失敗した帰り道 2
「本当にバカなんだから」
聞こえるか聞こえないかの小声が僕の耳に入ってくる。
もちろん、そんなことを言ってくるのは明日美しかいない。
だから、そちらの方へ顔を向ける。
明日美は顔をほんの少し赤くして、僕を睨みつけていた。
「えっと……ごめん……」
やっぱり僕は謝罪を言うことしか出来なかった。
そして、やはり無言の時間が訪れる。
きっかけを作ってくれたのに、それすらも僕は台無しにしてしまう運命らしい。
情けなさすぎて、少しだけ涙目になってきてしまう。
そんな僕を見かねてだろう。
明日美の足は止まる。
釣られて僕も足を止めて、明日美の方へ振り返る。
「やっぱり今日はもうお互いダメな感じだね」
「え? ダメ……うん、そうだね」
否定した方がいいんだろう、本当は。
しかし、僕は否定の言葉なんて思いつく余裕がなく、あっさりと肯定してしまっていた。
「だからさ、今日はここでバイバイしよう? そっちが二人とも気が楽だと思うの」
明日美から出たのは無難な提案だった。
いや、提案じゃない。
雰囲気的には本気でそう言って、僕に拒否権を求めているような状況ではなかった。
「そうだね。そうしようか。えっと、気をつけて帰ってね」
「うん。透も気をつけて帰るんだよ?」
「大丈夫だよ。一応、さっきその話をしたばかりだから気をつけて帰るに決まってるじゃん」
そう言って、僕は笑顔を見せる。
しかし、明日美は全然笑顔を返してくれなかった。むしろ、心配そうな顔で僕のことを見ていた。
「配信のことはまたLINEで連絡するね。じゃあ、バイバイ」
けれど、明日美はそのことに触れず、三回ほど振った後、それだけ言い残して僕を追い抜いていく。
「バイバイ」
僕も同じように手を振って、明日美の後ろ姿を見る。
人のことを言えた柄ではないが、明日美の背中が少しだけ寂しそうにしているような感覚を覚えた。
追いかけたい。
それを見た瞬間、僕はそう思い、右足が一歩前に出る。
が、それだけだった。
それ以上は僕は進めることが出来ず、ただその背中を見送ることしか出来なかった。
明日美もまた僕の方へ顔を向けることはない。
まるで興味がないかのように。
「気になってほしいのか……」
そのことに気が付いた僕は、僕が明日美にどう思って欲しいのか、そのことに気付かされてしまう。
しかし、それはもう遅い。
ダメな方へ進んでしまった以上、その方向へ持っていく自信を失くしていたから。
僕は情けない自分を軽く鼻で笑った後、自宅へ向かって歩き始める。
昨日と比べると、足取りはかなり重く感じた。
それだけ心が沈んでいることを感じながら、ついさっきまでの楽しかったことを思い出していた。
まるで過去の出来事かのように。




