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不穏な通知 3

「気付いてるよね、もう」


 唐突に明日美は僕にそう言ってくる。

 まるで僕がどうにかして聞き出そうとしていることを見透かしたような感じで。


「何か問題があったことぐらいは」

「だよね。けど、こういうことに巻き込んでもいいのか分からなくて」

「なんでそう思うの?」

「う〜ん。『配信をしたい』って言い出したのは私でしょ? だから巻き込んで、変に困らせたりしないかなって」

「巻き込まれることはないと思うけどね。僕が出来ることなんて、それに対する助言程度なんじゃないかな? それを実行するかどうか明日美が考えることだし」

「……うん」


 明日美はまだ悩んでいるらしい。

 悩みながらも返事を考えているらしく、スマホを操作しているようだった。けれど、思うような返事が書けないのか、削除ボタンを押しては文章を消しているように思えた。

 ここまで返事に困るってよっぽどなんだな……。

 僕はそう思えてしまうほど、明日美がその返事に困っているように見えた。


 どんな内容なんだろうと考える。

 今まで見てきた配信者の話題などを考慮して考えてみるに、どう考えても出会い厨などの部類に入るタイプなんだと思う。

 リアルでリスナーと会うつもりがない明日美にとって、やんわり断って来ていたはずだが、相手がそれを素直に受け止めない。もしくはスルーして自分の意見を押し付けてくる。けれど、リスナーだから切ろうにも簡単に切っていいのか分からない。

 そんな所だろうか?


 この想像がもし当たっていたとして、ツイキャスをほとんど見たことがなく、いきなり配信をし始める素人には対処が難しいはずだ。

 だからさすがの明日美も悩んでしまうのも頷ける。

 ただ、これはあくまで想像なのでこれ以上のことが本当に起こっているのかもしれないと思うと、僕も気が気ではなくなってしまう。


「なんで透がそんな難しい顔してるの?」


 不意に明日美の声が耳に入り、僕はいきなり現実の世界に引き戻される。

 どうやら想像している間にそんな顔をしてしまっていたらしい。


「ちょっとだけそのDMの内容を想像してただけだよ」

「へ〜、もしその想像通りだとして透の場合はどうする?」

「僕の場合? んー……そのリスナーを切るかな?」

「簡単に切れるの?」

「当事者じゃないし、第三者の立場だから簡単に言ってるように聞こえるかもだけど、きっと心が傷んだとしても切ると思う」

「どうして?」

「そんなリスナーはリスナーじゃないから? そういうタイプは配信者を自分を思い通りにしたい節があるから、切らないと他のリスナーに迷惑かかると思うしね」

「なるほどなるほど」

「ここまで僕の意見を聞いておいて、明日美はどうしたと思ってる?」

「私か〜」


 明日美はまだ「ん〜」と唸りながら考え込む。

 僕の意見を反映させつつも、どうにかして解決させたいという感じ。

 もちろん、それが出来るのであれば、解決してほしいと思う。あくまで僕の考えは『解決出来ない』ということが前提条件としてあるからだ。


「もうちょっとだけ考えてみるかな。意見をありがとうね」


 考えた結果、まだ答えを出すまでには至らないらしい。


「いいよ。助けになるって言ったばっかだしさ」

「うん」

「とりあえず切る捨てる勇気も必要だってことを分かってくれれば」

「分かった」


 明日美はそれだけ言い残し、椅子を回転させる。そして、スマホをちょっとだけ操作をして、また先ほどの置いてあった位置へ戻し、マウスに手を伸ばす。

 まるで何事もなかったかのようにまた画像検索を始めた。

 僕も何事もなかったかのようにまた自分のスマホを触り、先ほど読んでいた漫画の続きを読み始める。しかし、心の中はずっとそのDMについて考えていたため、内容は頭にさっぱり入ってこない。

 そんな時だった。


「いつかちゃんと話すから待ってて」


 か細い声で明日美がそう言ったように僕の耳は聞こえた。

 思わず明日美の方を見る。

 しかし、明日美はこちらへ反応を示そうともせず、画面と向き合っていた。

 空耳?

 まるで自分の耳を疑ってしまうほどの何事もなかったような雰囲気だった。


「ねぇねぇ、この画像はどう?」


 そして、その意識を逸らすように僕に明日美は椅子を少し動かし、画面を見せてくる。

 ちょっとだけエロ要素が入った画像だった。


「僕の趣味じゃないけどいいんじゃない?」

「趣味じゃないのか〜。おかしいな〜。でも保存しとこっと」

「……あれ? さっきは『僕の趣味に合わせて』とか言ってなかった?」

「うん、言ったよ? でも今、『いいんじゃない?』って言ったよね?」

「言ったね」

「うん、保存」

「はい」


 そんな会話をして、明日美はまた椅子を戻し、マウスを操作し始めた。

 なんだかなぁ。

 僕の中にモヤモヤした気持ちは残ったままだった。

 明日美のスマホはそれ以後、通知音を鳴ることはなかった。どうやらサイレントにしたらしい。

 そして、時間いっぱい画像やBGM検索をして、明日美は帰って行った。

 本来であれば今日も配信もしていたのかもしれない。

 しかし、そんな気分にならなかったのか、その素振りすら見せず、日が沈み切る前に帰ってたのだ。

 もちろん、家まで送る話もしたが断られたので送ることもしなかった。

 これが今の明日美との心の距離感なのだろうと思う。

 ちょっとだけ僕は自分の無力さを思い知らされたような気分にさえなっていた。


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