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配信までの段取り 6

「じゃあ早速だけど、配信してみる? 一枠ーー三十分だけになると思うけど」


 時間は早いものでもう午後九時になろうとしていた。

 そんな長時間説明したつもりはないのだが、時間が経つのは早いものだと思わされてしまう。

 明日美もパソコンの前の時計を見て、少しだけ唸り、考え込み始める。

 時間的に遅いもんなぁ。

 一応、今回は送っていく予定なので一人で帰らせる心配はないから大丈夫だろうが、明日美の門限のことを考えると無理強いは出来ない。


「明日って大丈夫なんだっけ?」

「明日? 明日も大丈夫のはずだけど?」

「じゃあさ、明日また来て、放送させてもらってもいい? 私も心構えとかして起きたいし」

「それはいいけど……」

「やった! 今日は帰るとするね。あ……プリン食べるタイミングなかったね」

「あ……」


 僕もすっかり忘れてしまっていた。

 せっかく買ってきてもらったのに、手付かずのまま放置してしまっていたことに。


「どうする? 食べて帰る?」

「明日でもいいんじゃない? 配信終わった後に反省会しつつとか」

「反省会するのかどうかは分からないけど、そうしようか」


 僕はその意見に素直に賛同する。

 きっとそっちの方が今食べるよりも美味しく食べられると思ったからだ。

 そう言って、明日美は椅子から立ち上がり、手を天井に伸ばしながら、「んーッ!」と大きく背伸びをした。

 ずっと座りっぱなしだったからだろう。

 そこらへんの気遣いも足りなかったのだと少しだけ考えさせられる。

 自分の家ではない以上、緊張するのは分かるけれど、少なくとも配信してる最中はもっと緊張してしまうのだから、少しでも気楽にいてもらいたい。

 そう思ったからだ。


「難しいと思うけど、僕の部屋にいるときはもう少しのんびりしていいからね」

「え? あ、うん。ありがとう」


 僕が発言した意味に明日美は気付いていないのだろう。

 だから返事も疑問形で、少しだけ不思議そうに首を傾げていた。

 でも、それでいい。

 全部が全部、気持ちや想いを汲み取られていたら、僕の身が持たないのだから。

 僕は学習机の前に移動すると、机の上に置いてあるメモ帳の一枚を破る。そこに僕の名前を書き、セロハンテープでプリンの入ったレジ袋に貼り付ける。


「これでよしっ、と。じゃあ、これキッチンに持っていくけど、明日美はどうする? 玄関で待っとく? 今日は送っていくからさ」

「送ってくれるの? 嬉しいけど、別に無理しなくて……」

「前回の約束」

「あ、そうだね。それ、忘れてた。じゃあ、準備するね」


 明日美はどうやら忘れていたらしい。

 いや、忘れていたといより、気にしてすらいなかったという感じだった。

 だから、前回の件はほとんど流れで話していたことになる。

 それに振り回されたのかぁ……。

 なんとなく嫌ではないけれど、まだまだ明日美のことを知らないことが多い、と思い知らされる気がした。

 そんなことを思ってる最中に明日美の準備は終わる。


「おまたせ」

「待たせるも何も荷物ほとんど出してないからすぐだったね」

「結局出したのスマホだけだったから」

「たしかに」


 僕はそれに納得しつつ、僕の部屋のドアを開け、明日美を先に一階へと降ろさせる。

 その間に学習机の上に置いてある財布を持ち、クローゼットに入れてあるジャンバーを着て、部屋の電気を消す。一階へ降りると同時に玄関でヒールを履いている明日美に、


「ここで待ってて」


 それだけ言い残し、僕はキッチンへ向かう。

 冷蔵庫を開け、プリンが入るほどの適当なスペースを作り、そこに入れた後、玄関へ戻る。

 明日美はすでに履き終わり、僕が来るのを待っている状態だった。

 急いで僕も靴を履くと、玄関のドアを開け、再び明日美を出させようとする。

 そこで明日美は律儀にも、


「お邪魔しました」


 そう言い、家から出た。

 それだけでなんとなく僕は育ちの違いを感じさせられてしまう。

 僕だったら玄関を出た後、友達にだけそれを伝えるような感じで言ってしまうから。

 そのことに感心しつつ、僕は玄関のドアを閉め、鍵をかける。念のため、ドアノブを触り、ちゃんと施錠されているかの確認。

 ガチャと言って、ちゃんと施錠されていることの確認が取れると、


「じゃあ、行こうか」


 僕は明日見にそう声をかける。


「うん!」


 明日美は元気に頷いてくれた。

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