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僕と明日美と母さん 8

「そう言えばさ、透はいつ私の親と会う? お母さんにも言われたし、早めに済ませないといけないと思うんだけど」


 しばらくの間、身体を寄せ合い、幸福感を味わっていた僕と明日美だったが、唐突にそのことを思い出したかのようにそう聞いてくる。

 その発言に僕の心臓は軽く跳ね上がった。

 忘れていたわけではないが、そういう緊張することを忘れようとしていたせいだ。


「今、ドキってしたでしょ?」


 僕の身体とくっついていたせいか、明日美はそれを敏感に感じ取り、ワザとらしく言ってくる。

 けれど、忘れようとしてたことは分かっていないため、うまく誤魔化すことにした。


「そりゃ、いきなり言われたら誰でも驚くでしょ。報告が報告で大変そうだし」

「『結婚を前提に……』だからね〜」

「……普通に付き合ってるっていう報告ではダメなんだろうか?」


 明日美が期待していると知っててなお、僕は最後の抵抗を試みる。

 先ほど、『先のことを考えてくれてて嬉しい』と言っていたので、この提案の意味が伝わると信じて……。

 僕の提案に明日美は「ん〜」と軽く考え込んだ後、


「無理なんじゃないかな?」


 と客観的にそう言ってきた。

 まるで頭の中で何かをシュミレートし、それを考慮した末の結果として。


「えっとね? 私の個人的な気持ちを除いたとしても、きっとその報告が終わった時点で私の親か透のお母さんが話すと思うの。それで透のお母さんが『結婚の流れ』の話題を出したら、話の食い違いが起きてーー」

「家で僕が説教を受ける流れってことね」

「そうそう。だから、諦めた方がいいよ」

「明日美がそう言うんだったら、素直にそうする。きっとそうするほうが懸命な判断なんだろうし……」


 幸福感からいきなり絶望に叩き落とされたような感覚に僕はため息を思わず溢してしまう。

 そんな明日美は僕の気持ちを察してか、頭を撫で始めてきた。


「頑張ってね。それに私のお願いはもう一つあるんだし」


 トドメと言わんばかりに、明日美は笑顔でそう言ってきた。

 そのことをすっかり頭の中から抜けてしまっていた僕は、さらなる現実を叩きつけられてしまい、もう何も言えなくなってしまう。


「そんなショック受けないでよ。透には拒否権ないから頷くだけにはなるけど、メリットとデメリットを考えると丁度いいぐらいだよ?」

「メリットとデメリット? いったいどんなお願いをしようとしてるのさ」

「それは秘密。透にも驚かせたいから」

「あ、そう。うん、もう僕は黙って従うよ。それがいいや。うん、そうしよう」


 絶望というわけではないけれど、明日美の考えていることが何やら恐ろしい気がしたので、僕はそこで考えることを辞める。

 これ以上、そのことを考えてしまえば、きっと頭がパンクしてしまうと思ったからだ。


「ヤケクソにならないでよ。でも……あれだよ、付き合うこと認めてもらったんだから、幸せになろうね?」

「……急にまともなことをいきなり言うのやめよ? そんなの当たり前じゃん」

「当たり前なことをいきなり聞きたくなるのが女子だから」

「明日美の女子感を出すスイッチがよく分からない」

「そんなの気まぐれだもん。分かるわけないじゃん」

「気まぐれって……まぁ、いいや。一緒に幸せになるってことだけは変わらない事実だし」

「うんうん。それでいいの。頑張ろうね!」

「うん、頑張る」


 僕たちはそんなよく分からない励ましをしながら、この時間を過ごした。

 言葉に出してはいるけれど、現在のこの時間も幸せの一つであることだけは十分に理解して。


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