デッド・ドロップ
「箱が、直ってる」
レオがそう呟くと三人の注目は箱に集めた。ドルーは見開いて呆然としていた。ジャネットも一瞬動揺を見せたが、すぐにいつもの悪戯っぽく微笑んだ。
「法具からすごい能力を出せたね。回復ね、レオ様って、ピュアだね。ぷっふふ」
ピュアだとどういう意味だ! レオは思わず顔をしかめた。しかし、回復とは。あまりにも復讐に向いていない能力だ。二人の反応を見ればどれほどすごいか分かるが、素直に喜べない。
「じゃ、紙も直してもらえ、ついでに俺の腕もな」
ふっと祈誓の時に思い出す。お姉さんを抱きしめたら肩から痛みが消えた。いろいろあったから気にしなかったが、その時気にすれば早くわかったかもしれない。
お姉さんに紙もドルーの腕も直してもらった。彼女はただ手に触れれば傷ついたものはわずか緑に光って元通りになる。しかし腕の傷は癒えても、それより古い傷は癒せなかった。だが逆に紙を癒しすぎたか、書いてあった文字が消え始めて、レオは慌ててお姉さんを止めた。ドルーが喜んで腕をストレッチしていて、レオは早速紙に残った文章を読んでいた。
【目撃者によるとミュールと取引の士官が逮捕されてタカラをなくした。情報漏れの恐れがある。関する情報を持つ者は直属の士官に連絡。以上の戦力ロスを回避するため、法王のアシを焼く計画は今日中に実行。戦闘員は直ちに直属の士官に会って出撃に参加せよ。演説は明日に変更。場所は――】
やっぱりレオの逮捕の情報はもう革命軍に届いている。だが法王のアシとは? 二日前までにヘストにいなかったレオは計画の存在すら知らなかった。それに運悪く革命軍が集まる場所の情報が消えてしまった。
「法王のアシがなんなのか分かるか?」
仕方なくドルーに聞いた。しかし、ドルーは興味深そうでレオを見た。
「知らないな、何かの暗号だろう。紙を貸せ」
ドルーが紙を掴み取って唸った。ジャネットはドルーの肩を登って彼女も読んだ。
「うわ、場所が消されたか。でもアシか、何らかの移動手段だろうな。厩舎、使者かな」
それを聞いてピンと来なかったレオ。他のところはない? アシは確かに移動する手段を示すことが多い。でもそれを狙って革命軍は何をしようとしている? 貿易妨害と考えにくい。人数少ない革命軍にヘスト規模の都市を消耗戦は愚策。あーだめだ。何も思いつかない。
「他の当てがないなら警備員を増えればいいじゃないか? 今日中に何か起こるって書いてあるし」
「そうだな、場所つかめないならどこに起こっても対応できるのが一番だ。思ったより積極的にやってるな、レオ。自分から全てのデッド・ドロップをバラす案が出ると思わなかったぞ」
レオは自分でも驚いていた。信用を得るためと言い訳はできても、レオはそんな事を考えてなかった。お姉さんがいて、いや、お姉さんの姿をした法具がいるから気が緩んでいる娘もしれない。
「ドルー様、私の意見を聞かないんですか? きっと面白い、じゃなくて、いいアイデアが――」
「いや、いい。警備署に行ってもっと警備員を回そう」
食い気味に止めるドルーに拗ねるジャネットから目を逸らすとレオはお姉さんにも聞いた。
「お姉さんは何か思いつかない?」
彼女は一瞬考えるように紙を見つめて、首を横に振った。レオはドルー達に視線を戻すと彼は微妙な視線を返した。
「な、お姉さんと呼ぶのは止めた方がいい。いざ武器化させる時が辛くなるだけだぞ?」
レオは硬直した。またお姉さんと呼んでしまった。ドルーの言葉に少し赤面し、照れ隠しのための質問で言い返した。
「なら教えろ、武器化仕方を。 なぜ辛くなる?」
少しの間の沈黙の後、ドルーが言い出した。
「そうだな、能力が有害じゃないと分かったし、そもそもお前を見て今じゃできない事が分かる。話してあげよう」
レオはできないと言われて腹立たしかった。だが、それより武器化に興味があったから何も言わずに続きを促すように前に屈んだ。
「法具を武器化するのに、人姿の法具を自分の手で殺さなきゃいけないんだ」