それぞれの1時間 その1
レイ達と別れたゼノスは気になったものをリュートに説明してもらいながら広いギルド内を歩いていた。
「リュート、この壁に貼ってある魔物が書いてある紙はなんだ?」
「それはクエストの紙だよ。その紙をクエスト受注カウンターに持っていくとクエストが受けられる」
「そうなのか。······じゃあこの部屋はどんな部屋なんだ?」
「あ、待ってゼノスそこは------」
リュートの制止を聞かずにゼノスは部屋の扉を開けて中へと入っていく。
部屋の中には数人の女性達がいた。
------下着姿で。
「なっ!」
いくらぜノスといえども女性の下着姿を見て恥ずかしくない訳では無い。
「「「キャー!!!」」」
「す、すんませんしたー!!!」
大声で謝りながら勢いよく扉を閉めたゼノスはリュートの服の襟を掴み、超高速でその場をあとにした。
これでは目立つのではと思うかもしれないがむしろ早すぎて誰も気付くことは無かった。
途中でハプニングがあったものの2人は一階を見終わったため、石造りの長い階段を登り、二階へと足を運んでいた。
二階は女性ものの普段着や女性の冒険者が着用する防具などが売られていて男性のものは無かったので
長居せずにすぐ三階へと向かった。
二階が女性ものだったので三階で売られているものは男性ものになっていた。
この階は薄くもろい安価な服から始まり、上質な糸を大量に使って作られた貴族が着るような高価な服まで幅広く取り扱っている普段着エリアと男性冒険者用の防具が売られているエリアのふたつに分かれていた。
やはり迷宮主ということもあってかゼノスが防具を見てみたいとリュートに要望を出したこともあり、2人はまず防具エリアの方へ行くことにした。
「そういえばリュートはあんまり防具着ないんだな」
「僕は防具を着ると動きづらくなるし疲れると思ってるから急所以外にはほぼ着ないね」
「俺も防具は着ない方だ。防具を着てなくても攻撃が当たらなければなんの問題もないからな」
「······それだとこれから防具エリアに行く必要なくなるね······」
「····ホントだ。まぁ 防具を着たい! っていうよりかは今この世界の防具を作る技術がどの程度のものなのかを確かめたいだけだから」
「そうなんだ。 理由はどうあれとりあえず防具エリアに行こう」
「おう」
こうして2人はときおり議論をしながら防具エリアでいろいろな防具を見て楽しんだ。
ゼノスとリュートがギルド内を見て回っている時
レイ、ライン、ルシアの3人はギルドのクエスト報告カウンターへと向かいクエストの報告をしていた。
「すいません、お願いします」
レイがそう言って受付嬢を呼ぶとまもなく受付嬢はレイ達の前に歩いてきた。
「クエスト報告ですね? お疲れ様です」
受付嬢はレイ達に労いの言葉をかけつつレイに次の
言葉を促した。
「はい。ギガンテスの討伐報告です。6人中3人帰還、3人死亡です。ギガンテスは討伐しました」
苦い顔をしながらレイはクエスト報告を行った。
その後ろにいたラインとルシアも苦い顔をしている。
今はまだゼノスの存在は隠しておいた方がいいと判断したレイはギガンテスは通りすがりの冒険者とともに討伐したということにしておいた。
3人の冒険者が死亡したことに受付嬢も暗い顔をして少し俯いていた。
少しの間を置き気持ちを切り替えたあと、クエストの報酬を受け取り報告を済ませた3人はそれぞれ別行動を取ることにした。
レイはギガンテス戦で長剣の刃が欠けてしまったため冒険者ギルド三階にある武器エリアへと向かい
ラインはギガンテス戦で使い物にならなくなった防具を買い換えるために二階の防具エリアへと向かった。
そしてルシアはアクセサリーなどの小物類が売られている四階へと向かっていった。
長い長い階段を登り終え、少し汗ばみながら四階に到着したルシアは腕輪の売られている場所へと足早に歩いていた。
実はルシア、ゼノスに助けてもらったことを誰よりも感謝していた。それと同時にとても胸の奥が熱くなるような感覚に襲われてもいた。
それが何なのか、まだルシアは理解していないがまずはゼノスに感謝の気持ちを伝えるために腕輪をプレゼントしようとしていた。
首を傾けながらうーんと唸りながらどれにしようか迷っていたルシアはやがて、商品棚の端の方にゼノスが気に入りそうな腕輪を見つけた。
さっそくそれを手に取り、会計カウンターへ向かい会計を済ませたルシアはすることがなくなってしまったため武器を買うつもりは無いがなんとなく三階の武器エリアに足を運んだ。
三階は武器エリアだけだが、非常に多くの武器屋が
連なっていて端から端までで700mほど長さがある大きな円の形になっていた。
「う〜ん、なんとなく三階に来ちゃったけどどうしよっかな?」
そんなことを呟いていたルシアの視界に兄であるレイの姿が入ってきた。
「あ、レイ兄さんだ!」
レイに合流するために走り出そうとするルシア、そんな彼女の背後に4人ほどの冒険者の集団が迫ってきた
「お〜いお嬢ちゃん?ちょっと一緒に来てくれないかな〜」
ルシアよりも遥かに体格の良いゴツゴツとした男の冒険者は欲望にまみれた表情でルシアを人気の少ない方へと誘う。
「誰ですか、あなた達は。行くわけがないでしょう」
凛とした態度で冒険者の誘いを断るルシアになおも冒険者は二タニタとしながら話をかける。
「おいおい、そんなこと言わないで一緒に行こうぜ〜? 強引に連れてっちゃうぞ〜」
その言葉に対してルシアは不快感をあらわにしながら
返事を返す。
「私、これでも上級冒険者なので。····あなた達が怪我しますよ」
ルシアは言葉だけでなく、一瞬魔力オーラも使って男達を脅しにかかる。
数々の戦いを経験してきた上級冒険者の魔力オーラというだけあって下級冒険者の魔力オーラとは訳が違う
ルシアの頭上にある天井はギシギシと少し軋むような音をあげ、近くに陳列してある鎧はカタカタと動いていた。
そんな上級冒険者の魔力オーラを肌で感じた男達は皆一様に膝をガタガタと震わせながら汗を滝のようにかいていた。
観念したか! とルシアが睨みながら魔力オーラを弱めると男達は ひいっ と、情けない声を出しながら我先にと逃げ出して行った。
「はぁ······」
ルシアはため息をついたあと、肩にかかるほどの綺麗な金髪を揺らしながら振り返りる。
残念ながらレイの姿はすでにルシアが見える範囲には
なかった。
もう追いつくことは無理だと判断したルシアはレイと合流することを諦め、近くの武器屋に入ってみることにした。
店内には灰色のシンプルな剣や、明らかに戦闘に向かないような沢山の装飾品が付けられている個性の強いハンマーなどさまざまな武器が置いてあった。
「これ、誰も買わないでしょ······」
ルシアは思わずそんな言葉をこぼしてしまった。
そしてその言葉を品並べをしていた店員に運悪く聞かれてしまい、ギロッ と睨まれた。
「あはは」
ルシアは苦笑いを浮かべ、店員の視線から逃げるように店を急いで出ていった。
「も〜〜〜今日はついてない!」
自分の運のなさにイライラして頬を少し膨らませ、足を床にだんだんしてしているルシア
その様子を周りの人たちが不思議な目で見つめているのだがそれにルシアは気づかなかった。
これからなにしよう、と思いながらルシアが近くにある時計を見てみるとゼノス達と別れてからすでに50分程の時間が経過していた。
「あ、もうこんな時間! 行かなくちゃ!」
時間の流れは早いな〜と心の中で呟きながらルシアは
冒険者ギルド一階へと向かって駆け出した。
途中少しこけた