親友と屋上で…… 1
十二月。
寒さは増し、十一月にあった秋の雰囲気は完全になくなり、もう冬になっていた。
僕はそんな中、屋上に来ている。
正直言って寒い。
しかし、屋上がなんとなく居心地の良い場所になっていて昼休みはここにいることが多くなった。
それはこの場所で明日美に出会い、救われたことが一つのきっかけになっているからなのだろう。
けれど、その明日美とはあの日以降、会話をしていない。
それには色々と理由がある。
一つ目はお互いが話すきっかけを掴みにくいという状況であるということだ。
きっとあの時のことを軽く引きずっているからだと僕は思う。それすらもきっと一回の連絡で終わることなのかもしれないが、二つ目の理由で僕は連絡を取ることに迷いが生じている。
そして、その二つ目が今ちょうど期末テストの期間に入っているせいだ。
正直、僕は期末テストの期間に入るということをすっかり忘れてしまっていた。もし、そのタイミングさえしっかり取れていれば、配信は期末テストが終わってからでも出来たのだ。こんな期間が空くことなく。
ちなみに僕と明日美は学科が違う。
僕が商業科で、明日美が特進クラス。
実際確認したことはないが、少しテストの内容が違うらしい。
どれくらい難しいのか分からないけれど、さすがの僕もこの状況で連絡を取って、勉強する邪魔をする勇気はない。
正直、やらかしたなぁ……と思っている。
タイミングの悪さが絶妙的すぎて、僕として参っている状態だ。
その時、ポケットに入っているスマホから通知音が鳴る。
それはLINEからの通知音。
「たぶん違うよなぁ……」
僕はそれが明日美ではないと分かっていながらも、スマホを確認する。
電源ボタンを一度押し、通知画面から名前を確認。
やはり明日美ではなかった。
期待と違ったせいで僕の口からはため息が溢れる。
LINEを送ってきた主は友達の池波竜也。
中学生からの付き合いで、立ち位置的には親友になるのだろう。正直、意識したこともないし、卒業してからも付き合いがあるかどうか分からないのであやふやなところだ。
『要望のパンは手に入れた。今、どこ?』
内容は簡素なものだった。
昼休みに入る前の授業の前の休憩時間に 『ジャンケンをして負けた方が購買でパンを買ってくる』という勝負をして、僕が勝った。
つまり、これはそのパシリの任務が終わったという報告。
僕はスマホを操作し、今いる場所を打ち込む。
「屋上」
『すぐ行く』
僕の返信に対し、竜也の返信はすぐだった。
どうやらずっとLINEを見ていたのだろう。
その返事に対し、僕は既読スルーを決め込む。
どうせここに来るのだから、返事なんて無用だと思ったから。
それから5分後、屋上のドアが開く。
肩で息をしながら顔を出したのは竜也だった。
「お疲れさん」
その竜也に右手を上げながら、そう言って労う。
しかし、その労いの言葉に対してお礼を言われることはなく、
「なんで屋上なんだよ!」
と不満が飛んできた。
竜也が僕に言いたい不満の内容はすでに分かっている。が、それに対してすっとぼけることにした。
「不満か?」
「不満だよ!」
「なんで?」
「『なんで?』って……購買は一階だぞ? 屋上は三階……いや、登る階段が一段ふえるから四階か? どっちでもいいけど、なんで下から最上階まで移動しなきゃいけないんだよッ!」
「勝負に負けたから?」
「それはそうだけどさ! 俺が言いたいのはそういうことじゃないの!」
「じゃあ、どういうこと?」
「『なんで屋上にいるのか?』ってことだよ!」
「僕がこの場所を気に入ってるし、ここまでくる竜也が暑いかもしれないっていう、涼むにはばっちりかなって思った僕の優しさ?」
「寒いわ! 涼しいというより、ちょっと汗かいたせいで寒いわ!」
「冬だからな」
「そうだよ! 冬だよ! だから寒いんだよ!」
「冬、暑かったら地球ヤバいから正常で何より」
「そういうことじゃねぇぇぇえええ!」
空にまで響きそうなツッコミを入れる竜也。
ツッコミを入れる元気はあるらしいので、僕は少しだけ一安心した。
しかし、れ以上イジるのは可哀想なので、話を打ち切る。
「そんなことよりパンをくれよ。お腹空いた」
そう言って手を伸ばす。
「話を振ってきたのはお前だろッ! ったくよー!」
そう言いながら、竜也は僕に近づいて来て、二つある紙袋のうち一つを僕に渡す。
僕はその紙袋の中身を覗き、中身を確認。
中身には僕の頼んだコーンパンと焼きそばパンがあった。
「お、今日は二つともあったんだ。珍しいじゃん」
普段は僕の欲しいものが二つとも揃う確率は少ない。
焼きそばパンがなぜか構内で人気が高いため、品切れになる確率が割と高いせいだ。
毎回思うのだけれど、学生はなんで焼きそばパンを好きになる人が多いのか、と気になってしまう。
思い浮かぶのはエロゲーやギャルゲーなどの影響?
なんとなくそう思い浮かんだがたぶん違うのだろう。
偶然、ある人がハマり、そこから伝染して争奪戦が起きているだけなのだ。
そうじゃないと、こんな二次元みたいな流れが起こるはずがない。
「俺が頑張ったんだよ。だから俺に感謝しろ」
僕の言葉に竜也は右手の親指を立て、自慢するかのように自分を指す。
「感謝ねぇ。もし僕が同じ立場になったとして、同じように言ったら僕に感謝するの?」
「しない。だってジャンケンに負ける奴が悪いんだから」
「じゃあ、僕も感謝しない。んで、あれは?」
言葉のブーメランを突き付けた後、僕は竜也に向かって手を伸ばす。
それだけで僕が何を求めているのか分かったらしく、学生服の上着に手を入れ、缶コーヒーを一つ取り出した。
「これだろ?」
「正解」
僕は冷え切った身体を少しでもあっためるために、まず缶コーヒーを開け、一口飲む。
買ってからちょっと時間は経ったと思うのだが、缶の中はまだ熱く、思わず舌を火傷しそうになる。
その様子を見ていた竜也は、
「なにしてんだか……。落ち着いて飲めよ」
少しばかり呆れた表情をしながら、僕の隣に座る。
そして、もう一つの紙袋を開け、その中から焼きそばパンを取り出し、包装を開け、食べ始めた。




