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僕と明日美と母さん 8

 僕の部屋に逃げてきた僕と明日美は、なぜか二人ともベッドの上で体育座りで座って、しばらく無言を保っていた。

 母さんの言葉のせいで甘やかすという行為がしにくくなってしまったせいだ。

 元々、母さんの部屋であんなことをした僕たちが悪いことは分かっている。しかし、それだけ気が抜けたという証拠でもあった。そんな状態であんなことを言われたのだから、不意打ちという意味ではダメージが大きすぎたのだ。


 しかも、あの発言よりも先に『孫の顔が見たい』とまで言われているのだから、なおさら変な行動が出来なくなってしまった。

 まったくどうすればいいんだよ……。

 この気まずい雰囲気をどうすれば解消出来るか分からない僕は、必死に頭を悩ませるもそれを解決する術を見出すことが出来ないでいた。

 そんな時だった。


「なんか、お互いに気まずくなっちゃったね」


 明日美が急にくすくすと笑いながら、首を傾げた状態で僕を見てきていた。


「ごめん。母さんのせいで。まさか、あんなことを言ってくれるとは思ってなかったから」

「ううん、大丈夫。逆にあそこまで信頼されてると、その期待に応えないとと思って、空回りしちゃいそうだよ」

「空回りしないで。普通でいてくれたらいいから」

「分かってる。例えだよ、例え! でも色々と許してくれて、私は満足だよ」

「それだけはが本当に救いだよ」

「それにーー」


 そう言いながら、明日美は僕の悪戯な笑みを浮かべてくる。

 その表情を見せてくる時点で、すでに僕は察することが出来た。


「結婚までしてくれるって話だしね〜」

「……言葉の綾なんだけどね」

「してくれないの?」

「さすがにそこまでは考えきれないよ。近い未来なのか、それとも遠い未来なのか分からないけど、少なくとも現在の僕には色々と無理」

「……ふ〜ん。そっか〜」


 明日美はそう言って、少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべる。

 あれ?

 僕はその笑みとは反対の残念そうな反応を取ると思っていたため、少しだけ驚いてしまう。

 こういう時、一般的な女子なら残念がりそうなものなのだけれど……。


「どうしたの?」


 そんな僕の反応に明日美が気になったらしく、そう僕に聞いてきたため、素直に訪ねることにした。


「普通、今の言い方だと女子の場合、残念がるものじゃないの?」

「ん? たぶん、残念がるんじゃないの?」

「でも、明日美は反対の反応してたけど、なんで?」

「そりゃ将来のことをちゃんと考えてくれてるからだよ。理想なんて口ではいくらでも言えるでしょ? 『幸せにする』とか『将来、養ってやる』とかさ」

「理想だからね」

「けど、やっぱり結婚って責任にも繋がるから、さっきの言い方の方がちゃんと考えてくれてる気がして嬉しかったの。理想だけ言うよりも、現在の自分を考えて言ってくれたから」

「そういうこと。さすがにそこまでは深読みはしてなかったんだけど」

「いいの、私の受け取り方の問題だから」

「じゃあ、そういうことで」


 僕はそれ以上、野暮なことを言わないようしておく。

 明日美が今の発言で満足しているのであれば、きっとそれでいいのだ。変な風に言って、今の状態からケンカをする流れを作ってしまう方が、なおさら気分的に悪い。

 そんなことを思っていると、明日美がゆっくりと僕との距離を詰め、隣まで来ると僕にもたれ掛かってきた。


「もう、さすがにお母さんいないよね?」


 さっきの二の舞をしたくないらしく、そう僕に聞いてくる。

 実際、さっき家の玄関の扉が閉まるような音が耳に入ってきたため、家に居ないはずだ。

 さすがにフェイクまでして、息子が彼女とイチャつく場面を見ようとする親はこの世に存在しないと思いたい。なおさら自分の親がそんなことまでしてくるなら、僕は縁を切ることまで考えてしまうほど、嫌だからだ。

 だから、僕は『家に母さんが居ない』と言うことを信じて、


「いないと思うよ。さっき玄関が閉まる音がしたぐらいだし」


 そう言って、持たれてきた明日美の方に手を回し、さらに引き寄せる距離などもうないのにグイッと引き寄せる。


「そっか。じゃあ、甘えてもいいよね。とは言っても、今日はこうやって持たれておくだけにしとくけど」

「うん。それが無難だよ。僕自身、今日は何かおねだりされても、さすがに限度を見極める」

「限度っていうとどれくらい?」

「んー……キスとか? 唇が触れるくらいの?」

「こんな感じの?」


 明日美は言い切ると同時に僕の顔に一気に自分の顔を素早く近付け、本当に軽く触れるくらいのキスをして離れる。そして、さっきと同じように体を僕に預けるように持たれる形に戻る。


「えへへ、限度いっぱいなことしちゃったね」


 なぜか自分の唇を指で触りながら、顔を真っ赤にして意地悪な笑みを作っていた。

 その仕草が可愛く見えた僕は、今のキスで顔が熱くなっているにも関わらず、胸までときめいてしまっているため、一気に恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだった。


「……バカ。甘えたいの分かるけど、いきなりは心臓に悪いって」

「こういうのはいきなりするからいいんだよ〜」

「する人は、ね?」

「うん、隙あればしようと思ってたからね。でも、今日はこれだけで満足しとく。本当にいつ帰ってくるのか分からないし」

「それが本当にいい。やましいことをしてなかったとしても、今の状態で母さんに会うのも気まずい」

「お互い顔真っ赤だしね」

「うるさい」


 その原因を作った張本人がそう言っているのだから、質が悪い。

 しかし、それを咎めることが出来ない僕はそれ以上、言わないでおくことにした。

 だって、幸福感に包まれすぎて、そんな良いとか悪いとかどうでもいい感情にもなっていたからだ。


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