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マニュアル冒険者  作者: 瀬田松 篤謙
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ひとりぼっちの

 僕が住む街は清流が街中を巡る、他の街と比べたら少し大きめの街だ。

 冒険者見習から、熟練者まで様々な人がこの街を拠点に暮らしている。

 街の外にはイノシシ型の魔物や、蛙型の魔物等々沢山の魔物がいるが、この街に近づく魔物はいない。

 それは大樹・地母神アロアからでる胞子で街が守られているからだ。

 アロアからでる胞子は街を包み込むように降り注ぐ。

 その胞子を魔物は嫌っているらしい。

 まあ。その代わり毎日胞子の掃除をしなければあっという間に街中が胞子だらけになってしまうが。

 

 僕はギルドに入り、一人でこなせそうなクエストを探した。

 冒険者を始めて半年。ずっと一人で闘ってきた。

 人と行動を共にするのが怖い。

 人と一緒にいると、イレギュラーなことが必ずといっていいほどあるからだ。

 一番怖いのは会話だ。

 冒険者駆け出しだった頃、三人組のパーティーに誘われて魔物退治したことがある。

 その時のトラウマは今になっても僕の心臓を抉る。

 僕は会話をするのが苦手だという自覚があったので、本屋で『会話スキル上達本』とか、『盛り上がる会話百選』といった本を買って読んだ。

 それできっと上手くいくと思っていた。

 だが……現実はそう簡単ではなかった。

 会話百選になかった会話。

 会話をふられるとどもってしまう自分。

 上手く情報伝達ができず、失敗してしまう連係攻撃。

 全て僕の責任でパーティーは気まずい雰囲気になってしまった。

 そのままギルドに戻り三人とは解散したが、それ以来誘われることはなかった。

 

 人が怖い。

 会話が怖い。

 だから一人でクエストに挑む。

 

 今日はイノシシ型魔物の退治をすることにした。

 本屋でイノシシ型魔物攻略の本を買い、少し読んでから街を出た。

 コンパスと地図を見て、魔物のいる場所を確認して進む。

 魔物の住処に到着すると、辺りを見回した。

 すると一匹のイノシシ型魔物が草を食んでいるのを見つけた。

 イノシシ型魔物は離れていると突進してきて、近くにいると牙で突き上げるような攻撃を仕掛けてくると本に書いてあった。

 僕はゆっくりとイノシシ型魔物の背後に忍び寄り、刀で尻を切りつけた。

 魔物は悲鳴をあげ、こっちを見た。

 その距離一メートル。この場合魔物は牙を突き上げる攻撃をしてくるだろう。

 そう思って待った。

 が、一向に牙で攻撃してくる気配がない。

 僕とイノシシは見合った。

 僕はどうすればいいか迷った。こんなの本に、マニュアルに無かった。

 そんな時、

「何やってるッ馬鹿が!」

 と怒声が飛んでくると同時に、一人の剣士がイノシシ型魔物を一閃して殺した。

「はやく逃げるぞっ」

 剣士はそう言うと僕の腕を掴んで走り出した。

 ハスキーな声だったので男性だと思っていたが、よくよく見ると女性だった。

「全くこれだから初心者は困る」

 彼女は怒気を帯びた声で独りごちていた。

 いや、間接的に僕を叱っていたのだろう。

 魔物の住処から離れたところで彼女は走るのをやめた。そして、

「お前。自分がどれだけ危険な状態だったか理解しているんだろうな」

 と、イライラしたように頭を掻きながら訊いてきた。

「いえ、すいません。何が危険だったかも分かりません」

 そう言うと、二重の凜とした目で睨まれた。

「あいつは最初の悲鳴で仲間を呼んでいたんだ。あそこら辺のイノシシは頭が良い上に人に対して大層な敵意を持っていてな。囮を使って仲間を呼び寄せ人をなぶり殺しにしようとしていたんだ。お前は運が良い。私が悲鳴に気づかなかったら、奴らの今晩の飯にされていただろうよ」

 全てを話し終えると彼女はため息をついた。

「大体なんで一人で狩りをしている。イノシシ型は特に連携による狩りを推奨されているはずだが」

「それは、その……」

 それ以上話すことができなかった。

 人と接するのが怖いとか、会ってすぐの人に話すことでもないと思ったからだ。

 だが、

「人と接するのが怖いか」

 彼女がそう言った。

「え、なんで……」

 驚いていると、彼女は鼻で笑った。

「私もそうだからさ」

 彼女はそう言うと街の方へと歩き出した。

 それを追うように僕も歩き出した。

「一体どういう理由で人と接するのが怖いのか分からないが、接する努力はすることだ」

 彼女はそう言って笑った。

 その笑顔はハスキーボイスと全く合わない夕日に染まる桜のような笑顔だった。

 そんな彼女に見とれそうになっていた僕は、肝心なことを訊くのを忘れていた。だから、

「すいません。あなたのお名前は」

「私? 私はアリス。そういうあんたは」

「僕はユアンと言います」

「ユアンか。いい名だ」

 二人はそれ以上何も話さず歩いた。だけど気まずい感じは無く、何だか落ち着く帰路だった。



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