帰り道 2
僕の独り言に反応するように、
「何が難しいの?」
と明日美が意地悪そうな言い方で僕の前に先回りするようにして聞いてきた。
明日美の歩みがなぜか止まっているため、僕の歩みも止められてしまう。
まるでその質問に答えない限りは、先に進ませないという行き止まりのような形になってしまっていた。
しかし、こんな風に尋ねられたところで僕はなんて言えばいいのか分からない。
「女心ってやつ?」
だからこそ、こんな曖昧な回答になってしまう。
明日美は「ふーん」と興味なさそうにしながら、僕に背中を向けて先を歩き始める。
「女心は秋の空って言うしね。たぶん透じゃ分かんないと思うよ」
「それは否定出来ないや」
配信の件でそれを味わっているため、同意することしか出来ない。
それに今の状況も。
なんとなく明日美が何か求めているものを分かっているもの、それを言い当てることが出来ない以上、結局分からないままなのだ。
「ば〜か」
小声だったが、明日美からその一言が聞こえた気がした。
「何か言った?」
しかし、はっきり聞こえたわけではないため、聞き返す。
「何が?」
その一言共に、明日美は顔だけを僕に向けるようにして振り向く。まるで何も言ってないかのようは反応で。
「今、何か言わなかった?」
「ううん、何も言ってないよ?」
「そう?」
「うん。空耳じゃない?」
「空耳……ねぇ……」
きっと違うのだろう。
確信に近いものがあったけれど、明日美本人がそう言う以上、追及することが出来ず、その発言を受け入れることしか出来なかった。
不意に周りを見れば、学校の近くへと来ていた。
僕は明日美の家の場所を知らない。
だから明日美の誘導に従って歩いていたのだが、まさか学校に辿り着くと思っていなかったため、ちょっとだけ驚いてしまう。
「どうしたの?」
「学校の近くまで来てるけど、もしかして明日美の家って僕の反対の方にあるの?」
「うん、そうだけど」
「……なんか前回はごめん」
まさか反対側だと思っていなかったため、色々と迷惑をかけた思い、口が勝手に謝罪の言葉を発していた。
同時に首から上だけも下げる。
明日美はちょっと困ったような感じで、
「ううん。気にしなくていいよ。押しかけた側だしね。それに私が行くカラオケも距離的にはこっちの方が近いからさ」
フォローを入れられてしまう。
「それはそうだけどさ。やっぱり悪いことをしたなって思うよ」
「なんとなくだけど謝ってばかりだね」
「そうかな?」
「なんとなくだけどね」
「んー、癖?」
「その癖は直しましょう。謝ってばかりじゃ、いつか蔑まされるよ?」
「努力する」
「『ごめん』より『ありがとう』。私はそっちの方が嬉しいな〜」
いきなり言われるお礼の言葉の強制。
僕はそのことに思い当たることが多すぎて、ちょっとだけ何に対してお礼を言えばいいのか、また困ってしまう。
その言葉がよっぽど聞きたいのか、明日美は再び僕の横に戻り、並ぶように歩き始める。しかし、その言葉を急かす様子はない。
僕が何に対してお礼を言うのか、それを待ってるかのようにずっと待っている感じだった。
まるで試されているかのようだ。
「いろいろありすぎて分かんないや。とりあえず、僕を励ましてくれてありがとう」
こう答えることが精一杯だった。
きっと今もそのために一緒にいてくれている。
配信も実は『自分がやりたいから』っていうのも嘘なんだと思う。
だから、この一言に全て含める形で答えた。
「どういたしまして」
明日美からの返事はその一言のみ。
けれど、表情は嬉しそうだった。
雰囲気だけだったが、今回は正解したっぽい。
少しだけ僕は安心することが出来た。
「さぁて……そろそろいいかな?」
不意に明日美がそんなことを言い出す。
流れ的に全く意味の分からない発言だった。
「何が?」
「ここまでで送るのはいいよ」
「え? 家まで送ってくよ? 最初からそのつもりだし」
「え〜……さすがに私がそれは遠慮するよ」
「どういうこと?」
「女友達なら別にいいけど、男友達に家までになるとストーカー化した際、危険じゃない?」
「確かに。って、僕はストーカー化しないけどね?」
「それは分からないじゃん」
「それは、そうだけど……」
まるで僕が明日美に惹かれていっているのを見透かしたような発言だった。
いや、自覚はあるけど、理性でなんとかなっている以上、それは明日美へ出していないはずだった。
もしかしてバレてる?
そう思わされてしまう感覚が僕を襲う。
だからこそ明日美の表情を確認するも、意地悪そうな顔も嫌悪を抱いた顔もしておらず、至って普通の表情だった。
「なんとなく分かってくれたみたいで何より。だから、ここまででいいよ。送ってくれてありがとうね」
「そこは気にしないくていいよ。明日美に何かあったら困るだけだし」
「大丈夫だよ。意外と私って強いんだよ?」
「その強いとはまた違うと思うけど……。でも無理強いは出来ないし、ここで帰るよ。じゃあ、また明日」
「うん、また明日もよろしくね」
そう言って明日美は僕に「バイバイ」と手を振ってきた。
僕も同じように返した後、そのまま背中を向けて、自宅に向かって歩き始める。そして、ある程度歩いたところで振り返った。
さすがにもう帰路に付いているだろう、と思いながら。
しかし、予想を反してまだいた。
警戒されてる?
ストーカーの話が出た矢先のことなので、『僕が家までついてくるんじゃないか?』と思われてしまっているのだろうか?
そんなネガティブな思考が頭の中によぎる。
けれど、そんなことを確認することは出来ない。
だから、再び僕は振り返り、自宅に向かって歩き出す。
今度は気になっても振り返らないことにした。
いきなり僕は身体をぶるっと震わせる。
それは急に寒くなったような気がしたから。
それが気温がさらに下がったせいなのか、それとも心の寂しさからなのか分からなかったけれど……。




