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RE:帰り道 1

 僕が二人に追いつく頃にはすでに別れたらしく、一人で家に向かう明日美の姿があった。

 この時、一瞬僕はなんて言葉をかけようか悩んでしまう。

 男同士ならこうやって追いかけて、「おーい」と呼べば止まってくれるのだろうが、女子に対してそれでいいのか分からない。

 結局、悩んでいる暇もなく追いつき、


「明日美、ちょっと待って!」


 と名前を呼ぶこととなった。

 さすがに僕が追いかけてくるとは思っていなかったらしく、「え?」というびっくりした表情を僕の方へ向け、足を止める。


「どうしたの?」


 そして、純粋な疑問が僕にぶつけられた。


「母さんが送って行けってさ」

「そんなこと気にしなくていいのに」

「たぶん母さんに言われなくても、僕はこうやって来てたと思うけどね」

「……それはありそう」

「でしょ?」

「うん、ありがとう。言葉に甘えさせてもらおうかな」


 明日美はそう言って、僕へ笑顔を向ける。

 その笑顔を見るだけで、送って行くことに対しての喜びを見出せるような気がして、ちょっとだけ嬉しくなっていた。

 僕がほんの少しだけ息が乱れていたためなのか、明日美はしばらくの間動かず、僕の息が整うあたりでゆっくりと歩き始める。

 その隣を僕も歩く。

 久しぶりにこうやって送って行くことに対し、懐かしさを感じてしまっていた。ちょっとの間、距離が離れていただけなのに。


「なんか久しぶりだね〜、こうやって歩くの」


 僕が思っていたことをそのまま口にする明日美。

 どうやら同じことを思っていてくれたらしい。

 それだけのことなのに僕は嬉しくなってしまう。


「そうだね。ここに竜也がいたら台無しだっただろうけど」

「賑やかになってそう」

「否定は出来ない」

「イジってて面白いけどね」

「そう言えば、竜也は『送って行く』とか言わなかったの?」


 ふと思い、そのことを尋ねてみる。

 竜也だったら、明日美に対して、そういうことを言ってそうだと思ったからだ。


「言ってくれたよ。断ったけど」

「断ったんだ」

「それはそうでしょ。そしたら食い下がらなかったから、そのまま普通に別れたの」

「食い下がったら、何か脅されると思ったのかも」

「脅すってその言い方酷くない?」


 僕の言い方が気に食わなかったらしく、明日美は頰をぷくっと膨らます。


「『酷くない?』って。隙があったらずっと脅してたじゃん。僕も含めてだけど」

「だって今回のことについては、あっちが私たちをネタにしようとしてたから、(しゃく)だなって思ったんだもん。あれぐらいいいでしょ」

「あれぐらいって……さすがに『一週間、ジュースを奢らせる』ってのは過酷だと思うけど」

「それは言ったけど……もしかして私の考え読み取れてないの?」

「え?」

「あ、分かってないんだ」


 明日美は残念そうな、それでいて気付かれてないことに少しだけホッとしたような、そんな複雑なそう表情をする。

 何か意味ありげなこと言ったっけ?

 その時の僕は『昼飯を奢るはずだったのに、それがチャラになったこと』と『竜也、可哀想だなぁ』という考えしか抱いてなかった。

 だから、明日美の意図など気付く余裕など一切なかった。

 けれど、このタイミングでそれを言われても、その前後の言葉を覚えていないため、今でも分からない。


「ごめん。分かんないや」

「それぐらいの方が竜也くんも気付きそうにないからちょうどいいかもね」

「んで、何を企んでるの?」

「企むって言い方は違うよ。むしろ、その脅迫をなかったことにしようとしてるぐらいかな」

「ん? どういうこと?」

「えっとね、私が言ったのは『一週間、私がねだったら、ジュースを奢ること』って言ったの。つまり、私がねだらなかったら竜也くんは買わなくていいの。過ぎるのは時間だけ。だから竜也くんに実はデメリットなんてないってこと」

「あ……確かにそんなこと言ってた」


 僕はようやくここでそのことに気付かされる。

 まさかこんな意図が隠されているとは思っていなかったため、びっくりしてしまう。

 そんな僕の反応を見ていた明日美は苦笑しながら、


「初対面ってわけじゃないけど、さすがに今日話し始めた人にそんな金銭面の脅しはしないよ」


 とものすごく当たり前のことを当たり前のように言った。

 言われてみれば、その通りだ。

 竜也なら普通に行いそうだからこそ、同じ思考に至っていたのだが、明日美は明日美で考えないといけないことを僕は忘れてしまっていたらしい。

 それぐらい二人の距離感が縮まっていたから、誤解してしまっていたのかもしれないけれど、これは僕の反省点でもある。

 しかし、このことを口に出すことはやめておいた。

 また、ここで謝ってしまえば、ややこしいことになると思ってしまったから。

 せっかくまたこうやって話しやすい環境になったのに、自ら崩すことは必要はない。


「思い出してみれば、明日美が僕たちに教えたのは女子の恐ろしさだったもんね」

「そうだよ? 女子……世の中の女は怖いんだよ?」

「今日だけで結構垣間見えた気がするけど」

「私のは本気じゃないから」

「あれで?」

「ネタに決まってるじゃん。雰囲気や様子でそれなりには見せたけど、本気でやるなら女性不信になるぐらいトラウマを植え付けるよ?」

「なにそれ。普通に怖いんだけど」

「なんなら味わってみる?」

「……いや、いい。遠慮しとく」


 ふと蘇るあの時のこと。

 今では明日美の優しさのおかげでマシになっているが、それでも十分なほど女性不信……どちらかというと人間不信に一時期なっていたのだから。

 もし、ここで明日美にそんなことをされてしまえば、きっともう立ち直れない。

 下手をすれば、引きこもりのニートまっしぐらの未来が見えそうな気さえしていた。

 瞬間、またゾクって身体が震える。


「冗談だって! しないよ。そんなことをしたら、私が配信できなくなっちゃうじゃん」


 僕の様子を見ていた明日美は困った感じで眉を細めながら、そう言った。

 そう言ってくれたのは分からなかったが、明日美の心が実際どう思っているのか分からない。だからこそ、僕は一度芽生えた恐怖を簡単に取り除くことは出来ず、自然と警戒態勢に入ってしまった。


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