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RE:帰り道 2

 警戒態勢に入った僕を見た明日美はクスクスと楽しそうに笑い始める。

 なんで笑うのだろう?

 その理由が分からないため、僕は困ってしまう。

 もちろん、警戒態勢は緩めないまま。


「そんなに警戒しないでよ。仕向けたのは私だけど」

「その自覚があるなら無理じゃん」

「要所要所で使い分けないと疲れちゃうよ?」

「それは分かるけどさ」


 明日美の言う通りだった。

 明日美といるたびに警戒し続けるのは正直疲れる。というより、もうすでに疲れ切ってしまっている。家に居た時も後半はほとんど警戒しっぱなしだったからだ。

 だから、その言葉に完全に従うわけではないけれど、息を吐き、少しだけ警戒を解いた。


「やっぱり疲れてるんじゃん」

「疲れるようにさせてるのは明日美でしょ?」

「それは……でもさ、透は私の言いそうなことを後半はなんとなく分かってなかった?」

「さすがに分かるんじゃないかな? あれだけ脅そうとしてたら」

「竜也くん分かってなかったけど」

「学習能力のないバカは仕方ないよね。もう女に騙されるといいよ」


 僕は少しだけ自虐と影を含めて、そう呟く。

 あれだけ直前に騙されたのだから、あれで察せない以上、救いようがない。

 ただ、それは僕もきっと同じなのだ。

 今回は偶然、流れ的に分かっていたからこそ、なんとかなっただけ。時間が空けば、きっと同じことの繰り返しになる可能性がある。

 そう考えると僕もきっと何も変われてないのだ。

 今回のことで学んでればいいなぁ……。

 そんなことを思っていると、「えいっ!」と掛け声と共に右手が明日美の左手に握られる。


「……え?」


 予想外の明日美の行動に僕は思わず歩みが止まり、身体を硬直させてしまう。

 それに引っ張られるように明日美の動きも止めてしまい、よろめく。


「ちょ、ちょっと! 歩くの止めないでよ!」

「ごめ……じゃなくて、なんで手を繋ぐんだよ! そこだよ!」


 周囲に人がいるため、出来るだけ大声にならないようにそう尋ねる。

 同時に恥ずかしくなってきたため、手を振り払おうと試みた。

 しかし、振りほどくことは出来なかった。

 全力で振りほどくことは簡単だったが、それでは明日美に痛い思いをさせてしまうと思った結果、少しだけ手加減してしまったからだ。


「しょうがないじゃん。透がなんだか落ち込んだ雰囲気出すんだもん。これぐらいが精一杯だったの! ていうか、振りほどくのやめてよ。私だって勇気出して握ったんだから」

「勇気出すところ違うから! じゃなくて、こんな人前で元気付けようとしなくていいから!」

「えー……でもなんだか見過ごせないでしょ? ほら、お姉ちゃんだし?」

「お姉ちゃんじゃない! 妹! っていうか設定! ……まて、外でこういう話をしてる状況じゃないんじゃあ」

「そうだね。設定とか痛いよ?」


 明日美はあえて僕がそう突っ込むと分かっていて、仕組んだような流れでそう言った。

 途端、僕はさらに恥ずかしくなってしまう。

 だからもう抵抗することは止めた。

 大人しく握られている方が勘違いは起きたとしても、変な誤解は生まれないような気がしたからだ。

 やっぱり警戒解くとロクでもない。

 そう再認識させられるには十分な出来事だった。

 この中で唯一の救いだったのは、明日美の手の繋ぎ方がいわゆる恋人繋ぎと呼ばれる指を絡めるものではなく、普通の握り方だったってことだ。

 とりあえずこの場所でジッとしておくのは得策ではないため、僕たちはまた歩き出す。


「なんでこうなってしまったんだろう……」

「何が?」

「明日美が僕が落ち込むと人目を気にせずにこうやったりするところ」

「それは……母性本能?」

「うん。そうだろうね。それ以外ないよね」

「なになに? それとも恋人的な流れが良かった?」

「恐れ多くて嫌です」

「これ、前回の流れになりかけてない?」

「その話を振ってきたのは明日美じゃん」

「今はね。まぁ、でもそんな邪な気持ちがある人にはこういうことしないから」

「竜也とか?」

「竜也くんか〜……」


 明日美は竜也の名前を聞き、少しだけ困ったように呟いた。

 どうやら悪いイメージを持っていないことは間違いないらしい。

 僕はそれだけでも安心することが出来た。

 友達を悪く思われるのは、やはり嫌だからだ。


「たぶん竜也くんは私が何かしなくても、自分で立ち直れる人だと思う。でも何かあって落ち込んだ時にワンチャンありそうとか思って、それが見透かされて警戒されるタイプなんじゃないかな?」

「割とありそう」

「でしょでしょ? だから私はしないかな〜。勘違いされても困るし」

「僕も勘違いするかもよ?」


 冗談でそう言ってみる。

 いや、もう少し勘違いしている。

 だってこんなことをされて好意を持たないはずがないのだから。

 けど、それが確定ではない。

 気になってはいるけど、自分の中でそれが『好き』という気持ちに変換されていないというだけで、意識さえすればいつでもいけると思う。

 明日美は僕の質問に対して、口を閉じた。

 竜也の時と同じように回答に悩んでいるようだった。


「勘違いされても仕方ないかな、それは」


 明日美は小声でそう言った。

 僕のことを軽く上目遣いで見ながら。

 それに呼応するように僕の手を握る明日美の力が少し強くなる。

 思わず、僕の心臓は跳ね上がった。


「なんで?」

「全部、私からしてることが多いから」

「それはそうだけどさ。それで納得出来るの?」

「するしかないんじゃない? 結局はその行為に対して、その時の状況や相手の様子を見て判断してるわけだし。だから、それを読み取れなかったら自分のせいだよ」

「それ、『襲われる話』の時も似たようなこと言ってたよね」

「帰結するところはそこになるんだよ」

「そんなに僕を信用してもいいものなのかなぁ」

「いいと思うよ。そういう人柄なんだと思うし」

「人柄、ねぇ……」


 僕は自分のことがよく分からなくなった。

 分かっているのは僕は『その時に楽しめればいいタイプ』ということだけ。つまらないことが嫌っていうことだけだ。

 それなのに明日美は僕のことを僕以上に知っているような気がした。

 もっと色々と僕自身のことを教えてもらいたいと思った。

 けれど、聞いてしまったらダメなんだと思う。

 なんとなくそう思ってしまった。

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