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動物と話せるのだ。僕は

作者: 数菜

動物と話すことができた。


大体の人は僕のことを頭がおかしい人だと思うだろう。

しかし本当のことなのだ。

僕が動物と話し、その動物の言った通りにしてやると、とても喜ぶのだ。


僕の部屋にはたくさんの動物が住んでいる。

窓辺には猫、寝床の枕のよこには犬が眠っている。机の上の鳥籠の中にはオウム。

他にもたくさんいる。


高校での僕のあだ名は佐々木だ。

名字が佐々木だから、そこから取ったそうだ。

自慢するわけではないが、僕は学年ではそこそこ有名人らしく、廊下を歩くたびに周りの人たちが僕の噂をする。

その噂も悪いものではないだろう。

決まって彼らは僕の話をする時は笑顔なのだ。

嫌いな者の話をする時に笑顔になるわけがない。


高校なので、わけのわからない授業が長時間あるわけだが、その時間は僕にとって退屈なものではない。

なぜなら、実は学校にも動物を連れてきているのだ。学生服のちょうど手をおろしたところにあるポケット、そこにハムスターを入れてきているのだ。

僕は授業中、そのハムスターを机の上にだし、教科書を立て、壁を作って、その内側で遊ばせる。

ほかの生徒はそのことを知っており、僕がハムスターを出すと皆その動物のかわいさに頬をほころばせ、笑顔になる。

皆も持ってくればいいのに、と思っている。


授業が始まって二十分程経過し、途端に眠気が襲ってきた。

昨晩、遅くまで犬と会話していた所為だ。

限界が徐々に近づいてき、ついには居眠りをしてしまった。

それが悪かったのだ。

先生が僕を起こさんと歩み寄ってきた。

僕の元に来る頃には起きたのだが、ハムスターを隠すには遅かった。

学校にペットを持ってくるなど、どれほど怒られるのだろうと身構えた。

しかし先生は、特に怒ることはなく、

「おい、起きろ、授業中だぞ。あとそのストラップ大きすぎじゃないか?」

そう言って先生は教卓に戻っていった。

どうやら、ハムスターをストラップと間違えたらしい。

ラッキーだった。


午後五時頃には全ての授業も終わり、帰途についた。

帰り道はいつもひとりだ。

嫌われているからではなく、他の同学年の生徒はほとんどクラブ活動に入っているのだ。

僕はクラブ活動よりも動物と話すほうが楽しいことを知っているので、そのようなくだらないことに時間をつぶさないのだ。


自宅に着くとすぐに二階へ駆け上がり、自分の部屋に入り、そこで待っていた動物に挨拶をした。

「ただいま」

時刻が六時ということもあり、空は暗闇で覆われていた。

僕は窓を開け、部屋の電気を消した。

室内は真っ暗になった。

暗さに目が慣れてきた頃に学習机についている引き出しを開け、三個のキャンドルとマッチを取り出した。

キャンドルを動物たちの近くに置いてやり、マッチを擦り火をつけた。

火からはなんとも言えぬ温もりが伝わってくる。

マッチに灯る火をキャンドルに移した。

三つのキャンドルは辺りを微かに照らした。

キャンドルから放たれる良い匂いが部屋中に漂った。

これらは僕の一日の疲れを取り去ってくれる、習慣だ。

動物たちと今日の出来事を話していると、一階から母の声が聞こえた。


下の階に降りると、どこかに出かけようとしている母親がいた。

「今日、しばらく会ってなかった友達とお食事に行くの。夕飯代は台所の机の上に置いてあるから、好きにしなさい」

そう言って母は家から出ていった。

父もまだ仕事で帰っておらず、自宅には僕ひとりだけとなった。


僕は机の上に置いてあった千円札をポケットに入れて、近所のコンビニエンスストアに行くことにした。

そのまま玄関に行くと、靴を履いて、大声で言った。

「行ってきます」


外の空気は乾燥しており、風が吹いていた。

しばらく進むと、目的のお店が見えた。

店内に入ると、温かい空気が僕を包んだ。

弁当コーナーでハンバーグ弁当を選ぶと、レジに持っていった。

温めて貰い、そのお店の隣に位置してる小さな公園のベンチで食べることにした。


公園のベンチは冷たかった。

買って来たお弁当を広げ、温かいハンバーグとお米を口に詰めた。

僕の口内は幸福で満ちた。

しばらく空に浮かぶ月をぼんやりと見つめながら食事を終え、家に帰ることにした。


動物たちと何を話そうか考えながら自宅へ向かっていると

ちょっと向こうで大きな明かりと、人の群れ、消防車が見えた。

どうやら火事があったらしい。


気になり、急いでそこへ向かった。


燃えていたのは僕の帰るはずだった家だ。


思考がパニックに陥り、上手く状況を把握できなかった。

荒くなる呼吸とともに、冷や汗が体中を這い回った。

すると、誰かが言った。

「おら、あの子!佐々木さんの息子さんよ!」


ドキリとした。脚が震えているのが確かに分かった。

消防士らしき服を纏った男の人が近づいていた。

しかし、頭に浮かんだのは、動物たちのことだ。

まだ、僕の”家族”は家の中にいるのだ。


気づくと、体は自然に動き出していた。

近隣の人々は、口々に

「あ!だめよ!危ない!」

などと僕の身を案じた言葉を吐き出すのだが、そんなことにかまってはいられなかった。


ごうごうと燃え上がる扉を蹴倒し、階段を駆け上がった。

煙を吸い込んでしまい、むせ返ってしまった。

袖で口元を覆い、さらに部屋へ進んだ。

自室の扉を勢い良く上げ、中に飛び込むと、激しい炎に包まれる動物たちがいた。

犬も、猫も、オウムも、その他の動物達も、全て燃えている。


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


嗚咽にも似た叫び声が出てしまった。

それと同時に目元から大粒の涙がこぼれ落ちた。


どの子も既に動かない。


膝から崩れ落ちると、そのまま床に手をつき、ただただ泣き続けた。


その時、外から誰かの声が聞こえた。

「あら!佐々木さん!!大変!!あなたの子!!!動物のぬいぐるみ取りに家の中入っていったのよ!!!」



誰だ、向かいのおばさんか?


ぬいぐるみ?


なんのことを言っているのだ。


僕の”家族”がまるでただの人形のような言い草ではないか。


まるで、人形。


目の前にあったのは、紛れもなく、紛れもなく。


ただの、人形であった。


「いつからだ????????????????????????????????」」」」」」」」」」」」


いつから、僕は、人形と、話していたのだ。

僕の周りの人間は、そのことについて、一切触れなかった。

僕は、馬鹿にされていたのか、ずっと。


懐に違和感を覚え、取り出してみると、中には綿の飛び出したハムスターの人形が入っていた。


何故だ。


次第に炎が体を蝕みはじめた。


熱さなどは、不思議と感じなかった。


薄れて行く意識の中で、消防隊員の意識を確認する問いかけなどが聞こえたが、それにはもう応えなかった。


僕は、僕は、僕は。


動物と、話せるのだ。僕は。



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