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僕と明日美と母さん 7

「私の前だから良いものの、明日美ちゃんのご両親の前ではちゃんとしなさいよ? 変なことして、認められなくても知らないからね?」


 母さんはそう言って、僕に忠告してきた。

 そんなことは最初から分かっているつもりだが、実際緊張して明日美のように何をしでかすか可能性が十分あるため、不安になりながらも頷いてみせる。

 それを確認した母さんは今度、明日美を見て、


「頼りないかもしれないけど、透のことよろしくね。明日美ちゃんならきっと大丈夫だと思うから」


 僕とは違い、信頼のある言葉をかけた。

 明日美は母さんに認められたと分かったらしく、少しだけ恥ずかしそうにしながらも頷く。

 そして、母さんは今度父さんの遺影に顔を向ける。


「そういうわけだから応援してあげてよね。親友の娘さんと付き合うんだから、文句はないでしょ? 命をかけてまで守った子なんだし。さすがに応援してあげないと私があなたを許さないけどね」


 返事がないことを良いことに最後は脅しの言葉をかける。いや、最初から脅しに近い言葉だ。応援する条件がまず『親友の娘さん』と言ってる時点で、それ以外の言葉が見つからない。

 僕と明日美は思わず母さんのその言い方に空笑いをこぼす事しか出来なかった。


 そこで再び母さんと僕は目が合う。

 さっきまでとは違い、母さんの目は真剣そのものになっており、まるで重要なことを言い出しそうな雰囲気だったため、僕は目が離せなくなってしまう。


「何?」

「そう言えば、明日美のご両親に挨拶まだなのよね?」

「うん、まあ……明日美がさっき言ったようにまだだけど……」

「どうするの?」

「何を?」

「だから報告する時、なんて言うの?」

「え? 普通に『付き合ってます』なんじゃないの?」


 その返しに母さんはなぜか盛大にため息を吐く。

 呆れ返っていることを全体で表現しているかのようなワザとらしいため息のつき方。

 つまり、僕の今の返答はハズレという意味なのだろう。

 しかし、それ以外の返しが分からないため、疑問しか浮かばない。


「あんたねぇ……。今、父さんになんて言ったの?」

「父さんに?」

「明日美ちゃんでも良いわよ。むしろ母さんがさっき言ったでしょ?」

「さっき?」

「そうよ、明日美ちゃんなら分かるでしょ?」


 そこで明日美に話を振る母さん。

 僕が視線を向けると明日美は顔を真っ赤にして、スッと素早く僕の後ろに隠れて、その表情を母さんに見せないように移動していた。

 どうやら、明日美には分かっているらしい。


「えっと……不可抗力ですけど……言っちゃいましたよね……」

「ね。鈍感な息子でごめんね?」

「いえいえ……不可抗力ですし、私自身もああいうつもりはなかったですから……。そこまで望むのはやっぱり……」

「明日美ちゃんは自分の気持ちを大事にした方がいいわよ? それに父さんだって『守るものがあれば、男は強くなる』的なこと言ってたことあったから、今からそれがあれば、立派に育つかもしれないしね。そういうわけで透、まだ分からないの?」


 そこで僕にまた話が戻される。

 なんとなく察することが出来た。

 いや、この流れで分からない方がおかしいと言った方が正解なのかもしれない。

 けれど、それで本当にいいのか僕には分からない。


 覚悟の問題が強すぎるのだ。

 きっと、その覚悟は学生だけでなく大人になってからでも、なかなかか決めるのは難しいことなのだと思う。しかし、いつかは覚悟をしなければならない。それが早いか遅いかの問題なだけだ。

 だから、僕はその覚悟をしていいのか、明日美を軽く見る。

 期待しているかのような視線で僕を見つめた後、服の袖をギュッと握ってこられた。


 分かったよ。参ったよ。僕の負けでいいよ。

 その表情や仕草に不覚にも胸がときめいてしまった僕は、素直に負けることにした。

 このままで誤魔化したとしても、次の瞬間には無理矢理にでも覚悟を決めさせられることが分かっているのだから。

 というか、そういう表情をした悪魔(母さん)が目の前にいる。


「分かったよ。言いたいことは……あれでしょ、あれ」

「何よ?」

「『結婚を前提にお付き合いさせてもらってます』。つまりはこれを明日美のご両親に言えばいいんでしょ?」

「そういうこと。鈍感なんだから」

「うるさい。まだ高校生卒業してない息子にそんな覚悟をさせないでよ」

「私は別にどっちでもいいけどね。長引かせると明日美ちゃんに呆れられて、振られる未来しか見えないだけだし」

「……嫌な未来を想像させないで」

「それだけ魅力的な子が彼女ってことよ。ま、あとは頑張りなさい。さて、孫の顔が楽しみね」


 母さんは完全に舞い上がっているようで、それだけ言い残して自分の部屋から出て行き、再びリビングの方へ向かった。

 その発言を聞いた僕と明日美の間では気まずい雰囲気が流れてしまう。

 認められることは嬉しいのだが、まさか孫まで期待されるとは思ってはいなかったせいだ。


「なんかごめんね、母さんが」

「う、ううん……大丈夫だよ。認められたことは嬉しいけど、ちょっと早すぎるって感じるけど」

「そうだね。そこに関しては何も言えないけど……とりあえず色々解決してよかった。本当にお疲れ様」


 そう言って、僕は振り返ると明日美の頭を撫でる。

 その行為を明日美は受け入れてくれたが、それでは満足しなかったらしく、僕の胸の中に飛び込んでくる。


「頑張ったご褒美が頭撫でるだけで足りるはずがないでしょ?」

「……はいはい。今日は僕が甘やかす番ね。分かった分かった」

「分かればよろしい」


 明日美の甘えきった言葉で言った後、思いっきり抱きついて来ようとした時、


「悪いけど、母さんの部屋で甘えるのやめてもらっていい? あと父さんの遺影あるから、父さんも見てるかもしれないわよ? なかなか来ないと思ったら、まったく……」


 いつのまにか戻ってきた母さんの声が僕たちの耳に入り、音速という言葉が似合う勢いで離れる。

 しかも、母さんの言い分が間違っていないので僕たちは何も言い返せない。

 無言のままでいると母さんが、


「ともかく母さんはお邪魔みたいだし、ちょっとだけお出かけしてくるわ。というわけで部屋から出て行った出て行った。あ、するのはいいけど、ゴムはしなさいよね。持ってるかどうかは知らないけど」


 そんな不吉な言葉を言って、僕たちを部屋から無理矢理追い出す。

 僕と明日美はその不吉な言葉のせいで、正直しばらくの間、放心状態になってしまったため、その場から動くことが出来なかった。

 意識が戻った後、僕たちはお互いに顔から火が出るほど赤い顔をして、急いで僕の部屋に向かったのは説明するまでもないだろう。


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