法具の姿は
準備が進んで、兵舎のベッドや鎧、生活費の金銭まで、それぞれを整えながらレオに最初の任務の詳細が説明された。革命軍が不明な目的で法具を集めっている。ベレリアから法具二つが盗まれて、そのうちの一つ、レオの法具がベレリアの政府の元へ戻された。だがそれで革命軍に関して情報は尽きた。法具を使って何をしようとしているのか、一体どれぐらい法具を持っているのかは把握されていない。手がかりと言える情報は首都のヘストに法具を密輸していたことだけ。その情報はレオが会うはずだった取引先かららしい。ドルーとレオの任務は革命軍の計画を暴いて盗まれた法具の奪還。
「それで、お前が手がかりになりそうな反乱軍に関する情報を持ってないか」
ドルーは自分のベッドに横たわりながレオに言った。くそ、死刑を免れて入団させたのはこのためだろう。
「もう一度言うが、俺は士官じゃないから革命軍の計画は知らせてないんだ」
「反乱軍な。お前はもうこっちの人間だから、革命軍と呼ぶのはやめとけ」
ドルーはベッドから起き上がり、向こうのベッドに座っているレオに威圧をしているような視線を送った。レオは一瞬ドルーの勢いに怯んだが、すぐに睨み返した。
「革命軍の、情報を持ってないが、見つける手段はある。だけどその前に、俺の質問に答えろ。なんで法具が俺の姉さんにそっくりなんだよ」
ドルーは忘れんばかりに「あ」と声を洩らした。
「法具はな、祈誓を行った人の一番大事な人の形をとるんだよ。明確な理由はわからないが、覚悟を持って使うため、とかそんな所だろう。よっぽど姉が大事だったんだな」
ドルーが慰めているのか、嫌味を言っているのかわからないレオは顔をしかめた。姉という言葉を耳にしたからか、上の二段ベッドからお姉さんにそっくりの神使が無言のまま、レオの顔を覗いた。姉の顔を見て表情が少し緩んだレオは誤魔化してまた質問をした。
「じゃぁ、ジャネットは」
「あぁ、俺の娘の姿だ」
レオは聞いて後悔した。彼は家族がいるのにこの騎士団に入団させられた。それを知りたくなかった。でも先でデイブがジャネットをミキと呼んだのは、娘の名前だからかな。
「なんか、お前も大変だな」
一瞬、「今は会えてる?」を言いそうになっていたが、別に知る必要もない。入団するのは仕方がなかったとしても、他の騎士と馴れ合いをしくない。お姉さんを見て動揺していた。でも今は冷静だ。彼女は俺のお姉さんじゃない。神使だ。祈誓を行った今は、法具を理解し、隙を作って、革命軍に戻る。ドルーは姉を殺した人は正義の神アヴェグに許される筈がないと言ったが、貢献すれば姉を殺した人を見つけると約束されている革命軍の方が信じやすい。できるなら法具使いとして革命軍に戻って、士官になりたい。それをなすため法具を理解しなければいけない。
「それで、法具は力になると言ったが、具体的にどうやって? お姉さんは平和主義者だったから戦力外なんじゃぁ?」
「それなら別に問題ない。それはお前のお姉さんじゃないからな。法具は人間の形と法具の形がある。祈誓をする前にお姉さんは短剣だっただろう? その形に変えられる。しかし、祈誓の後の今ではな、何らかの能力も得られているはずだ」
それを聞いてレオの心が弾んだ。短剣なら簡単に持ち出して革命軍の元に戻れる。
「どうやってお姉さんを短剣にできる、教えろ! いや、教えてくれ!」
ドルーは目を逸らしてから、レオを睨んだ。
「良かるぬ事を考えてるな。時が来たら教えるよ。そもそも人型の能力がわからないし、不意に真の力を使ったら被害が出るかもしれない。最初の武器化は桁違いのパワーを出すから、それで滅んだ町は一つや二つじゃない。さ、細かい事は現場で学ぼう。情報あるんだろう」
レオは肩を落とした。まだ油断していない。当然と言えば当然か。信用を得てから逃げるしかない。
「ち、分かった、教えるよ。ヘスト中に物や情報を交換できる場所が少々ある。法具の包みを渡す待ち合わせに出なかったから、デッド・ドロップに新しい待ち合わせの時間と場所の知らせがあるはず。それに他にも当たれば情報を手に入るかもしれない」
「なるほどな。んじゃ早速行こう。俺は新人を教えるより行動をとるのが好きだ」