親友と屋上で…… 3
なんで竜也が僕と明日美の繋がりを知ってるのか?
まずはそこから疑問だった。
一週間前にちょっとだけ会って話して、あとはLINEの方で会話することが多くなった。だから、接点なんてものは皆無に近い状態になっている。それに今ではこんな状況のため、接点はなおさら薄れているはず。
とりあえず僕はカマかけの類の可能性もあると思い、
「なんのこと? 意味がわからないんだけど」
ある程度、無難な返事を返しておくことにした。
その返事を聞いた竜也の反応は「ふーん」という割と信じていないような適当なもの。
「気のせいならいいんだけど、なんか最近交流出来たみたいじゃん? だから、もしかしたら付き合ってたりするのかなぁって思ってさ」
「どこの情報?」
「え? 俺の目」
「意味がなおさら分からない」
「だから俺が見たってことだよ」
「見たって何を?」
「北山さんがお前の家の方面に行く姿を、俺が確認した」
思いっきりお腹にブローでも食らったかのような痛みが僕の心を襲った。
ただ、言われてみれば、納得のいくものだった。
交流としては先ほど言ったようにLINEでのメッセージと通話でなんとなる。しかし、配信となれば別だ。少なくとも現在の状況ではどちらかが相手の家に足を運ばないといけない。だから、竜也の言うように家の向かう途中で目撃されれば、それまでの話なのだ。
迂闊だった。
そのことを僕も、明日美も考えていなかった。
しかし、そのことについて考えるのは後にしなければならない。
今は目の前の問題をどうにかして解決しなければならないのだから。
「たぶん別人なんじゃない?」
けれど、混乱している僕の頭ではこういうことが精一杯だった。
下手に何か言えば、ボロが出そうだったから。
「別人ねぇ。北山さんを見間違うってあり得ないだろ」
「……その自信はどこからくるのさ」
「同級生で二年連続同じクラスメートだったんだから嫌でも覚える」
「無駄に説得力の強い理由をありがとう」
「どういたしまして」
「とりあえず少なくとも僕の家じゃないよ。だって僕の家に来る理由がないんだからさ」
「そう来ますか」
「え?」
この瞬間、僕の中で嫌な予感がした。
予感が確信に変わるレベルで嫌な言い方だった。
『そう来ますか』なんて言い方は、全てを知っていて、僕の口からそれを聞き出そうとしている台詞だからだ。
竜也は僕が追い詰められていることを知っているのだろう。
少しばかり楽しそうに鼻歌などを歌い始めている。
「何が望みなの?」
皆まで語る必要なない。
それが僕の答え。
つまり、その内容を言い振らされる前に口を閉じなければならない。
そう買収だ。
竜也はそれを待ってましたとばかりに、指をパチンと鳴らす。
「そうだな。今日の昼飯を奢ってくれたらいいだろう」
「安いのか、高いのかよく分からん金額だね」
「俺からすれば高いと思ってくれたらいいよ。っていうか、詳しい内容を知りたいと言えば知りたいけど、付き合ってようが付き合ってなかろうが俺からすればどっちでもいい」
「甘いのか厳しいのかよく分からない発言しないでよ。とりあえず今の関係や状況を知りたいってことなんじゃないの?」
「そうそう。なんか面白そうじゃん?」
「僕は面白くない」
「俺は面白い。現状、透に逆らえる状況ではないんだから、俺と一緒で面白いだろ?」
拒否権すら与えてくれない強制だった。
まさかこんな変な風に脅してくるとは……。
僕は深いため息を溢しながら、ポケットに入れていたスマホを取り出す。そして、なんとなくLINEを開き、明日美のメッセージ画面を開く。
やっぱり無理だ。
今回の件を尋ねようと思ったのだが、まだ明日美には知らせない方がいいという気持ちが強くなり、スマホをポケットに戻す。
その一連の動作を見ていた竜也は不思議そうに首を傾げ、すぐにピンと来たように何か察したような表情をした。
「もしかして喧嘩中?」
「喧嘩……うーん、そういうわけじゃないんだけどさ」
「っていうか連絡を取るってことは、そういう仲ってこと?」
「大丈夫、付き合ってないから。僕としてもそこの領域は守ってるよ」
「……本当かー?」
「別に疑ってもいいけどさ」
「あ、その反応は本当だな。必死さも会話に対しての間もあかなかったし」
「なに、その僕の反応で確認するの。それ、あ……北山さんにも言われたんだけど」
僕の反応で確認する流れについて突っ込もうとした矢先、癖で名前呼びしそうになるのを慌てて名字読みに切り替える。
癖は怖い。
心の底からそう思った。
「明日美……ねぇ……?」
時すでに遅し。
竜也には名前呼びしていることがバレていた。
いや、慌てて言い直したけれど、あんなのバレるに決まっている。
そんなこと僕がこうやって別の人から聞き出そうとして、口を滑らせた時点である程度察することが出来るのだから。
「あー、もう! 分かったよ! 話せるところまで話す! だからからかうのはやめろ」
そう白状すると、竜也は満足そうに微笑む。
「それでいいんだよ」と口には出さないものの、竜也は僕にそう言ってるような気がした。
しかし、そう言った後、竜也はおもむろにこう言ってくる。
「ふざけて脅していてあれだけどさ、別に話せるタイミングで話してくれたんでいいぜ? 興味はあるけど、なんか色々ありそうだしな」
「それが一番の難問なんだけど?」
「難問って?」
「んー、色々あるってことだよ。ともかく他言無用してくれるなら、僕としてはいいんだけど……」
「それは昼飯奢ってくれるならする」
「今は手持ちないからあとで」
「承諾した。っていうか、つい最近ヘコんでたろ?」
「うん、ヘコんでた」
きっとそれはあの件のことだろう。
それ以外、落ち込んでいたことはないのだから。
ただ、それを竜也が知っていたことが驚きだった。
なぜなら、その時も普段通り接してくれていたからだ。
たぶん、変に気を使うよりも普段通り接していた方がいいと思っての判断からなのだろう。
「その時のことも含めてみたいな感じだし、透の気持ちが落ち着いてからでいいよ。っていうか、北山さんの反応含めてか」
「まぁね……」
僕は空を見上げながら呟く。
きっかけが出来ちゃったなぁ……。
状況が状況だけに連絡を取りたくなかったし、気持ちも落ち着いていないこの状況。
けれど、きっかけが出来てしまった以上は連絡を取らないといけないのだろう。
空は雲一つない晴天に対し、僕の心は曇り空。
なんとなく悩みがない空が羨ましく見え、ため息が自然と出てしまっていた。




