相談した結果 4
「それでさ、本当に大丈夫なの?」
改めて、明日美から体調について尋ねられる。
まるで僕が明日美にする質問の多さを最初から分かっていたかのようなタイミングだった。
「大丈夫とは言えないかも。節々に痛むし、頭痛もしてるから」
「そっか〜。早く良くなるといいね。それまでは配信もおやすみだね」
「それに関してはごめん」
「え、あ……そんなつもりで言ったわけじゃないから気にしないで! そんなこと言ってたら、本当に奴隷や下僕みたいな扱いになるでしょ?」
「一応みたいな感じだから気にしないでよ」
先ほどの発言を気にしてなのか、少しだけ慌てた様子で明日美が言ってきたので、僕はそう切り返す。
ただ、本当に申し訳ないと思っているのは間違いない。
配信をする期間が決まっている以上、少しでも多くその時間を取ってあげたいと思っているから。それに僕自身も明日美の配信を楽しみにしており、リスナーになっているのは間違いない事実。そう考えると結局は自分のためなのだ
「分かった。ありがとうね。えっと、まだ食べれる?」
明日美はお皿に持っているリンゴを僕に軽く見せてくる。
お皿に乗っているリンゴの数はあと四つ。
しかし、僕の胃はその個数を見ただけで受けつなくなるほど弱っていた。
「もうやめとこうかな。そっちの机置いといてくれたら、勝手に食べるから置いといてよ」
そう言って、僕は勉強机の方を指差す。
「うん、分かった。何かしてほしいことあったら言ってね? えっと……とりあえずタオル濡らし直して来ようか?」
椅子から立ち上がり、明日美はリンゴの乗ったお皿を学習机に置きながら、僕にそう言ってくる。
きっと優しさからの発言なのだろう。
その気持ちはものすごく嬉しい。
嬉しいけれど、僕としては心苦しいことでもあった。
「あのさ、ちょっといい?」
だから、遠慮気味に話しかける。
「なに?」
「僕、体調不良でしょ?」
「それは見たら分かるよ」
「風邪だから、明日美に移る可能性もあるよね? っていうか、もうそろそろインフルエンザの時期でもあるから、担任からも『病院行け』って言われてるぐらいなんだ。だからさ、移しても悪いからそろそろ帰った方がいいよ」
「あ〜、もうそんな時期なんだ……」
返ってきた言葉は間が空くこともなく、とても軽いものだった。
まるで風邪を移されることを気にしていないような感覚。
だから、少しだけ心の中がモヤッとしてしまう。
なんでこんなにも余裕でいられるのか、と。
「あのさ、結構真面目に言ってるんだけど?」
それは自然と言葉の節に現れていたらしく、ちょっとだけ申し訳なさそうに顔をしかめる。
「ごめんごめん。真面目に言ってるのは知ってるよ? 知ってるけど、もう今さらかなって。だってマスクすらしてないもん」
そう言って、明日美は自分の口元を指差す。
そのことは最初から僕も気付いていた。
部屋に入って来た瞬間から、明日美はマスクもせずに無防備であることに。お見舞いや看病をしに来たとは言えない様子だった。
「なんでマスクしてないのさ」
「普通に忘れてたの。いつも家に来る感覚だったって言ったら良いかな?」
「癖って怖い」
「本当にそう思う。それに最初はお見舞いだったから、様子みたら帰ろうと思ってたんだけど、誰もいないし、苦しそうに横たわってたし……。だから、『看病してあげたい』って気持ちに変わって、それで今に至るってわけ」
「至らなくても良かったのに。でも、それが明日美かぁ」
「困った性格だよね、私も」
「本当に。もう遅いかもだけど、風邪引かないでよ?」
「努力します」
明日美はそう言って、僕の持っていた濡れタオルを奪い、ドアの入り口の方へ向かっていく。
どうやら先ほど言っていたように、タオルを濡らして来てくれるらしい。
でも、そこでも僕は疑問が浮かんでしまう。
「あのさ、ワザワザ濡らしに行かなくても、風呂場から桶持ってきてもいいよ?」
一回一回面倒なことをしなくても、こうすれば一回で済む。
明日美なら、このことにすぐに気が付きそうなのにこれをしないことが不思議で仕方ならなかった。
「部屋濡らしちゃうかもって思ったの。だから、遠慮したんだよ」
「あ、そういうこと。いいよ、持ってきて。もし濡れたならあとで拭いてくれればいいから」
「そっか。その許可が下りたなら大丈夫だね」
その一言を待っていたかのように僕に笑顔を向ける。
どうやら僕の考えたことよりも、もっと先のことを考えていてくれていたらしい。だから、ちょっとだけ自分の考え不足を恥じた。
同時に僕は明日美の行動にありがたさしか感じられず、部屋から出ようとする明日美を声をかける。
「あのさ!」
その一言に明日美は部屋のドアを開けるだけで止まり、僕の方へ顔を向け、首を傾げる。
何かお願いでもあるのかな?
そんな表情をしている。
「えっと……ありがとう……」
急に恥ずかしくなり、僕は小声でお礼の言葉を伝える。
その一言を聞けただけで満足したのか、
「どういたしまして。ちょっと待ってて。なんなら寝ててもいいから」
明日美は満足そうな笑みを浮かべ、そう言ってから僕の部屋から出て行った。
その言葉に従い、僕は起こしていた身体を横たわらせ、安静することに努める。
ここまで来れば、明日美のためにも明日には体調を良くしたいと思ったからだ。
その後、水を入れた桶を持ってきてもらった明日美に看病をしてもらいながら、親が帰ってくるまで居てもらうこととなった。
親への言い訳はただお見舞いということにしたのだが、僕の不用心な来客への接し方に明日美が帰った後、少しだけ怒られたのは言うまでもない。
でも、それ以上に僕の心は満たされていたのでそんなことは苦でもなかった。




