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懺悔の儀式

 レオは馬車に撥ねられた気分で起きた。全身中に鈍い痛みを感じ、特に左肩が疼いて、動くのにやっとくらい。気だるく目を開けて、何もない薄暗い部屋に動く腕でレオは頭を抱えた。何があった? 記憶をたどれば確かに――


 あの娘の斬首の景色が頭によぎって、脂汗をかきながら弾んで起きた。それからどうなった? 最悪の結果だと思ってもいいだろう。短剣を無くして、何らかの牢獄に放り出され、大怪我している。逃げ場もなく、復讐せずに処刑される始末。嫌だ、ここで終われない、終わらせない。石を齧りついてもここから脱出して革命軍に合流する。


 レオは暗い部屋を見渡すと、一つの壁に仄かな光が見えた。近づくと光は鉄格子から洩れている。鉄格子はドアの一部で、部屋の穴がそれ以外にない。鉄格子を触って手を抜こうとした。鍵か掴みどころあるかな、って痛! 何かが指を潰した! 反射的に手を引いて、ドアの向こうから怒声が飛んできた。


「おとなしくしろ、クズが!」


 くずだと?! この腐った国の人から聞きたくない。


「だれがクズ? この盲信者メ!」


 ヘストにいるはほとんど正義の神、アヴェグの信徒だ。煽るのは造作もない。ドアの向こうから兵が熱くなっているのを感じた。


「んんだとぉお?! 正義の鉄槌を下すぞ!」


「あぁどうぞお好きに、外道ゴミ」


 警備員がブツブツと珍紛漢紛言って、ドアがガーっと少しずつ開いていた。


「遺言はなしだ、異端者! ってどこにいきやがった!」


 やっとドアが通れるぐらいに開けた刹那、ドアの陰からレオが警備員を突撃した。いい腕で腹パン一つと股へのパントキックでレオはさり気なく警備員を失神させた。よっしゃ! こんなにうまく行くと思わなかった。レオは牢室を出る前に頭だけ出して、左を見て、誰もいない。よし、じゃ右――


「おぉ、目が覚めたか、ちょうどいい」


 ドルーは手を振って始まったばかりレオの脱出作戦を終わらせた。包帯に包んだ片腕で姉のリュクを担いで、もう一つの腕でレオの腕を掴んだ。レオを押して、気絶している警備員に構わず廊を添え歩いた。


「どこに連れて行くんだ? って痛い! 人の折れた肩を引っ張るな!」


「決まっているだろうが、ベレリアは犯罪者全員が懺悔の儀式を受ける権利はあるからな。訳あってお前の儀式は公開の儀式と別にやる」


「……懺悔の儀式ってなんだ?」


レオは復讐のためにベレリアに入ったので習慣まで分からなかった。だが、ドルーはレオの質問に耳を疑ったように小指で耳をかいた。


「ベレリアの一番賛美される恒例だぞ? 正義の神、アヴェグの神使が直接審判し、懺悔するため適切な罰を与える。なぜお前が知らない、常識だぞ」


 過去を教えるか黙秘するか迷うレオだったが、処刑されるくらいなら、せめて事実を言ってベレリアへの信仰心を傷つけることができるかもしれない。


「五年前、ジェスタリア帝国の国境争いで俺が住んでいた村はベレリアの軍に侵略されて、家族を含めて、戦士住民問わず七割が殺された。だからこの国の習慣に詳しくない。それもお前の神の思し召しか?」


「五年前か」


 ドルーは歩くペースを落として手を顎に置いた。


「そもそも短剣を渡さないと殺す、と言ったのは誰だ」


「まったくだ。騎士の数は減っているとは言え、騎士団が弛んでるな。異端者かわからない奴に殺すだと」


「いや、お前が言っただろ」


しばらく歩いて、扉の前に止まる。ドルーはドアを開けて、何もない部屋で白い服を着た金髪少女二人がいた。二人も決して高くない身長で、扉の近くにいた方は髪が石床まで続いて、ドルーが殺してしまった少女と同じ水色の目をしていた。もう一人は部屋の壁に寄りかかり、緑色の瞳と金色の短髪、笑顔の少女だった。


「待ってたよ、ドルー。彼は犯人だね」


 ドルーはここでレオを審判すると言った部屋に入った後、短髪の少女はドルーに話かけて、扉に閂を入れて逃げないように扉の前に立つ。


「では、早速始めましょう。あなた、ここに座りなさい」


 長髪の少女は厳かに言って、部屋にたった一つの物、座布団、の少し前に指した。座布団の前に歩いて、座る直前、ドルーがレオを首で引っ張って、無理矢理冷たい石床に座らせていた。長髪の少女は座布団に座って、レオの手を差し伸べた。


「私は正義の神アヴェグの神使の一人、ジャネットと言います。懺悔の儀式で貴方の罪の全貌を考慮し、償うための罰を与えます。非協力的な行動は償いに影響するので、抵抗せずに私の手を掴んで儀式を始めましょう」


 他の選択肢がある訳でもなく、レオは素直にジャネットの手を掴めた。その途端、ジャネットの目は水色から白に変化して暗い部屋に明かりを灯した。その目は眩しすぎてレオの目が眩むのに、どうしてもそっぽを向けられなかった。そしてレオはまるで魂が吸い抜かれたように脱力感に襲われた。


「盗品所持、密輸、暴行、反乱共謀、逮捕の抵抗、どっちも重罪です。それに悪意も害意もあります……ここまでして死で償っては仕方ありません」


 憂懼が雪崩を打ったようにレオを覆った。していた事の重さを理解したつもりでいたが、いざツケが回ってくるととてつもなく絶望が湧いてくる。一番被害を受けているのは自分達なのに。


「貴方、自分の行動が何をもたらすか、理解してますか?」


 ジャネットは真剣な表情で促すように聞いた。


「いや、具体的までは……士官以上の人しか計画を教えられていない」


「密輸していた物が何だともですか?」


「掴まれかけた時に包みを開けて短剣だと分かった」


「そうですね。では、なんで反乱軍に入って、混乱を招こうと思いましたか?」


 また故郷の虐殺を思い出してベレリアへの恨み、何もできない不甲斐なさ、その時の感情の全てが怒涛の勢いで湧き上がる。しばらくの静寂が訪れて、気持ちが虚しくなってからレオはドルーと同じ説明をした。ジャネットはすでに知って、ただレオの口から聞きたかったように話を最後まで聞いた。彼女も彼の村への襲撃に何も言わなかった。


「そうでしたね。必要な情報をすべて整えました。レオ、あなたの行為はどの状況でも決して許される事はありません。しかし、あなたは強い正義感を持って状況を活かそうとしました。このすべてを考慮した上、懺悔に足りる懲戒処を選択二あります」


 レオは息を凝らした。


「自分の命を捨てるか、自由を捨てベレリア神政国家の特別騎士団の入団をします」


「えっ」「そうきたか」「ほお」


部屋の全員揃って驚いた声を洩らした。特別騎士団?


「どういうこと? 特別騎士団って何?」 


「ベレリア神政国家の騎士団の中に第三の秘密団体が存在します。その騎士団はベレリアの法王ではなく、私達アヴェグ様の神使から直接命令を受けて行動します。そして貴方が乱暴に振るっていた短剣は何千年前に作られた聖遺物、法具と呼ばれています」


 ジャネットはドルーへ向いて、レオも併せて向いた。彼はレオのリュックを持って、短剣を取り出してジャネットに渡した。


「法具の現状はこの通り、金属品です。しかし、神に忠誠を誓って、法具は神使の姿をとって神級の力を手に入ります。その力をアヴェグ様のために振う、特別騎士団です」


 俺が持っていたのはそんな大層な物だった!? 革命軍はそれを持ってどうするつもりだった。


「じゃあ俺が入ったらくれるのか?」


「はい、忠誠を誓った後、法具は神使に変態して、あなたの行動を監視も指導して、力の運用も節制させます」


「神使に変態って……つまりジャネットも……」


「はい、私は貴方が先に人質をとったつもりの少女です」


 嗜虐的な笑みが浮かぶのに堪えているように見えるジャネットを見るレオは顔から血が引いた。つまり彼女は……斬首された娘!


「つまり、ドルーは」


「あぁ、前にも言ったが、俺も特別騎士団の一員だ。そして、お前に遭って、何かを感じた。同類かもしれないとな」


「同類ぃ? 俺はベレリアが滅ぼしてほしい! 俺の村、俺の家族、俺のお姉さんも奪った命令を出した国だぞ? なぜ俺はそんな国の力にならなければ行けない! 死んだ方がマシだ」


「まぁまぁ、聞いてくれ。滅ぼしてほしい理由は分からなくはない。が、そんな意地はってなんの得もない。それに目標が大雑把すぎるだろう、まずは命令を出した人を見つけるとかから始まったら? 村ごと虐殺の命令を出す人も、直接殺った人も正義の神様の敵に違いないだろう」


 確かに、本当に正義の神様なら罪のない住民の虐殺を許さない。それは、本当に正義の神だったらの話だが。まだ俺の村、俺の家族、俺の姉さんの仇を取りたい。死んだらそれは叶わない。背に腹はかえられない。


「ち、わかった。入ればいいだろう。特別騎士団に入るよ」


「そうか、ではこの暗い部屋から移動して、もっと明るいとこに忠誠の祈誓を行おうよ! ほらジャネット、行くぞ」


「はい、ドルー様!」


 ドルーの神使、ジャネットがレオの目の前に斬首された子供の姿に変わった。それになぜか声まで子供っぽくなった。


「じゃぁロビーがいいかな。そこは明るくて広い」


「俺はどこでもいい、早く済ませたい」


 レオは儀式に興味ないが、法具に興味津々だった。法具って謎すぎる。ドルーと戦闘中にジャネットを殺した、でも何故かまだ生きている。それに革命軍がその法具を手に入って何かに使おうとしていた。一体どこで手に入った?


「じゃぁ決まりだな。サム、お前も一緒にレオの祈誓を見に行く?」


 ドルーはドアの前の少女に話しかけた。そういえば、ずっといたな。


「僕は、後で見に行くかな」


 彼女はジャネットに軽い敬礼をして、部屋を出た。彼女も特別騎士団のだろうか? でも法具はなかった。


「じゃぁレオは俺に付いて来い、みんなのところに行くんだ」


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