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彼女との出会い 3

秋山さんはなぜか涙目になっていた。

そこまで何か悲しませることをしてしまったのだろうか?

僕としては気を使わせない行動をしたはずなのに……。

だからこそ、聞かずにはいられなかった。


「なんで、泣いてるの? 秋山さんが泣く理由なんてないじゃん」

「え? 私、泣いてる?」


僕を掴んでいた腕を離し、目元を拭った。

そして、手の甲に付いた水滴に驚いたような表情を浮かべた。

どうやら気付いてなかったらしい。


「本当だ。泣いてる。なんでだろう? あれかな? 滝本くんに感化されちゃったのかな? 意外と私、感受性高いみたい」


僕に気遣ってだろう、弱々しく笑った。

まるで自分自身を見ているようだった。

ギュッと胸を締め付けられ、どうしようもない罪悪感に心が蝕まれる。


「そんなに僕に対して、心を痛めなくても大丈夫なのに……。なんでそんなにも……」


ポロっと漏れた言葉。

本音だったからこそ、また傷付けてしまうと思い、慌てて口を手で押さえる。

しかし、秋山さんも同じことを思っていたらしく、


「本当だよね。接点なんて今の今までなかったのにね」


と同意の言葉だった。


「たぶんあれだよ。困ってる人を見捨てておけない性格なんだよ。だから気にしないで!」

「いや、気にするよ。気になるって」

「ミイラ取りがミイラになったみたいな言い方しないでよ。私自身、なんでこうなったのか分からないんだし。でもね、滝本くんの話を聞きたいのは本当なんだよ? だからさ、聞かせて。気になって、今日寝れなかったら責任取ってくれるの?」

「その前に風邪引かれた場合の責任を取らないといけないんじゃない? いつまでもこうやって屋上で話してたら」

「これで風邪を引いたとしても、それは私の責任だから気にしなくていいんだよ」

「そういう問題じゃない気がする。それはそれで僕も責任を感じちゃうよ」


気が付けば、もう日が沈み、真っ暗になりつつある空。

長時間、屋上にいたわけではない。

ただ、日が沈むのが早くなっているだけの話。

けれど、夏の余韻がまだ心に残っているせいなのか、長時間ここにいたような感覚になっていた。


「だから一旦、中に入ろうよ。少しでもマシになるでしょ」


そう言いながら、僕は扉を開ける。

そして、反対の手で秋山さんの手を掴んだ。

掴んだ手は相当冷えていた。

女性は低体温の人が多いと聞いたことがあったけれど、まさか自分の手の方が暖かく感じるほど冷えているとは思っていなかった。

秋山さんは、「あっ……」と小さくびっくりした声を漏らし、僕に促されるまま校内に入る。


「ごめん。無理矢理すぎた」


そう謝りつつ、扉を閉める。

屋上と比べると、ほんの少しだけ校内の方が暖かい気がした。

しかし、その言葉を聞いていないのか、秋山さんは僕が握った手を見つめ続けていた。

もちろん、ずっと握ったままではない。

中に入った瞬間、すぐに手を離した。

僕には長時間、女性と手を掴んでいる勇気などないのだから。

けれど、秋山さんはずっとその手を見つめていた。


「嫌だった? 本当にごめんね」


そこでハッと気付いたように顔を上げ、秋山さんは僕を見た。


「あ……ごめんね! ちょっと……ある事を思い出しちゃって……それでぼんやりしてた」

「ある事?」

「昔の思い出かな? ちょっと似たような感じで手を握られたことがあって……それを、ね」


秋山さんはちょっとだけ悲しい顔になった。

まるで、そこから先は触れて欲しくない。

そう言わんばかりの拒絶感を感じ取ることができたため、僕はそれ以上のことは聞けなかった。


「そっか。ごめん」

「謝らないでよ。何も悪いことしてないんだから。だからさ、気にしないで」

「うん、分かった」

「それよりもどこで話を聞いてあげよう。さすがにもう学校じゃあ長話出来ないし……」

「話は聞く気満々なんだ」

「そういう流れだったでしょ?」

「そうだけどさ」


僕は苦笑いを溢すことしか出来なかった。

秋山さんの心の中では、この話題を明日にするつもりは一切ないらしい。そのため独り言で、「図書館ももうすぐ閉まっちゃうし……」などと呟いている。

一通り、考えたのだろう。

秋山さんは黙り込んでしまった。

黙り込むと同時に僕の方をチラチラと見る。

まるで何かを確認するかのように。


「えっと……僕なら大丈夫だから。明日でいいなら、ちゃんと話すから」

「それはダメ。拒否。認めない」

「意地張るところじゃないと思うんだけど、そこは」

「しょうがないよね。あそこしか思いつかないし。それに滝本くんなら大丈夫でしょ」

「え……いや、ちょっと?」

「お互い帰る準備して、校門集合でいいよね?」

「いや、あの……集合って……」

「じゃあ、私先に行くね!」


そう言って、秋山さんは胸近くまである茶色い髪をなびかせながら、僕の横を通り抜け、階段を降りて行く。

が、途中で止まって、僕の方を振り返る。


「もし先に帰ってたら、先生に家の住所聞き出してでも聞きにい行くから」


そう脅迫された。

僕の静止も反論も聞く素振り一つ見せずに。


「あんなに強情な人だっけ?」


人となりはおしとやかやおとなしいというイメージはあったが、まさかここまで行動的な人だと思わず、僕は驚きをかくせずにいた。

猫を被っていた。

そう言えば、それだけのことなのかもしれないが、それでもやっぱり反応に困ってしまう。


「しょうがないか……。素直に言うこと聞いておこ」


そう呟き、僕も帰る準備をするために自分の教室へ向かうために階段を歩き出す。

なんとなく屋上に来た時よりも、心が軽いような気がした。

けれど、まだこの時は気付いてなかった。

まさか、これからあんなことになっていこうとは……。

いや、考えられるはずもなかったんだ。

だって秋山さんのことを僕は知らなさすぎたんだから……。

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