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エピローグ 2

「『私が卒業するまでは支援をするから、結婚するかどうかは卒業してから決めなさい』よ。卒業したら卒業したで、私が大変になるの分かってるくせに」


 明日美は居間に着くと、カバンを壁の端に置きながら、あの時の明日美のお父さんが言った言葉をそのまま言い放つ。

 雰囲気もまるでそっくりな感じで言ってくるので、僕はちょっとだけ笑いそうになったが、必死に堪える。


「しょうがないじゃん。僕一人の給料じゃ明日美を養うことなんて出来ないし、何より支援してもらった方が生活はそれなりに豊かになるんだから」

「今の時代、共働きでもしないと生活がしにくいのは分かるけど……それでも、なんか言い方が嫌」

「でも、それを納得しないとと同棲出来なかったんだよ?」

「そこだよ、そこ。まるでそこを人質に取ったみたいで余計に!」


 明日美の怒るのもよく分かるため、その気持ちは少しだけ同情出来る。

 あの時の状況下で出されたこの条件は、『拒否権がないものとして』出されたものであるため、有無を言わさず飲み込むことしか出来なかった。

 けれど、明日美の両親のことも考えると、その条件を出してきたのも分かる気がした。


 これもまた今の時代の特徴である『結婚したとしてもすぐに離婚する風潮』のせいだ。

 一人娘だからこそ、幸せな結婚生活を送って欲しいのだろう。だから同棲の段階で嫌な部分を見つけ、それを我慢出来ない以上は結婚は無理だと考えたんだと思う。そこで生活の支援をするというのは、そういうお金関連の問題で揉めないための配慮としての行動。


 そう思うと、やはり僕たちのことを認めつつもけじめ的な問題でしっかりしてくれてる以上、大人の考えというものを思い知らされてる気がして、僕は頭が上がらなくなってしまう。

 だから、現在の状況でやれるのは明日美の怒りを僕がなんとかフォローして、時間で解決するようにすることなのだろう。


「ともかくさ、明日美の両親を納得させればいいだけの話なんだから、そこを頑張ればいいよ。どっちみち明日美が一人暮らしするって思えば、その仕送りより安いものなんじゃない? バイトしてる暇なんてないと思うし」


 そう言いながら、僕は明日美に近付き、そっと頭を撫でる。

 未だふくれっ面のままだが、明日美は心の中に溜まった怒りを吐き出すように深く息を吐いた。


「そうだと思うけど……。ともかく見返してやるとは思ったの。だから学生時代にでも結婚出来るように、いつまでも仲良しでいようね? もちろん意見をぶつけ合うことも大事だけど!」

「分かってるよ。我慢もするし、溜め込まないようにするから安心してよ」

「それが分かってるならよろしい。私が就職したらしたで、最初はそんな余裕なんてないと思うし」

「まぁ……そこは未来すぎて分かんないから、なんとも言えないけど……」

「私には分かるの! お父さんが大変だった時期のことを考えると!」

「はいはい」


 僕には分からない明日美の家族事情を出してくるため、そう納得することが出来ない。

 子供の時に何があったんだろうなー。

 頑なにそのことを明日美は口に言ってくれないため、きっと色々と我慢させられる生活をしてきたという予想だけは出来た。

 けれど、その返しが悪かったらしく、明日美の機嫌がさらに悪くなってしまい、


「何その言い方? っていうか汗臭いから早くお風呂に入ってきて。私に触れてもいいのはその後!」


 と今度は体臭の件でも怒られてしまう。

 一生懸命働いてきたのに……。

 僕はそうは思っても、返事の返しが悪かったことは素直に認めることしか出来ないため、言われるようにお風呂場へ向かうことにする。

 その時だった。

 向かってる最中にいきなり明日美が後ろから抱きついてきたのは……。


「どうしたの?」

「……ごめん、ちょっと言い過ぎた。汗臭いとか言うものじゃなかった」

「その反省の速さなに?」


 さすがに展開が早すぎて、僕の思考は追いついていくことが出来ない。

 こればかりの女性の感情の問題とは分かってはいても、早すぎるからだ。


「いいの。ちょっと色々思うことがあったってだけ」

「そう……ともかくお風呂入ってくるよ。汗臭いのは本当だし」

「……うん。出たら、ちゃんと構ってよね?」

「分かってる」


 そう言って僕は明日美の腕の力が抜けた瞬間、隙間から抜け出すようにして出て、お風呂場へと向かう。

 風呂場に辿り着くと、洗濯機の中に来ていた服を投げるようにしながら入れていると、


「ねぇねぇ、夜に配信してもいいかな? 」


 扉の前で明日美が遠慮がちに聞いてきた。


「別にいいけど。でも、僕がいるのそろそろバレるんじゃない? 今のところ大丈夫だけど」

「そこはほら、アドリブでお父さん設定にするから」

「あ、うん。それでなんとなかなるならいいけどさ」

「やった! じゃあ、そういうことで!」


 結局、明日美は配信を辞めることはなかった。

 それどころか両親にもそのことを話し、様子を見ていてほしいと言う始末。

 何を考えているのかよく分からないが、明日美がそれでいいと思うのならそれでいいのだと思う。


「配信がきっかけで知り合ったんだよな……」


 色々ありすぎたため、僕はそのことを昔のことと認識してしまいそうになるが、まだ五ヶ月しか経っていない。

 そう考えると、きっとこれからも色々な問題にな直面に遭遇するのだと思う。

 でも、きっと明日美となら乗り越えていける。

 確証なんてものはないが、そう思えるだけの謎の自信が僕にはあった。


 幸せになる。

 言葉にするのは簡単だけれど、実現するのは一番難しい言葉。

 それを実現するだけの力はまだないけれど、それをなんとかしていきたいと僕は思っているため、きっとこれからも頑張っていけるだろう。

 明日美と一緒なら。

 そんな謎の自信が僕にはあった。



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