問題解決? 2
「例の人?」
僕は明日美の呆れたような疲れたような反応から、何が起きたのか気付くためにそう尋ねる。
「うん。そうだよ」
話題に出して欲しくないような反応だったが、隠すのさえ億劫だと感じたのか、あっさりと答えてくれた。
いったいどんな内容を送りつけてるんだろ。
なんとなくだが気になること。
しかし、明日美は答えてくれないだろう。巻き込むまいとしているような雰囲気を感じるからだ。
「やっぱり律儀に返事してるの?」
それでも僕は気になってしまい、そう聞いてしまう。
さすがにこんな反応をする明日美をいつまでも見たくないから。
「ん〜ん。そんなにはしてないよ? 気になったことだけかな」
「そっか。こまめに返事しているんだったら、さすがに止めないとって思ったんだけど、そうじゃないならいいや」
「私もそこまでお人好しじゃないからね。そろそろ透が言ったように見切りを付けるタイミングかなって思うけど。今日の枠もちょっと目に付いちゃったし」
「今日の枠にもいた人か……」
そこで明日美は「しまった」という表情を浮かべる。
珍しく口を滑らしてしまったらしい。
「どんまい」
僕は苦笑いをしながら、そう励ますことしか出来なかった。
そして、僕は今日の枠にいてなんとなく目立った人を思い出そうと、頭の中をフル回転させる。
「なかったことには出来ない? 絶対に探し出そうとしてるとは思うけど」
「それは無理かな」
「……だよね〜。やっちゃったな〜」
両手で顔を覆いながら、盛大にため息を漏らす明日美。
本当に後悔をしているようだった。
けれど、言ってしまったものはどうしようも出来ないと諦めたのか、
「もう名前教えてもいいよ? 今さらだけど、口を滑らせた私が悪いんだし」
なぜか上目遣いをしつつ僕にそう言ってきた。
いきなりの諦めの早さに僕は動揺を隠せずに、
「え、いいの? 無理に言わなくてもいいんだよ?」
と思わず拒否するセリフを言ってしまう。
本当は知りたい気満々だったのに……。
僕の拒否の言葉に対し、明日美は失笑していた。
「本当は知りたいんでしょ? 相談っていうかアドバイス貰ってるし、心配かけちゃったしね」
「それはそうだけどさ」
「大丈夫大丈夫」
「分かった。明日美がいいなら聞くよ」
その時、再びスマホの通知音が鳴った。
今度は明日美からではなく、僕のスマホからだった。
もちろん、それが誰からの通知音なのかすぐに分かる。
「先に見ても大丈夫?」
「あ、うん。いいよ」
明日美もその通知が誰からなのか分かったらしく、引き止めることなく了承してくれた。
それに甘えて、スマホのロック画面に表示された名前ーー竜也から連絡が届いていた。
『もうすぐ着く』
そんな簡単な文章。
僕はその簡単な文章を見て、深いため息を吐く。その間も指を動かし、
「早くしろ」
と急かす内容を送り、スタンプで『怒っている』ものを送りつける。
「やっぱり竜也からだった」
そこでようやく明日美に誰からの連絡だったのかを伝える。
明日美も僕と同じように呆れたようなため息を溢した。
それもそのはずなのだ。
本来であれば、竜也もこの時間帯はこの場所にいるはずなのだから。
予定では、今日は明日美と竜也で僕の家で泊まって、配信やゲームをすることになっていた。
僕が病み上がりではあるものの、明日が休みで母さんが夜勤の仕事であるため、明日美に配信させるには都合が良かった。だからこそ、急遽ではあるものの僕がそう明日美に聞いてみた結果、「OK」という返事がもらえた。しかし、二人っきりではいろいろと問題が起こる可能性がため、竜也を巻き込むことにした。それに対しても明日美はしぶしぶと言った様子ではあったが許可をくれ、竜也にも尋ねると音速が相応しい速さで「OK」が来たのだ。
しかし、問題はその後だった。
明日美が家に来て、配信をし始めたタイミングで竜也から「遅刻する」という連絡が入った。
遅刻する理由なんてそれぞれだし、別に僕の家に集まるのだから何も問題もないのだが、やっぱりそれなりの理由ぐらいは聞きたいと思ったのだが、そこから連絡はなし。
一応、明日美の配信の問題もあるため、LINEでそのことを伝えるだけのことはしていたため、大丈夫なのだが、配信中に来たらどうしたようかと少しだけヒヤヒヤしていたのも事実だ。
「本当にマイペースというかなんというか……。配信中に来たらどうしようかと悩んでたのに……」
そうその時の本音を漏らす明日美。
どうやら同じ気持ちだったらしい。
「来たら、遅刻した理由を根掘り葉掘り聞くしかないか。そして、明日美に謝罪させよう」
「謝罪はともかくとしても、とりあえず理由ぐらいは聞いても大丈夫なんじゃないかな?」
「そうだね。そうしよう」
「えっと……それで私の件はどうする? 今のうちに名前だけでも教えておこうか?」
「あー……うーん……ちょっと待って、考える」
そう言われて、僕は少しだけ困ってしまう。
僕はそのことを竜也に相談してしまっている。
もしかしたら、『竜也も気になってるんじゃないか?』と考えてしまうと、待っていても良いような気がしなくもないのだ。
ただ、そのことを明日美に言わないといけないと思うと抵抗を感じてしまっていた。
なぜなら、明日美はそのことを『自分一人で解決したい』と思っている節があるからだ。だから、そのことを伝えると怒られてしまう。
怒ると怖いからなぁ……。
チラッと明日美を見る。
その時、偶然目が合うと明日美は不思議そうに首を傾げつつ、僕の返事をおとなしく待っているようだった。
しかし、その時また通知音が鳴る。
今度は明日美の方だった。
僕はその通知音から相手が誰だか分かったような気がして、明日美に目線でスマホを見つめ、頷いてみせる。
その意思疎通は成功したらしく、明日美は軽く死んだ魚の目になった感じで僕に頷きに頷いて、「正解」と伝えてくれた。
ここまで来ると、僕の覚悟は半分決まったようなものだった。




