問題解決? 4
部屋に戻ると、明日美は僕に対しては何も言うことをしなかった。
どちらかと言うと遅刻してきた竜也に対して、ちょっとだけ不機嫌な様子を見せているようだった。
きっかけは今までの流れで、自然とヒエラルキーが出来、明日美の中で竜也が一番下になっているらしい。
それは竜也の様子にも軽く現れて降り、先ほどまで僕に接していた堂々としていた様子とは打って変わって、おどおどとしたような状態になっていた。
「遅れてごめん! ちょっとさ、用事が出来ちゃってさ」
それを誤魔化すためか、ちょっとだけテンション高めに竜也はそう言うけれど、目は軽く泳いでいた。
「それは分かるんだけど、なんで遅れたの? 言いたくないなら別にいいけど」
別に明日美はそのことに対して、怒っているような雰囲気は口調ではない。どちらかと言うと興味本位から聞いているような状態だった。
しかし、なぜだろうか?
僕にはそれが強制的に聞こえてしまったのは。
きっと僕は屋上での件で怯えているからだろう。それさえなければ、きっとさっきまでと同じような雰囲気で接することが出来ていたと思う。
対して竜也は少し口ごもりながら、竜也が来るまで僕が座っていた椅子に腰をかけながら、
「ほら、配信アプリ教えてもらったじゃん?」
などと急に語り始める。
明日美が配信をするためには、そのことを教えないわけにはいかなかったため、僕と明日美はそれについて頷くことしか出来ない。
「それでさ、俺も気まぐれでそのアプリを落としてみたんだよね。んで暇な時にラジオみたいな感じで聞くじゃん?」
「もしかして気に入った配信を見つけたってこと?」
明日美が何かを察したようにそう尋ねる。
僕はここまで聞いて、もうすでに竜也が『なぜ遅刻したのか』という理由に察することが出来ていた。いや、半分はもう答えを言っているようなものだ。
「そうそう。それでさ、タイミングが悪いことに出かける直前に配信を始めちゃったんだよね。んで、それを聞く……いや、聞きたいじゃん。でも聞きながらだとネットの容量食うだろ? だからーー」
「その配信を聞き終わってから、家を出たって言いたいの?」
「さすが、その通り!」
なぜか指をパチンと鳴らして、察してくれたことを喜ぶ竜也。
しかし、僕と明日美の反応は冷めたものだった。
もっと大きな用事だと軽く思っていたせいもあったが、理由が理由だけになんとも言えない気持ちになってしまっていたから。
別に竜也に『好きな配信者が出来、それを見たい』というのであれば、僕は別に構わない。その気持ちが分からなくないからだ。きっとそれは配信者として活動している明日美も分からなくもないだろう。
ただせめて、『それが理由なら最初から素直に言っとけ』と言いたくなってしまったのだ。理由が急ぎでもなく、ただLINEで簡単に出来るものだからこそ。
「うん。まぁ、大した用事じゃなくて良かったよ」
だからこそ僕は皮肉を込めてそう言った・
明日美もまたそれに同意するように、
「うん。大事な用事じゃなくてよかった。何かあったのかと思ったよ」
さらに皮肉を込めていた。
僕たちの反応に竜也はちょっとだけ首を傾げている。
まるで理解はしていないようだった。
「とにかくそういう理由で遅れた。すまんかった。んで、話を戻そうぜ。確かあすみんに迷惑をかけてる奴の話をしてたんだよな?」
本心で謝ってるのか、それとも形だけでも謝ろうと思ったのか竜也はそう言って、僕たちに謝罪の言葉を言った後、無理矢理話題を戻そうとし始める。
あすみんってなに?
それより先に僕はそっちの呼び名の方が気になってしまう。
いつから僕は竜也が明日美のことをそう呼び始めたのかは知らなかったからだ。
チラッと明日美の方を見る。
明日美も驚いた反応をしていた。
その様子から察するに、今日初めて言われたような反応だった。
「なに、その呼び名。やめてほしいんだけど」
そして明日美から放たれる完全拒否のオーラを出した真面目な言葉。
「えー、ダメ? 親密度高めるためにこういうニックネームは必要だと思うんだけど」
「ダメ」
「なんで?」
「少なくとも竜也くんがそれを呼ぶなら、透からじゃない? 親密度っていうのか分からないけど、順番的には透からだと思う」
「ほら、もう透とは親密度高いからさ。俺もそろそろ上げようかなって。透、ダメか?」
そこで僕に話を降って来る竜也。
そもそも二人からして意味が分からない。
交流的な意味でニックネームで呼び合い、親密度を上げたいというのは分かる。しかし、そこで僕の名前を出して巻き込んで来るのかが分からなかった。こんな状況で、こんな感じになったら、間違いなく面倒な流れであることは間違いないからだ。
だから僕の取れる選択肢は一つ。
「二人の間で解決してくれると助かるんだけど。明日美がダメって言うなら、ダメなんじゃないかな?」
こう言って逃げることを選んだ。
明日美は僕が「ダメ」って言うことを待っていたのだろう。
「そういうわけだからダメってことで。ちなみに明日美さんでよろしくね」
「え? 明日美じゃダメ?」
「うん。ダメ」
「なんで?」
「なんとなく?」
「そこをなんとか」
「無理」
「無理って」
「無理」
「……分かった」
完全拒否の姿勢をした明日美の圧勝だった。
そもそもこの流れで、なんでそのニックネームやら呼び捨てが許されると思ったのだろうか。少なくともそのニックネームを呼ばなかったら、呼び捨てで呼んでもいいと許される可能性はあっただろうに。
僕はそう思ってしまった。
ただ、空気は先ほどより少しだけ和んだような気はした。
竜也のよく分からないボケのおかげであることは間違いないだろう。
だから、その点に関してだけ僕は素直に心の中で感謝しておくことにした。口に出しては絶対に言わないけれど。




