問題解決? 5
「なんか色々と脱線してるからなんだけど、話を元に戻してもいい?」
二人の呼び名問題が終わったところで、僕は二人に尋ねる。
明日美からすれば、きっとこの呼び名問題は大問題だったのだろう。僕を軽く睨んで来たが、僕の問いに対して否定する様子は見せなかった。
竜也もまた少し不満そうな表情を見せたものの否定する様子はなく、僕を一瞥した後、明日美の方を見つめる。
そこで「あっ」と声を漏らす明日美。
「言っとくけど、内容までは言わないからね?」
その理由は僕はなんとなく察することが出来る。簡単に言うとプライバシーの問題のだからだ。
しかし、その言葉に対して竜也が首を傾げ、
「なんで?」
とあっさりと聞き返した。
それを素で言っているのか、それともワザと言っているのか分からないほどのあっさりとした尋ね方で。
「内容まで教えたら可哀想でしょ?」
「そうなの? 俺なら普通に言っちゃうけど」
「それこそなんで?」
「身内や友達じゃないから? 自分に害のある奴を守る方がおかしいじゃん」
「そう言う理由は分かるけど……」
「あっ、でも勘違いしちゃダメだぜ?」
「何を?」
「こうやってリア友っていう枠で話すから晒しても良いって言ってるだけで、それをリスナーとか配信中に言うのはダメだと思ってる。いくら解決出来なくて、愚痴りたくなったとしても」
至極、まともなことを格好付けずにサラっと言い出す竜也。
なんだか僕にはそれを言う竜也が輝いて見えたような気さえした。
先ほどまでふざけていた人間とは思えなくて。
明日美も同じようにポカーンとしていた。
感想は言うまでもなく、僕と同じ気持ちになっているらしい。
明日美が黙ってしまったことで、竜也は「へ?」と言ったような不思議そうな顔をしており、やっぱりこの場の状況を把握出来ていないようだった。
「竜也くんって、たまにはすごく良いこと言うんだね」
「え? たまにはってどう意味?」
「言葉の通りだよ。うん、だから気にしないで」
「待て待て、気になるから。教えろって」
「それはやだ。教えると調子に乗りそうだから」
「……」
そう言われ、今度は竜也が沈黙してしまう。
明日美の言う通りだと、自分の中で納得出来たような反応だ。
「それで明日美、どうする? 僕は別にどっちでも良いんだけど」
竜也が沈黙してしまったので、再び話が脱線しないようにそう尋ねる。
その質問に対し、明日美は「んー……」と唸り出す。
どうやら竜也の言ってることは理解出来たとしても、心の中で残っている理性がそれを拒んでいるらしい。
しばらく黙り、悩んだ末、
「そうだね。詳しい内容を言ったり、DMを見せたりは出来ないけど、簡単な内容を教えるぐらいならいいかな」
明日美は小さく息を吐き、自分の中で見つけた妥協点を答えた。
「じゃあ、そういうことで。それでいいよね、竜也も」
「もち! いったい、どんな内容を送ってんだよ、その腐れ外道はよ!」
竜也は先ほどより食いつきの反応を見せる。
それぐらいテンションが上がっているようだった。
それは僕も同じだ。
口では「聞かなくてもいい」とは言っているものの、心の中ではどんな内容が送られて来ているのか、正直気になっていた。嫉妬とかそういうのではなく、純粋な興味からだ。
「二人とも、そんなに知りたかったんだ」
明日美はちょっとだけ困ったような笑いを浮かべながら、僕たちの様子を伝えて来た。
確かに竜也は口調やセリフ、様子で分かる。
しかし、僕は竜也ほど出していない……つもりだった。
それを悟られるほど、テンションが上がっているのかな?
思わず、鏡を見て、自分の様子を確認したくなるほど気になってしまった。が、そんなことをしてる場合ではないので、グッと我慢する。
「それで内容ってどんなの?」
「内容はすごく簡単に言って、『私と雑談』とか『今度会おう』とか言う内容かな?」
「よくある出会い厨と言われる奴じゃん」
「そうなんだよ。でも、私も最初は冗談だと思うでしょ? だから軽く流してたんだけど、相手からしたら本気っぽくてたまに言ってくるの」
「ふーん。気楽に住んでる県とか言うものじゃないね、やっぱり」
僕たちが住んでいる県をリスナーに伝えることについて、僕は明日美に注意していなかった。
それは単純に『住んでいる県を聞いたところで、実際に会えるわけじゃない』ということをリスナーは分かっていると思っているからだ。確かにリア凸と呼ばれる『配信者が企画する出会いの場』もある。しかし、それは配信者と二人っきりではなく、大勢の人と交流を持つ為の場であるため、危険性はまだ少ない。だからこそ開かれるのであって、二人っきりで出会うなど基本有り得ないのだ。
それに他の配信者も同じように軽く言っている節があるからこそ、僕自身も軽んじていた部分があった。だからこそ、それは僕も反省しなければいけない部分なのだろう。
「ごめん。僕も本気で言ってくる人がいるってこと、もうちょっと早く気付いてればよかったよね」
申し訳なくなってしまった僕は思わず謝ってしまう。
きっとこれは僕が悪いわけではないのに。
「大丈夫だよ。私ももうちょっといい感じに断れれば、良かっただけの話だし。そうやって透が気にしちゃうから、あまり言いたくなかっただけだよ」
そう言って、明日美は僕に向かって苦笑してきた。
その通りだからこそ、僕は何も言えなくなってしまう。
ここでまた謝ってしまえば、きっと同じことに繰り返しなり、お互いどうすればいいのか分からなくなってしまうのだから。
だから、僕は助けを求めるように竜也を見る。
しかし、すぐに僕は竜也に助けを求めるような状況ではないことに気付いてしまった。




