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帰り道 1

 外に出るとやはり寒い。

 昼間はまだ日が昇っているから、「まだマシなのかも?」と思わされてしまうほどに。

 そもそも、こんな時間に外に出ることの少ない僕からすれば、なぜか一段と寒いような気がしてしまう。

 だから、厚着はしていても自然と体を丸めてしまっていた。


「さむ……」


 僕は我慢出来ずにそう呟く。


「本当だね。今日は一段と寒いね。もし、このまま雨でも降ったら、明日の朝には雪が積もってるかも」


 隣で僕の独り言を聞いていた明日美は、そのことを教えてくれる。

 それに釣られるように空を僕は見る。

 残念ながら多少の雲はあるけれど、街灯の隙間からでも星が何個か見えた。

 どうも雨を振る気配はないらしい。


「明日も晴れのようだ。残念」

「え? 残念なの?」

「ん? だって雪、積もって欲しかったんじゃないの?」

「違うよ。もし、『この寒さのまま雪が降ったら?』の話だよ」

「かもの話ね。かもの話でも僕は降って欲しくないけど。雪に興味ないし」

「だね。私も雪は降って欲しくないかな? だって明日、来れなくなっちゃうし」


 明日美は明日も来ることを楽しみにしているらしく、ちょっとだけ寂しそうに呟いた。

 同時にその街灯の明かりのおかげで、白い息が見える。


「雪降ったとしてもずっと振り続けない限りは問題ないんじゃないかな? 少なくとも昼には晴れて、何事もなかったように過ごせそうだけど」

「それはそれでつまらないよね。朝、ちょっとだけ降って終わる雪なんて情緒も何もないから」

「情緒よりもコタツでぬくぬくしてたい。コタツないから布団の中で包まってるだろうけど」

「だよね〜。コタツでミカンは至高」

「僕はアイスで」

「アイスも捨てがたいよね〜」

「結局、みんなあったかい部屋でダラダラ過ごしたいってことじゃん」

「普通じゃない、それが」

「そうだね」


 別に面白い話題でもないけれど、僕は自然と笑ってしまう。

 こんな他愛ない会話で心は十分に温かさを感じてしまっていたから。

 何よりこんな会話でも明日美は楽しそうにしてくれていたから、なおさらだった。


「そういえば私、透のことほとんど知らないんだよね」


 呟きとも取れる質問が明日美の口から漏れる。

 しかし、僕のことを知りたそうに見つめていたため、遠慮しがちに聞いてきたのだろうということが理解出来た。


「僕のことねぇ……」


 正直、自分のことなんてなにを話せばいいのか分からない。

 だからちょっとだけ歩を緩め、夜空を見ながら考える。


「学年成績的には中の下、身長は普通ぐらい? 体重は秘密。『インドアか? アウトドアか』って聞かれれば、間違いなくアウトドア。趣味は適当。面白いことに食いつくタイプ。これぐらいでいい?」


 思いついたのはこれぐらいだった。

 そもそも、明日美が何を知りたいのか分からないので、これ以上のことを答えようがなかった。


「まるで合コンか何かの自己紹介みたい」


 ちょっとだけ呆れた様子でそういう明日美。


「じゃあ質問を受け付けましょう」

「好きな食べ物は?」

「ピザ」

「好きな動物は?」

「犬か猫。っていうか飼ったことないから分からない。可愛いとは思うけど」

「じゃあーー」

「待った」

「え?」

「それこそさっき言った合コンとかクラスの自己紹介じゃん」

「……言われてみれば。もうちょっと深いものを考えてみる」

「うん」


 結局、同じような質問になるのかぁ。

 きっと知りたい人物のことを聞こうとすれば、差し障りのないものを選んでしまう。

 それがまるで人間の本能かのように。

 たぶんだけれど、そうやってその人の性格や聞いていい範囲を見定めていくのだ。

 その人に嫌われたくないために。

 そう考えると、本当に人間は面倒な生き物だと感じてしまう。

 遠回りすることでしか、他人との距離を詰められないのだから。


「じゃあ、進路のこと聞いてもいい?」


 そんなことを思っていると、明日美はおそるおそるそう聞いていた。


「ん。別にいいよ」

「私は大学受験……推薦だから受かってるけど、透は?」

「おめでとう。さすがだね。僕は就職だよ。同じく受かってるけど」

「ありがとう! 透くんは就職か〜」

「ま、家庭の事情的にそうなるよね」

「そっかそっか、仕方ないよね。実家通いするの?」

「んー、どうだろ。母親も母親も大変だから一人暮らしするかも。経験するとしたらちょうどいいだろうし」

「そうなんだ。その言い方じゃあ、するとしたら四月から?」

「かも。まだ、そこまで詳しくは考えてないんだ。そういう明日美は?」

「私は……ん〜……一人暮らしさせてもらう予定ではいるかな。そういうつもりで説得はしてる」

「一人暮らし出来るなら配信し放題だね」

「配信を続けるかどうかは分からないけど、パソコンは必要だから買ってもらえると思うよ。透みたいに箱っぽいのじゃなくて、ノートだと思うけど」

「ノートでも最低限のことは出来るよ。だから大丈夫」

「そうなんだけどね」


 明日美は大きなため息を溢す。それと同時にさっきよりも大きな白い息が漏れる。

 雰囲気的には『透は何も分かってない』とでも言いた気な感じだった。

 そのことを伝わってるのは伝わってるけど、何を言いたいのか僕は全く分からない。

 僕が困っていると、その様子を見ていた明日美はちょっとだけ不満そうな表情になり、


「三月までになるのかな。私がもし配信を続けるまでの期間としては」


 と何かを試すかのように口に出した。


「僕の部屋でやれる、っていうのはね。僕がいなくても明日美に時間があるのであれば、いくらでも続けられるよ」

「……うん、そうだね。私のやる気があればね」


 言い方は先ほど変わらない。

 どうやら僕はハズレの回答をしてしまったらしい。

 何が正解の回答なのか、全く分からない。

 分からないけれど、これだけは付け加えておくべきなんだろうと思った。


「もし、何か困ったことあったら言ってくれれば行くよ。一応、手伝うって約束したし」

「本当?」

「休みの日ならね。仕事の日は無理かもしんない」

「それは分かってるよ、さすがに」

「とにかく僕たちが学生の間は時間がある程度取れるだろうから、頑張れるだけ頑張ってみればいいと思うよ」

「うん、頑張ってみる」


 気合いを入れるように、明日美は自分の拳をぎゅっと握る。

 けれど、僕の中での疑問は拭えない。

 不満そうな表情から少しだけ機嫌は良くなったように見えるが、まだ何か違う。

 僕に何かもっと言って欲しい言葉がある。

 それだけはなんとなく察することは出来たが、その言葉がなんなのか分からない。


「んー……なかなか難しい」


 そのことを考えていると自然とその言葉を漏らしてしまっていた。

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