕はそう思うだけで、考えるだけで……心に痛みが走る。
「もうダメだな……」
嫉妬まではいってないと思う。
けれど、恋愛感情を自覚するには十分な気持ちと行動だ。
そこで僕は竜也と明日美を巡っての恋愛バトルの可能性を考えた。
勝てる気がしなかった。
勝てる気どころか、僕がその戦いから逃げる可能性の方が強いため、そもそもバトルにすらならない。きっと譲る立場になってしまう。
『二人が幸せになればいいよ』
そんなクソみたいな思ってない言葉を口にして譲るのだろう。
十分に考えられる未来だ。
「ははは……何してんだろ、僕は」
思わず自嘲してしまう。
自分の家なのに二人のためという名目で逃げ出し、挙げ句の果てには好きになってしまった人を親友に譲る。
まるで二流の恋愛作品を実体験しているかのような感覚さえあった。
「さて、どうしよう。あったかい場所を求めてコンビニでも行くかな……。違うか、そこしか逃げ場所が今は思いつかないのか」
そう溢し、僕はコンビニへと重い足取りで歩き始める。
竜也ではなく、僕が泣いてしまいそうだった。
けど、今は誰も慰めてくれる人はいない。
そう思うと、やっぱり滑稽すぎる自分に対して笑いが漏れてしまう。
本当に僕はバカだ。
何度も何度も自問と自答を繰り返し、そんな自分を笑うことを繰り返すのだった。
それから三十分後のことだった。
明日美から『もう大丈夫だから帰ってきて』というメッセージが届いたのは。
僕はその連絡の通り、家に帰る。
今の気持ちを誤魔化しきれるかは分からなかったが、竜也の方がショックを受けていることを考えると隠すことしか出来ない。
それが一番の選択なのだから。
家に帰ると、竜也と明日美がすぐに謝ってくれた。
僕が気を使って家を出たことについて。
そして、体調のことも気遣ってくれた。
だから、笑って誤魔化しつつ、僕たちはその日をギクシャクしながらも過ごす。
きっと全員が居心地が悪かったが、二人とも「家に帰る」などの言葉は言わなかった。どうやら、その言葉を使うことがこの場を乱してしまう発言だと分かっているかのように……。




