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問題解決? 1

 僕の体調が治ったのはそれから三日後の金曜日。

 風邪もとい熱自体は次の日に下がったのだが、残った頭痛のせいでしばらく苦しみ、結局二日間休みを取ることになってしまった。

 これに関しては母親も早退するぐらいなら、最初から休んだ方がいいという判断のもとなので、別に怒られることがなかったのが唯一の救いだった。

 きっとズル休みであれば、間違いなく怒られていただろう。

 ただ残念なことにインフルエンザではなかったため、出席停止にはならなかった。

 しかし、同時に明日美に移ったとしてもインフルエンザではなく、ただの風邪の可能性が強いことに安心することも出来た。


 その明日美は甲斐甲斐しくお見舞いのため、毎日僕の家に通っていた。

 念のため言っておくが、翌日には僕は拒否した。やはり風邪を移す確率を高める行為であるため、それは自殺行為だと思ったから。

 しかし、明日美は僕の言うことを一切聞いてはくれなかった。

 なんでそんなにも僕のために動いてくれるのか?

 そう思って仕方なかった。


 こういうこもとあり僕の中では少なからず、『明日美は僕に好意があるのでは?』 という結論に至る。

 けれど、至ったところで僕はどうしたらいいのか分からない。

 好きだと認識し、アピールする?

 僕のキャラではない。

 配信のためにやってくれてると思い、現状維持だと思い、何もしない。

 結局、こういう答えになってしまう。


 変な勘違いをして、僕は現在(いま)の距離感を崩すことなんて出来ない。いや、出来るはずがないのだ。それぐらい現在が充実しているから。何かの母性本能が働き、明日美が僕を甘やかしてくれるという状況を除いたとしても、それだけははっきりと言える。

 だから、僕にはそんな勇気ある行動を取ることが出来ない。


 何より、自分の気持ちがはっきりしていない。

『好きか? 好きじゃないか?』の二択の質問の場合、はっきりと『好き』という答えが出せる。しかし、それが『恋愛として?』となると曖昧すぎる。意識してないと言えば間違いになるのだが、それ以上に自分の中で恋愛としての意識を持つことにセーブがかかっているような状態だからだ。

 原因は分からない。

 分からないけれど、その先を意識出来ない以上は行動をしない方がいい。

 それだけは誰かに行動する上で相談しても、同じ答えが帰ってくるだろう。相談した相手が竜也だとしても。


「優柔不断なのかなぁ……」


 僕はリビングの椅子に座り、頬杖を付きながら、そう漏らす。

 イヤホンをしている耳からは僕の気持ちなんて全く理解していないであろう明日美ことアスカが、楽しそうにリスナーのコメントを読んでいる。

 しかし、時間も一分を切り、一枠が終わる時間になっているため、「おつあす」というコメントが増え始めていた。

 明日美はそのリスナーたちの名前を律儀に読んだあと、明日美も「バイバイ」と最後のタイミングで伝え、無事に配信が終わる。


 念のため、僕は配信が終わってからもほんの少しだけ待ち、二階へと上がった。一応、気を使ってのドアのノックは忘れない。


「入っても大丈夫だよ〜」


 少しだけ疲れた様子の声が中から聞こえたことを確認し、僕は部屋の中に入る。

 中に入るとパソコン用の椅子の背もたれに身体を預け、ダラけきっている明日美の姿があった。


「お疲れ様」


 その様子を見ながら労いの言葉をかけた後、僕も勉強用の机に座る。


「ありがとう。やっぱり久し振りに配信すると疲れるね〜」

「だから次の枠もしなかったの?」

「それもあるけど、コインもなかったし、ちょうどいいかなって」


 コインというのはツイキャスで延長するためのアイテムのことだ。

 リスナーがそれを投げてくれることで、枠を終わらすことなく延長出来る。

 別にコインがなかったとしても、枠を一回閉じた後、再び開くことも出来るため、なかったとしても問題はない。

 しかし、今の明日美の様子を見ていると一回終わらせた方がよかったのの言うまでもないだろう。


「やっぱり人数が増えると、コメントを読むのが大変になるね。なんとかしないとね〜」


 不意に漏れる明日美から反省の言葉。

 その配信を見ていた僕もその言葉を聞き、ちょっとだけ納得してしまう。

 リスナー一人一人のコメントとその時に話していた内容との食い違いからの話題のズレ、コメントの流れる速さ、そのせいで少しだけグダッてしまっていたのだ。

 それは久しぶりだから捌き切れなかったのか、それともここが明日美の限界なのかのどっちかであることは間違いないだろう。

 明日美は僕の方へ椅子を回転させ、真剣な顔で僕を見てくる。

 どうやら、僕の答えを聞きたいらしい。


「キツいと思ったら、飛ばしてもいいんじゃない?」

「ん〜、それはそれで悪い気がするんだよね。せっかくコメントを書いてくれてるんだしさ」

「その気持ちは分かるけどさ。でもグダるよりはマシなんじゃないかな? もちろん予めそういうことは伝えておくってことは大事だけど」

「まぁね〜。コメントしてくれた内容から、その時の話題の推測は出来たんだけど、たまに思い出せないこともありそうだから申し訳なくなちゃうし……そうするしかないのかな〜」


 明日美は「ふむふむ」と頷くように、左腕に右手を置くようにしてアゴに指を添えて、如何にも考えているようなポーズを取る。


「最終的に判断するのは明日美だし、一応助言程度で考えてくれたらいいよ。嫌なら嫌で、もしかしたら他の捌き方も見つかるかもしれないしさ」


 僕の答えが全てではなく、結局は明日美が決めることなのであくまでも提案であることを強調して伝える。きっとそれぐらいの方がいいのだと思い。


「そうだね。もう少し、人が増えてから考えてみるよ」


 そう言って、明日美は椅子を半分ほど回転させ、パソコンの空いてるスペースに置いていた自分のスマホを手に取る。

 手に取り、スマホを見た後、深いため息を溢した。

 まるで何かに呆れたかのような、それでいてさらに疲れたような反応に感じた。


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