国外へ
ちょっといつもより少なめかもです
あとかなり投稿遅くなりました。
現在、ゼノス、レイ、ライン、ルシア、リュートの五人は旅に出るために大掛かりな準備をしていた。
「よし、みんな忘れ物はないかな?」
「私は大丈夫です」
「俺も大丈夫っぽい」
レイ、ライン、ルシアが視線を交合わせずに会話をする。
「一番心配なのはゼノスでしょ」
そこへリュートが言葉をはさんだ。
「たしかにそうですね」
レイとリュートが二人一緒にゼノスを横目で見る。
「おいおいそれはないだろ。それに俺は持ち物なんてほとんどないし」
二人の会話をしっかりと聞いていたゼノスが反論する。
「ははは、じゃあ大丈夫そうだね」
レイはゼノスに笑顔でそう返した後、荷台の方へ顔を向けなおした。
レイの視線の先では、それぞれの私物が積まれている荷台とレイたちがこれから旅の間過ごすことになる小さな移動式の生活部屋がある。
さらにその先には引っ張るための調教された力のありそうな四足歩行の魔物がじっと出発の時を待っていた。
「・・・・・・みんな、そろそろ行こう」
リュートもレイと同様、荷台の方へ顔を向けてそういった。
「そうだな」
「そうですね」
それにゼノスとルシアが言葉を返し、五人揃って移動式の部屋の中へと入っていく。
大掛かりな準備をしていたために、いつの間にか五人の周りには野次馬が集まっていた。
「よし、動け!」
運転席に座ったレイが魔物に命令を出すと、魔物は少し唸り声をあげた後、ゆっくりと進み始める。
「おお!」
魔物が動き始めたことで、周りにいた野次馬たちは魔物の進行方向の道を開けた。
五人の乗った馬車は一直線にルルブス王国と国外の境界線である壁へと進んでいく。
「すげー。これ楽しいな!」
「ほんとですね! こんな体験初めてです!」
移動式の部屋の中では、ゼノスとルシアを筆頭に初めての体験に楽しさを覚えていた。
それはレイやリュートも例外ではない。
「二人ともうるさい。······まぁ気持ちはわかるけどね」
「凄いですね。景色が流れるように変わっていく」
数分の時が経ち五人はついに壁へ到着した。
代表として、リュートが予めギルド長のアストルから貰っていた証書を壁付近にいた兵士に見せる。
アストルから話は伝わっているのか、兵士は大げさに驚くような様子はなかった。
「これから長い旅が始まるんですね」
ごくりと誰かの生唾を飲む音が部屋に響いた。
「楽しみだな!」
ゼノスの瞳はこれでもかと輝いている。
そうして心の準備が終わったところで五人を乗せた部屋はルルブス王国の国外へと出たのだった。
国外に出てからしばし、強力な魔物に出会うようなこともなく今のところ五人は安全な旅を続けていた。
最初こそ引っ張るものの重さに慣れず、ゆっくりであった移動速度もやがて速くなっていき、気づいた時には、馬が荷物を引っ張って走る時の二倍ほどの速さで走っていた。
そんな早さにもかかわらず、五人の乗る部屋に大きな振動が来ることはなく快適な時間を過ごすことが出来ていた。
(多分魔法が付与されてるんだろうな。······高そう)
レイがそんなことを考えながらふとラインやルシアの方を見やると、二人の瞼はトロンとし始めていた。
(朝から旅の荷造りしてたし疲れたんだろうな)
レイは優しい笑顔を浮かべながら二人のもとへ近づいていくと、寝てもいいよと声をかけた。
「じゃあお言葉に甘えて」
「俺も······」
五分も経たないうちに二人は夢の世界へと落ちていった。
気持ちよさそうに寝ているラインとルシアを見ていたレイは自分の瞼も重くなっていくことを感じていた。
(流石に俺も寝るってわけには行かないしな)
パチンと両頬を軽く叩いて眠気を覚まそうとするレイだったが、それは上手くいかずいまだ瞼は重いままだ。
ダメだダメだと思いつつも襲いかかってくる眠気に対してレイはだんだんと押されていき、首がコクリ、コクリとしてから数秒後にはこちらも夢の世界へと落ちていった。
一方のゼノスは疲れなど知らないといった感じでしきりに窓を開けて身を乗り出しては外の景色を眺めたり風を感じたりしていた。
「風が気持ちいいな。リュートも風浴びてみろよ、結構気持ちいいぞ」
しかし、リュートの返事は聞こえてこない。
不思議に思ったゼノスがリュートの方へ振り返るとリュートは体育座りをして本を読んでいた。
「何読んでるんだ?」
ゼノスが近寄って話しかけたことで、ようやくゼノスの声に気づいたリュートがハット顔を上げてゼノスを見た。
「あ、ごめん。集中しちゃってつい」
それにゼノスは気にするなと顔の前でひらひらと手を振った。
「それで、リュートは今何を読んでるんだ?」
ゼノスが指を指した本には複雑な文字列がずらりと並んでいて、ゼノスとは相性の悪そうなものだった。
「これは、魔法について書かれた本だよ」
「それを読むと魔法が習得できるのか?」
「あーそれは魔導書だね。その本を読んだ者を魔法の習得まで自動的に導いてくれるものだよ。魔導書は出回ってる量が少なくて、尚且つ値段がかなり高いから手に入りにくいんだ。
それで、僕が読んでいるのは魔法書。魔法書は何をどのようにすればその魔法が使えるようになっていくのかが書いているだけの説明書みたいなものだよ」
「な、なるほどな。じゃあリュートは強くなるために魔法を勉強してるってことか」
「そういうことだね」
ゼノスの言葉を聞いた瞬間、リュートの脳内を、ブラックドラゴンに負けそうになった、いや、負けてしまった時のことが駆け巡った。
「強くなりたいんだ」
たったそれだけの短い言葉だったがその思いの強さはゼノスにしっかりと伝わっていた。
「········そうか」
リュートが固く手を握っているのをゼノスは少しの間見続けた。
そこでゼノスはあることを思いついた。
「なぁ、リュート」
「どうしたのゼノス?」
「リュートは強くなりたいんだよな」
ゼノスは真剣な顔でリュートの目を見てそう言った。
「········もちろんだよ。もうあの時みたいなことを繰り返したくない」
ゼノスの真剣な眼差しを受けて普段は眠そうにしているリュートの目もぱっちりと開いていた。
そんなリュートにゼノスがふっと微笑みながらある提案をした。
「そうか。なら毎日でも俺がリュートの練習相手になろうと思うんだがどうだ?」
「えっ?」
リュートは心底驚いた様子で、ぱちぱちと瞬きをしながらゼノスを見つめている。
「だから、俺が毎日でもリュートの練習相手をするって言ってるんだよ」
ゼノスは頭をガシガシとかきながら何度もいわせないでくれよ····と呟いている。
「いいの?ゼノス」
「いいさ、どうせ毎日暇だしな」
「········ありがとう!」
リュートは今までで一番の笑顔を見せてそう言った。
「おう」
それにゼノスも笑顔で応えた。
その様子を既に目が覚め始めていたルシアが薄目で見ていた。
(リュートさんいいな〜。私もその練習参加したいな)
結局、ルシアがゼノスに、私も練習に参加したいと言ったところをレイとラインが聞いていて、ゼノスは全員の練習相手をすることになったのだがそれは少しあとのお話。