地上、そして拒絶
「ちっ! 歯ごたえがなさすぎる!」
ゼノスのそんな声が静かになった迷宮に響き渡った。
魔物は本能的に自分より上のレベルの者を倒すこによって自分が種として強いことを示そうとする。
それは相手が迷宮主であっても変わることはない。
そのためゼノスも今まで数え切れないほどの魔物に襲撃を受けてきた。
しかしゼノスにとってはそれも人間の大人が幼児と戯れる程度のものでしかなかった。
ゼノスは別に戦闘狂という訳では無いため、なにか楽しめることがあればそれでよかった。
だが迷宮に戦闘以外することなどある訳がなかった。なのでゼノスは仕方なく魔物との戦闘で退屈を無くそうとしていた。
それも無理となっては不満も溜まっていく。
そしてついにゼノスの不満は爆発した。
「クソがーーー!」
不満爆発とともにゼノスの膨大な魔力が膨れ上がる。
それは頑丈な迷宮の壁や天井を軋ませるには十分過ぎるほどの量だった。
その魔力でゼノスは体を包み込み身体強化を施した。
そのままゼノスは見飽きた迷宮から地上へと出るべく
先ほどの白虎との戦闘とは比較にならない速さで駆け出していった。
本来迷宮主が自分の迷宮を置いてどこかへ行くなどあってはならないような事だがゼノスにそんなことを気にするような気持ちはもうどこにも残っていなかった
十分ほどの時間がたちゼノスは全500層からなる迷宮の最下層から地上へとたどり着いた。
そこでゼノスは今まで感じたことのなかった眩しい太陽の光を受け、視界を奪われた。
しかしそこは迷宮主、すぐさま視界を回復させる。
ゼノスは辺りをみわたした。
「っ!」
そこには見渡す限りの生い茂る草木に青い空、そしてそこを動く多様な形の白い雲
遠くのほうには高くそびえ連なる山々や、国の様なものもあった
山の上の方をおおっている白いものなんだろうか?
ゼノスは迷宮とは比較にならないあまりの美しい光景に声を出すことが出来なかった。
「これが········地上!」
360°広がっている見たことのない光景にゼノスはしばらく見入ったあと、我にかえった。
「楽しもう! これまで楽しんでなかった分まで!」
ついにゼノスは歩き、いや走り始めた。
走り始めてからまもなくゼノスはスキル《魔力探知》
を使用した。これにより魔力を持っているものは生き物か道具かに関わらず見つけ出すことが出来る。
そんな《魔力探知》に何かが引っかかった。
「これは····魔物じゃないな」
それが気になったゼノスは探知に引っかかった場所へと一気にスピードを上げて駆けて行った。
ちなみにこの時、ゼノスは地面をかなりの力で踏み切っていて、相当な規模で地面が抉れていたため、やばい魔物が出たのではないかとのちに近隣の国々の中でにちょっとした話題になるのだがそれはまた別のお話
目的地に到着したゼノスの視界には荷物を馬車で運ぶ人達の姿が入った。
さすがのゼノスでも地上のことを何も知らないまま旅するような馬鹿な真似はしようと思わない。
なのでゼノスは情報を集めるためにその人に声をかけようと近づいていき---
「ひっ! なんだお前は!」
震えながら剣を向けられた。
「おい、ちょっと待ってくれ。俺はただ地上のことについての情報が欲しいだけだ。」
「喋ったぞ! なんだこの凄まじいオーラの魔物は! やばい、早く逃げろ!」
「おいおい、俺を魔物なんかと一緒にするなよ····」
馬程度の速さで逃げてもゼノスが追いつくのは造作もないことだがあれだけあからさまに拒絶されては
話をすることも不可能だろう。
そう考えたゼノスは追いかけようとはしなかった。