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バレた結果…… 1

「本当に問題ばっかり起こして……」


 その日の学校終わりの夕方、僕の家に来ている明日美は、僕の部屋に入って椅子に座るなり、頭を抱えてそう第一声を発した。

 あの昼休みの後、僕は結局連絡を取った。

 やはり取らないことにはダメだと思ったからだ。

 昼休みだったおかげもあり、明日美からの連絡はすぐに来た。ちょっと話し合った結果、放課後、僕の家に集合ということになったのだ。


「問題ばかりって……。でも、さすがにこれは僕も予想外だった。いくらなんでも家までのルートの工作なんて考えないじゃん」


 いくら愚痴られても、こればかりはどうしようもないことを必死に伝えながら、宥めにかかる。

 明日美の言う問題は帰り道の件だと分かっていても、それに触れるとさらに状況が悪くなるのでなるべく触れないようにして。


「それはね〜。私も思い付かなかったから……でも久しぶりの連絡がこれって……」


 明日美は盛大にため息を吐きながら、僕を軽く睨んでくる。

 怒っているよりは拗ねているに近い感じ。

 どうしようも出来ない状況だと分かっているからこそ、怒るに怒れず、拗ねているらしい。

 矛先が完全に僕に向いているわけでもないので、少しだけ僕はホッとしていた。


「それで説明をしなきゃいけない当の本人さんは? えっと……池波くんだっけ?」

「竜也なら……今、学校にいるよ」

「なんで? 終わったら集合じゃなかったの?」

「そのつもりだったんだけどさ……うん、予定だったんだけど……」


 僕は思わず明日美から視線を逸らす。

 そして、放課後帰ろうとした矢先の出来事を頭の中で思い出し、情けなくなって失笑した。

 その出来事を知らない明日美は、


「何? 秘密しないで教えてよ」


 と少しだけ機嫌が悪くなった感じで僕を威圧してくる。


「なんか今日提出の宿題をしてなかったっぽくて……今、先生に捕まってる。もしかしたら、その宿題をさせられてるか、補習をしてるんじゃないかなぁ」

「……運悪すぎ」

「否定出来ないから困る」

「それで透はちゃんと宿題してるの? 宿題というより期末テストの勉強」

「え?」


 とばっちりに近い僕への振りにびっくりし、動揺してしまう。

 戻していた視線を再び逸らす。今度は顔ごと。

 それだけで察したのだろう。

 明日美から出るオーラがドス黒いものへと変わる。


「宿題をしてないの? それともテスト勉強?」

「テスト勉強かな……。僕ってほら、一夜漬けタイプだから」

「それ、勉強っていうより記憶させてるって意味だからね。勉強っていうのは公式を理解して、応用できる範囲で使えることを言うんだよ。覚えておいてね」

「はい」

「素直でよろしい。まぁ、宿題をちゃんとしてるならいいかな。出来れば、テスト勉強も頑張って欲しいところだけど」


 この発言を聞き、『補習しないようにしてて良かった』と僕は素直に思った。

 ただ、先生に捕まり、放課後からの自由な時間を潰されたくない。たったそれだけの理由で宿題だけはちゃんとしていたのだが、こんな理由でも他にも回避出来ることがあると知り、安堵さえした。

 しかし、いつまでもこの会話を続けてたら、僕の身が持たないため、話題を変えることにする。


「でもさ、僕は竜也が居残りさせられて良かったと思うけど」

「なんで?」

「ほら、色々と説明する上で段取りが組めるから」

「段取り? あ、うん……それもそうかも」


 そのことを考えていなかったらしく、明日美はハッとした様子で手を叩く。


「もしかしてだけど、問題事は即座に解決したいタイプ?」

「うん。長引かせると面倒じゃない?」

「それは分かるけどね。とにかく僕たちが今、一番気をつけないといけないことは『お互いの呼び名』だからね?」

「呼び名? あ、言われてみれば……さすがに他人が関わってくるのに透なんて呼びないもんね。そのやらかしはマズい」

「うん……マズいよね……」


 蘇る昼休みの出来事。

 ギリギリで気付いて言い直したけれど、手遅れだった発言。

 きっとその件がなければ、この話を出すこともなかったのだろう。

 気付かれないようにしないと。

 僕の背筋は冷や汗が流れたかのように、寒気を感じ始めていた。

 暖房はちゃんと付けているのに。


「ねぇ……もしかして自爆した?」


 明日美からの心臓でも射抜くかのような鋭い発言が僕に向かって放たれる。

 声は我慢した。

 しかし、身体がビクッと震えてしまう。

 そのせいで明日美ちょっと前まで冷たい視線だったものが、もっと冷めたものへと変わる。


「してません」


 バレていたとしても、僕は否定の言葉を言うことしか出来ない。


「本当は?」

「してないです」

「本当に?」

「本当だよ。してないよ?」

「そっか〜」


 そう言って、明日美は少しだけ大きく息を吸う。

 まるでそれは何かの溜めのように。

 もしかして怒鳴られる?

 脳内がそう思い、思わず僕は目を閉じた。


「ねぇ……今なら怒らないから本当のこと言って?」


 しかし、僕の想像とは異なり、明日美が発した言葉は男性どもを誘惑するような甘い言い方だった。

 そんな言い方出来るの?

 まさか、そんな風に言ってくるとは思わず、心臓が変な風に高鳴ってしまう。


「本当だよ。だから、本当のこと言ってよ」


 僕が困惑していることを分かってか、それとも分かっていないのか、明日美はさらなる追撃を僕に繰り出す。

 正直、揺らいでいた。

 その言葉を信じていいか、信じたらいけないのか。

 でも、そんな甘い言葉で誘惑されてしまえばーー。


「ごめんなさい。自爆しました。途中で気付いて言い直したけど、バレました」


 思考よりも本能が口を動かして、真実を伝えてしまっていた。


「バカじゃないの?」


 その言葉に反応にするように返ってきたのはその一言だった。

 なお、冷たい視線はさらに冷たい視線となり、見なくても分かってしまうほど。


「怒らないって言ったじゃんか……」


 さっきの言葉を信じて言ったのに、と思いから僕はそうボヤく。


「怒ってないよ? 怒鳴ってないもん。どっちかって言うと貶しただけ」


 的確な言い方だった。

 明日美の言う通り、本当に怒っていない。

 感情も怒っていない。どちらかというと冷めているだけ。

 嘘はついていない。

 結局、愚痴ろうがボヤこうが僕は明日美にぐうの音も言わしてもらえないほどの敗北をした。

 それが現実だった。

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