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VSライデル、そして私兵の仕事

冒険者ギルドからほど近い場所にある訓練場。


作られた当初はしっかりと役に立っていたのだろう。


しかし現在、多くの者は人と戦って経験を積むよりも実際に魔物と戦う中で経験を積む方が良いと考えているため、中はポツポツと数える程の人数の冒険者しかいない。


そんな場所へゼノスと超級冒険者のライデルがやってきた。


さすが超級冒険者といったところかあっという間に周囲の者に気づかれていた。


そのうちの何人かがたたたっと訓練場の外へとかけていき、ライデルが来たことをペラペラと言いふらした。


その話を聞いた冒険者達が周りの冒険者や友人達に伝え、それをまた友人や近くの冒険者に伝えて、さらにその冒険者が周りの冒険者にということを繰り返した事で、今訓練場には珍しく冒険者一般人に関係なく、大勢の人々が入っていた。


「おい、訓練場にライデルさんがいるらしいぞ!」


「まじかよ! 訓練場にいるってことは誰かと戦うってことだよな?」


「行ってみよーぜ」


ひとりまた一人と話を聞きつけた者が訓練場に足を運ぶ。


次々と訓練場の中に人が入ってくるその様子をゼノスがキョロキョロと見る。そしてソワソワしながらライデルに話しかけた。


「なぁ、もうそろそろ始めようぜ?」


「そう焦るなゼノス。観客が多い方が楽しいだろ?」


「別にそんなことはないんだが········」


「俺が楽しいんだ」


「俺には分からないな」


互いの空いている距離を埋めるようにゼノスとライデルが大きめの声で会話をしていると、そこへある人物の声が届いた。


「ゼノスさーん!」


(この声はルシアか?)


ゼノスが声の聞こえた方へと顔を向けるとそこにはリュート、レイ、ライン、ルシアが立っていた。


四人の姿を見たゼノスがルシアの声に応えようと手を振りかけたが、さささっとリュートがゼノスのもとへと素早く移動し何かをゼノスの顔に被せにきたことでそれは叶わなかった。


「うお、リュート急になにすんだよ」


「今被せたのは仮面だよ」


そのリュートの言葉を聞いたゼノスは頭の上にはてなマークを浮かべながらリュートに問う。


「なんで仮面なんて被せたんだ?」


今の自分の立ち位置をまるで理解していないゼノスの態度にリュートは本日何回目かわからないため息をついてからこう言った。


「ゼノス、君はほんとに馬鹿だね」


「いきなりそんなこと言われるとちょっとカチンとくるんだが」


リュートのいきなりの罵倒にゼノスは若干イラッとしながら言葉を返す。


そんなゼノスの様子を気にせず、リュートは状況を説明し始めた。


「ゼノス、君が今から戦おうとしているのは世界に数える程度しかいない超級冒険者。そんな相手を君が簡単に倒したとなったらそのあとどうなると思う?」


「俺が強いと思われるんじゃないか?」


それがどうした?と言いわんばかりの顔でゼノスはリュートの返答を待っている。


「確かに強いと思われて注目を浴びると思う。それで大事なのはこのあとだよ。 もし、超級冒険者を簡単に倒したやつが冒険者登録もしてないやつだなんてほかの人達が知ったら········怪しいとは思わない?」


「知られなければいいんじゃないのか?」


「それは、多分無理だと思うよ。必ずどこからか情報が漏れる」


そこでゼノスがようやく仮面を被せられたことの意味を理解した。


「そうか、だから顔を知られないようにするってことだな?」


うんうんとリュートが頷いている。


「でもリュート、ひとついいか?」


「どうしたの?」


「もう充分顔見られちゃってると思うんだがいいのか?」


「··························」


ピューとどこからか風が吹いてきた。


しばし沈黙の時間が流れたあと、ぽつりとリュートが

言葉を零した。


「もう、目立たないようにするのはむりそう」


リュートは俯いたままゼノスの目の前までやってくると、優しくゼノスの仮面を外してさささっとレイ達のいる場所へと戻ろうとする。


「俺はずっと地上で目立たないように過ごしていかなきゃいけないのか」


その途中、悲しげな声でゼノスがそんなことを言っていたのをリュートは聞こえないふりをして戻って行ったのだった。















その数分後これでもかと見物人が訓練場へとやってきてようやく満足したのか、ライデルがゼノスに声をかけた。


「よし、ゼノスよ。そろそろ始めようか」


「やっとか」


ゼノス、ライデルともに軽く伸びを行ったあと戦いは唐突に始まった。


瞬き一つしているあいだに二人の姿は視界から消え

気づいた時には全く別の場所でゼノスとライデルが互いの拳と拳をぶつけていた。


ドン! 重たく硬いものが勢いよくぶつかったそんな音が訓練場に響き渡った。


「「「「おぉ」」」」


見物人達から大きなどよめきがおこる。


しかし二人はそのどよめきが聞こえていないのかはたまた聞こえていても全く気にしていないのか拳をぶつけては姿を消し、またぶつけ合っては姿を消し、と同じことを繰り返していた。


「ライデルさんと互角に渡り合うなんてあいつ何者なんだよ······」


誰かがそう口にした途端、多くの者が、まるでたった今まで、忘れていた言葉を思い出したかのように一斉に会話をし始めた。


無論、ゼノスの実力がこんなものでは無いことを知っているレイ達がそんな会話をすることは無く、戦いを観戦することに集中していた。


それからしばらくの間、工場で決まった作業を行うかのような状態が続いた。


しかしそんな時間にもとうとう終わりがやってきた。


ギアを上げたのだろう明らかにゼノスのひとつひとつの動作が速くなっている。


ライデルは既にゼノスの動きを捉えきれていないがそんなことはお構いなしにゼノスの動作はどんどん速さを増していった。


やがて目でゼノスの動きを追うことを諦めたライデルは魔法を使って何かを仕掛けようとし始めた。


コンマ数秒程で魔法をほとんど構築し終えたライデルの掌からは魔法を使用する時特有の輝きが放たれている。


そして最後に魔法発動の仕上げを行う。


その時ほんの一瞬、ライデルの意識が魔法構築に集中したことで隙ができた。常人にとっては隙があることにも気づけないようなそんな短い隙。


だが、今回の相手は運の悪いことにゼノスだ。


ゼノスの前ではその一瞬がライデルにとって致命的な隙になってしまう。


好機とみたゼノスが音速を超えた速さでライデルの大きな懐へと入り込み、今までよりも力のこもった拳を一発。


その一発で勝負は決した。


ゼノスの拳を受けくの字になったライデルは重力の影響を受けていないかのように訓練場の天井へと速さを変えることもなく一直線に突っ込んでいった。


ライデルがぶつかったことで、天井からはパラパラと無数の塵が落ちてくる。

··········ついでにライデルも落ちてきた。


その光景を限界まで目を見開いて凝視していた見物人達はライデルの敗北を視認してから十数秒のタイムラグを経て、各々会話をし始めた。


「おい、まじであいつ誰だよ? あんなやつ今まで冒険者ギルドで見たことないぞ」


「強すぎて尊敬どころかこえーよ」


「誰かあいつの名前わかるヤツいねーのか」


「確かさっきライデルさんがゼノスとか言ってた気がするよ」


一度起き始めたららとどまることを知らない会話の大嵐がゼノスを囲む。


そんな中でレイ、ライン、ルシア、リュートの四人はゼノスが大注目されている現状をどう打破するかを考えていた。


(この状況をどうすれば変えられるんだ。逃げたら怪しまれるだけだし、··········だめだ全然思いつかない)


万事休すといった様子の四人は黙ってゼノスの方を見ていることしか出来ない。


するとそこへ先ほど見たばかりの人物が訓練場に姿を現した。


「皆の者! 静粛に」


その人物はたった一言で訓練場の空気を一変させた。


「ぎ、ギルド長!?」


見物人の中でも冒険者はとくに緊張しているように見える。


その冒険者達の態度にうむと頷くと、アストルはゼノスを呼んだ。


「ゼノス、ちょっとこっちに来てくれ」


「ああ」


ゼノスはアストルの呼びかけに軽く言葉を返したと、しゅんとアストルのもとへ移動した。


アストルは自分のもとにやってきたゼノスの頭にぽんと手を乗せると風魔法の応用で声を遠くまでしっかり届くようにしてからこう言った。


「皆こいつが誰かかなり気になっているじゃないか?」


訓練場内にいるの人達全員がその言葉にうんうんと首を縦に振っていた。


「そこでこいつの正体について皆に教えておこうと思う」


それを聞いた途端レイ達四人がぎょっとした表情でアストルを見る。


「ギルド長、ほんとにいうつもりなの?」


アストルの意図が分からないリュートがそう聞くと

アストルは大丈夫だ。と目で訴えてきた。


アストルを信じることにしたリュートは黙って三歩程

アストルから距離をとる。


そんな二人の会話を見ていた者達が目の前でアストルと話している人物がライデルと同じく超級冒険者であるリュートだということに気づきとても驚いていた。


ざわつくことを予測したアストルが先に手を打つ。


「リュートがいることに驚くのは分かるが今は静かにしなさい」


その一言で沈黙は保たれた。


一度咳払いをすると再びアストルはゼノスのことについて話し始める。


「それでこいつのことだが、こいつは冒険者登録をしていない私の私兵だ」


「私兵········」


誰かがそんな言葉を呟いたがアストルは気にせず話を続ける。


「実は今回、こいつにある指令を出そうと思って招集をかけた」


ギルド長直接の司令とはいったいどのようなものなのか、その場の全員がその内容に興味があるようでアストルの話の続きを待っている。


「その司令の内容は···················」


ゴクリと誰かが生唾を飲んだ音がやけに大きく聞こえた。


「内緒だ」


その言葉を聞いた途端多くのものががくっと膝を曲げてよろけていた。


それはレイ達も例外ではなかったようだ。


そんな様子をみてアストルが見た目に全く似合わない小悪魔めいた顔でくくくと笑っていた。


しかしアストルは特技の高速切り替えで顔をキリッとさせると終わりの言葉を告げる。


「話は以上だ皆の者、解散したまえ」


気になるわーとかなんだよ〜などといったことを呟きながらぞくぞくと訓練場をあとにする見物人達。


そうして最後の一人を見届けたあと、アストルがゼノス達の方を向いた。


「さて、ゼノス。君にはこれから本当に私の指令を受けてもらう」


「それは断れないのか?」


被せ気味にゼノスがアストルに聞くがアストルは首を横に振って無理だということを伝える。


「君がこの世界をそこそこ不自由なく動き回れるのは誰のおかげなのか忘れてはいけないと思うのだがね」


「······お前、悪い性格してるな」


「好きに言うがいい。それで私が出す指令だがゼノス、君にはこの世界の迷宮を制覇してもらう」


「迷宮制覇か。面白そうじゃないか」


ゼノスはアストルの指令を快く受けようとしているがレイ達はそうは思わなかったようでアストルに話をかけた。


「待ってくださいギルド長。なぜそんな指令を?」


「ホントだよギルド長。わざわざなんでその指令を出したの?」


一度に二人が話しかけてきたところでアストルが両手を少しあげてまぁまぁ落ち着けと言っていた。


「せっかくこんな強い奴がいるだ。今のうちに迷宮の未探索地を調べてもらいたいじゃないか」


「それ、完全にギルド長の研究欲だけだよね?」


「そんな訳なかろう」


ジト目でリュートがアストルを見るとアストルは少し視線逸らしながらそう言った。


「·······絶対そうじゃん」


「いいんじゃないか、リュート。面白そうだしな!」


そんな感じてわらわらと細かな話が続いたあと結局、ゼノスが迷宮制覇の旅に出るということが決定したのだった。

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