バレた結果…… 3
僕と明日美が真剣にこれからのことを話し合っていると玄関のチャイムが「ピンポーン」と音を立てる。
その音に反応するように僕は時計を見る。
家に着いて、一時間ほど経っていた。
「池波くんかな?」
そのチャイムを鳴らした人物を確認するように明日美が僕に尋ねてくる。
「たぶん。親の可能性もあるけど」
今日は朝から仕事のため、親が帰ってくる可能性もあった。
もし、二人っきりの状態だと色々と大変だが、今日は竜也も家に来るため、明日美が居ても何の問題はない。
しかも、期末テスト期間。
言い訳なんていくらでも出来るため、なおさら怖くない。
そんなことを考えているとと再びチャイムが鳴る。
「ともかく行ってくるね」
「うん、いってらっしゃい」
明日美からそう返事を受けて、僕は部屋から出て玄関へと向かう。
いつも通り、チェーンロックはした状態で玄関のドアを開ける。
「どちらさまですか?」
そう言ってドアの隙間から外を覗くと、そこには息が切れた状態の竜也が脇腹を抑えながら立っていた。
どうやら学校から僕の家まで走ってきたらしい。
「池波様です」
「あ、新聞は間に合ってまーー」
「おい、閉めんな!」
「すみません。人違いでーー」
「やめろ!」
「だって変なこと言い始めるから」
「悪かったって! 急いで来たんだから入れてくれよ! ったく、LINEの既読すら付かないしさ。こっちは急いで来たって言うのに」
「え? そうなの?」
あいにくスマホは今持っていないため、確かめることも出来ない。
玄関に来るだけだったので、部屋に置いて来ている。
「そうだよ! 俺がいないことにイチャついてんじゃないぞ!」
「イチャついてないわ!」
そう言った後、一瞬膝枕してもらったことを思い出す。
あれは他人が見たら、イチャついているという表現に入ってしまうのだろう。いや、第三者から見れば、十分にイチャついていると言える。
しかし、そのことを悟られるわけには行かず、
「そもそも誰のせいで一時間も遅刻してるのさ」
そう言って、罪悪感を竜也へと突きつける。
さすがにその一言には竜也も反論することは出来ないらしく、
「それはまぁ……うん。俺が悪かったから早く入れてくれ。急いで来たから疲れてんだよ。早く座りたい」
と自分の本音を口にする。
「はいはい。わかったから。ちょっと下がって。チェーン外すから」
いつも通りの忠告をした後、僕は一旦ドアを閉め、チェーンロックを外してから再びドアを開ける。
「おじゃまー!」
竜也も僕の家に来るたびに言う最後まで言い切らない挨拶をして、家の中に入ってくる。
ここが明日美との差なのだろう。
明日美が家に来るのはまだ三回目だが家の出入りをする時はしっかりと挨拶をしている。
だからこそ、こっちとしても迎え入れるとしても気持ちいいことを今さらながらに気付き、今度から気を付けようという意識が生まれた。
そんな僕の気持ちなど知らず、竜也は乱雑に靴を脱ぎ、我が家かのように入ってくる。
こんな奴にお茶や水を出すのはやめよう。
なんとなくそう思ってしまったため、そのまま二階へと案内する。が、おもむろに部屋の前で足を止める。
後ろを付いて来ていた竜也もつられて足を止める。
「どうした?」
「ちょっと言いたいことがあった」
「ほう」
「僕としては別に普段通りでもいいけど、北山さんがいるから今日ぐらいはちゃんとしといてね?」
「ちゃんとする……善処する」
「うん。僕も言っている意味としては難しいのは分かるけど、下手なことしたら怒られるかもよ?」
「それ、なんてご褒美?」
「ドMか! ともかくご褒美にはならないと思う。少なくとも疎遠になる可能性はあるけど」
「……それはまずい。気をつけるわ」
「うん、それがーー」
「それがいいよ」と言い切る前に部屋の中から、「コホン!」と一つ咳払いが聞こえてきた。
間違いなく中にいる明日美が僕たちに向かってしたものだ。
何も発することはなく、僕と竜也はお互いの顔を見つめ合い、頷く。
ご機嫌伺いも含め、僕はドアを二回ノックして、ドアを開ける。
「た、竜也だったよ」
「うん、知ってるよ〜。中から全部丸聞こえだったから」
明日美の声は完全に猫なで声。
全く見知らぬ人を迎え入れるような口調だったため、僕は恐怖を感じた。
いや、よく見たら目は笑っていなかった。
外の会話を聞いて不機嫌になっているのか、それとも竜也がいるから警戒モードに入っているのかまでは分からないが、少なくとも僕が部屋から出る前とは雰囲気が変わっていた。
おそるおそる僕が部屋の中に入ると、竜也も似たような感じで入ってくる。
「お、お邪魔します?」
そして同じようにご機嫌を伺うように明日美へとそう言った。
「あ、池波くんいらっしゃい。でも、それは私に言う言葉じゃないよ?」
「そうだよ、ね……。いや、なんとなく言っただけさ。ハハハ……」
明日美の的確なツッコミに、タジタジになる竜也。
最後、笑っているものの完全に乾笑いになっていた。
なんで追求する立場のお前が空気に飲まれてるのさ!
そんなことを口に出して言えはしなかったが、心の中でそう呟くには十分な光景だった。
「なんでそんなに怯えてるの? 私、何かした?」
「な、何もしてないよ! っていうか怯えてない! あれだよ、あれ! ほら、緊張してるだけさ! 俺、北山さんと話す機会がほとんどなかったからさ」
顔をブンブンと必死に横に振り、恐怖に飲み込まれていないことを必死にアピールし始める竜也だったが、それが逆効果に僕は思えた。
その姿を見るのは面白かったが、同時に明日美に言い負かされてる僕自身と被って見え始めたため、そろそろ助け舟を出すことにする。
「ともかく竜也も椅子に座りなよ。えっと、学習机の方の椅子で。僕はベッドに座るからさ」
「お、おう。サンキュ」
その助け舟に対するお礼なのか、普通に案内されたことに対するお礼なのか分からなかったが、そこは無視し、机の上にあるスマホを回収してから僕はベッドの上に座る。
竜也もまた僕に言われたように学習机の方の椅子に座り、持っていた荷物は僕の隣へ置く。
その間にスマホの通知を確認すると、玄関で言われたように竜也からのLINEのメッセージが届いていた。
スマホをサイレントにしていたせいもあったが、どっちみち真面目に話していたタイミングだったため、たぶん気付く可能性は少なかったのかもしれない。
そう思っていると、再び明日美から咳払いが聞こえる。
それは明日美からの「話を進めよう」という合図だった。




